INTERVIEW 016 | SATIS

楕円の天井の家

設計:村山徹+加藤亜矢子/ムトカ建築事務所 | 建主:Mさま

楕円の水平面(中2階)の上から見る。右側は外部。窓からの眺望も格別。

楕円の水平面(中2階)の上から見る。右側は外部。窓からの眺望も格別。

この家は築20年、建築家が設計した建物のリノベーションです。中古で購入された建主がムトカ建築事務所に依頼をしたものです。購入時点からリノベーションを前提に購入されたとのこと。リノベーションは専門の会社に設計施工を頼もうかと思い2つの会社から提案してもらったものの、どうもピンとこず、建築家に頼んでみようと設計者を雑誌の中から選んだそうです。設計者選びには建主のご主人が数ヶ月間も図書館で建築雑誌を見ながら研究し、ムトカ建築事務所の作品を見て、このお二人ならきっと良い提案をしてくれるに違いないと決めたそうです。奥さまはムトカのお二人に初めて自宅を見ていただいた時に、こんなに丁寧にヒヤリングをして、建築を隅から隅まで見て楽しんで行く様子や、そこで話す様々な会話や発想を聞いた時に、この人たちならきっと、今まで見たことがないようなプランを提案してもらえると思ったそうです。

1F

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2F

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天井裏

天井裏(クリックで拡大)

断面図

断面図(クリックで拡大)

一つを加える

この家は写真のように、もともとの大空間の高さ1.8mのところに楕円形の天井を差し込んだこと、キッチンの背面にオープンカウンターをセルフビルドでつくったこと、その2点が大きな変更点です。二人は予算も限られているので、たった一つ加えることで空間を変えられること、問題を解決できることを考えたようです。もともと伸び伸びとした大空間であって、それはそれで大胆で演劇的な空間ではあったのですが、暮らす人にとってはどこか居場所がないような感じを持ったそうです。また南へと伸びていく片流れの天井は広がりがあるものの重心が南へと偏ってしまい、拠り所のない感じがしたそうです。また引っ張られた先の南側の開口面には木の筋交いが入っていて、その先のベランダとの行き来を邪魔していました。以前お住いの方もバルコニーを使っていなかったようで、すでに撤去されていたのを復元したそうです。楕円を家の中につくることで中心性を作り、重心を家の中につくりながら、さらに鉄骨造の薄い水平剛性面を作ったことで家の強度も増し、南側のベランダに面した窓にあった筋交いを取り除くことができました。それにより外部との繋がりがより強くなりました。特に追加した天井の上に座って外を眺める景色は格別です。隣地は公園になっています。上部のサッシを解放することで風通しがとても良くなりました。

お子さん達もこの場所がお気に入りの様子。

お子さん達もこの場所がお気に入りの様子。

キッチンの裏側にはカウンターを新たに増設。

キッチンの背面にカウンターを新たに増設。

2階リビングからの見上げ。

2階リビングからの見上げ。

キッチンの上部は棚としても使っている。

キッチンの上部は棚としても使っている。

階段の手すり、一文字書きで作られている。

階段の手すり、一筆書きで作られている。

公園側からの眺め。このベランダは20年前の状態に復元された。

公園側からの眺め。このベランダは20年前の状態に復元された。

この楕円は、円形から始まり、その後楕円に、最終的にはスーパー楕円という、より長方形に近い楕円形の形に落ち着いたそうです。より水平面を少なくし、開放感を持ちながらも力学的に安定した水平面をつくり、そして中心といっても正確には一つでなくいくつもの中心性が生まれることを考えたそうです。また、むきだしだったキッチンにも背面カウンターができることで、料理をするときの居場所も落ち着きが出たようです。

取材風景、(左)村井さん、(右)加藤さん

取材風景、(左)村山さん、(右)加藤さん

もともとの作品へのリスペクトも持ちながらも、そこへたった一つのパーツを加えることで見事に空間のありようを変化させました。素晴らしいクオリティの建物であったこともありますが、それを否定するのでなく、その空間の特徴を生かしながら手を加えるという若い建築家の姿勢にも共感します。さらには、この二人の建築家を選んだご主人の選択眼も見事だと思います。映像のクリエーティブの仕事をしているというご主人です。そうした方だからこそ、この二人の感性を汲み取ることができたに違いありません。はじめの建築家、そして建主のご夫婦、ムトカのお二人、この3つのチームの見事なコラボレーションが実現したのだと思います。

設計者のお二人に床に座ってもらった。

設計者のお二人に天井の上に座ってもらった。

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公開日:2020年03月25日