INTERVIEW 033 | SATIS

延焼ラインが作る円弧の外壁のある家

建築家:宮武壮太郎+西澤徹夫|建主:Tさん夫妻

リビングからの風景

リビングからの風景

世田谷にある家、祖父の時代から所有していた敷地を一部売却して残りの敷地に新築した住宅です。土地は角地で2方向が道路という好立地な敷地です。シンプルな平面計画ですが、角に建物を斜めに配置することで見た目には方向性のわからない家となっています。今回は設計者の一人である建築家の宮武壮太郎さん、そして建主であるTさん夫妻にお話を伺いました。

建築家の宮武さんとTさんは中学高校大学のサッカー部の先輩後輩の関係で、なんでも知っている仲とのこと。いつでも優しい先輩というのがTさんの印象だそうです。また宮武さんはデンマークに留学、Tさんは建築にも大変興味があることと、インテリアは北欧デザインが大好きという、宮武さんにはとても近い関係でした。

取材中の宮武壮太郎さんとTさん夫妻

取材中の宮武壮太郎さんとTさん夫妻

玄関側から庭を眺める

玄関側から庭を眺める

まずは外観の半円形の外壁に驚かされます。実はこの円形は隣地との延焼ライン(※)から生まれています。通常平面的に考えるラインですが、それを立体的に考え、斜めに配置したことで自然と生まれた円弧です。隣の敷地から遠のくほどに薄く、近づくほどに厚くなるという理由です。こうした一見表現のように思えるデザイン要素が、徹底した数値から論理性に基づいて、その先に創造性へと繋げているということがこの住宅の建築的特徴です。家の中からはこの半円形の垂れ壁の形はあまり意識されません。それよりも隣地との視線をうまく遮り、開いているのに外の景色がうまくコントロールされているという感じです。強い色で塗装された天井も中にいると全く気にならないどころか、日本の古い伝統的な家のように天井が暗く、床が明るいという効果を生み出しています。垂れ壁のある軒の天井も内部と同じ高さになっていて視線が止まることもありません。
※ 隣の家や道路から火災が発生した際、炎や熱が燃え移る可能性が高い「危険な範囲(延焼のおそれのある部分)」

1階 平面図

1階 平面図(クリックで拡大)

2階 平面図

2階 平面図(クリックで拡大)

断面図

断面図(クリックで拡大)

散歩しているかのような気分になる螺旋階段。

散歩しているかのような気分になる螺旋階段。

2階 階段から子供部屋へ

2階 階段から子供部屋へ

子供部屋から吹き抜けを通して奥の主寝室を見る窓越しに通りを見る

子供部屋から吹き抜けを通して奥の主寝室を見る窓越しに通りを見る

子供部屋から通りを眺める

子供部屋から通りを眺める

玄関越しに見るリビング、ガラスにファサードの格子扉が斜めに反射している

玄関越しに見るリビング、ガラスにファサードの格子扉が斜めに反射している

静かな庭と、人が来た時の楽しむ庭

建主のTさんは、リビングダイニングと庭との一体感を強く望んでいましたので、実際に完成された状況を見て大変満足していました。親戚が集まり、この庭で、バーベキューをしながら家族との休日を楽しんだり、子供のころに過ごした家での記憶を、この家でも叶えたいという願いのようです。子供たちが集まる時、庭だけでなくリビングにも自由に行き来し、回遊動線となっている風呂やトイレ、洗面といった水まわりエリアも思い通りの空間構成のようでした。こうした人を招いた時、集まる場所としてのリビングの使い方がある一方、一人の時、二人の時に静かに過ごす空間としてのリビングも大事にされていました。取材の日にはたまたま雪が降っていたのですが、茶室の地窓のように切り取られた風景のように、外の景色を見ることなく庭だけが目に入るように視界をコントロールしています。そして家の中にはTさん夫婦の好きなお気に入りの北欧家具がおいてありました。楽しげな部分を見せながら、饒舌すぎず、完成度の高いデザインに囲まれていることがこの家の特徴であり、建築家宮武さんと西澤さんのありようなのかもしれません。

リビング奥の半屋外空間から庭を眺める

リビング奥の半屋外空間から庭を眺める

庭から見た風景

庭から見た風景

リビング側の格子扉を開放した風景開閉によって街との距離感が変化する

リビング側の格子扉を開放した風景。開閉によって街との距離感が変化する

リビングに向き合ったアイランドキッチン。天井に排気ダクトがなくすっきりと納めてある

リビングに向き合ったアイランドキッチン。天井に排気ダクトがなくすっきりと納めてある

水まわりエリアから鏡越しにリビングダイニングの気配がわかる

水まわりエリアから鏡越しにリビングダイニングの気配がわかる

左はバスルーム

左はバスルーム

トイレに並ぶ洗面コーナー

トイレに並ぶ洗面コーナー

細やかな細部

この住宅では、建築家らしい空間の心地よさが追求されています。それはディテールにも表れています。枠周りの処理や壁、天井の見切りなど、建築家としてギリギリの線を追求しながらも、そうした緊張を感じさせない楽しげな顔も見せてくれます。それは色なのかもしれませんし、計算し尽くした先に現れた創造性とも言えるのかもしれません。柱をなるべく見せるようにしながらドアの戸あたりを柱に揃える工夫や、家具の枠の納まり、どこをとっても考え抜かれています。建築家らしい建築に会った気がしました。考え抜いてあるのに、そのことを意識しないぐらい、どの場所にいてもただ心地よいと思える空間でした。

マグネット式のカーテンタッセルと引き手の取手はサイズと形状が揃えられている。

マグネット式のカーテンタッセルと引き手の取手はサイズと形状が揃えられている。

カーテンタッセルは建築のディテールに合わせてデザインされた

カーテンタッセルは建築のディテールに合わせてデザインされた

泡で自動的に洗ってくれるトイレ

階段下のトイレ空間は、すっきりした平面計画ではありますが、斜めに配置したことで生まれる場所をうまく使っています。通常であれば、同じ幅の四角い部屋ですが、トイレもこうした斜めの空間に設置することで、リモコンやペーパーホルダーの位置を広々とした空間に置くことができます。角の空間をうまく使うというのは、この家を実際以上の広さや奥行きを感じさせるのにとても効果があるようです。Tさんの奥さまは、サティス Xタイプの洗浄機能が大満足の様子で、泡で自動的に洗ってくれる機能はとても便利だとのことです。トイレ掃除まで手が回らない平日は、朝の出勤前に「泡クリーン」のボタンを押して、帰宅すると便器が綺麗になっていることが、共働きのご夫婦にとってとても便利だとのことです。単に楽だからという視点でなく、自分の代わりに掃除してくれるという安心感と、泡で便器を洗浄し、3時間つけ置きすることで、目に見えない汚れの付着を防いでくれる、綺麗になる、そうした点が満足のポイントのようです。

角空間をうまく使った階段下のトイレ。サティス Xタイプ/ピュアホワイト

角空間をうまく使った階段下のトイレ。サティス Xタイプ/ピュアホワイト

トイレの隣は洗面コーナー

トイレの隣は洗面コーナー

斜め前方の使いやすい位置にリモコンとトイレットペーパーホルダー

斜め前方の使いやすい位置にリモコンとトイレットペーパーホルダー

トイレ詳細図

トイレ詳細図(クリックで拡大)

今回の取材は建主のご夫婦も一緒に楽しいお話を伺い、こうしたことも設計の姿勢に通じるところでした。多くを自分が主張せず、建築で語らせていくという感じです。同時に後輩であるTさんへの配慮とも言えます。先輩の宮武さんの印象について優しさと表現したのは、こうした自然体とも言える配慮なのかもしれません。

取材・文: 土谷貞雄
photo: 森崎健一
(2026年2月8日 T邸にて)

宮武壮太郎

宮武壮太郎

1991年 香川県生まれ
2014年 慶應義塾大学 卒業
2015-2016年 Gehl Architects
2017年 慶應義塾大学大学院 修了
201702022年 西澤徹夫建築事務所 (八戸市美術館 基本設計/実施設計/現場監理 担当)
2021-2023年 東京大学生産技術研究所 特任研究員
2022年- 慶應義塾大学 助手
2024年 some ( )設立

西澤徹夫

西澤徹夫

1974年 京都府生まれ
1998年 東京藝術大学美術学部建築学科卒業
2000年 同大学美術研究科建築専攻修士過程修了
2000-05年 青木淳建築計画事務所
2007年- 西澤徹夫建築事務所
2023年- 京都工芸繊維大学特任教授
2021年 「京都市美術館」(共同設計:青木淳)で建築学会賞(作品)受賞、第62回(2020年度)毎日芸術賞受賞
2023年 第74回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞

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公開日:2026年03月24日