INTERVIEW 034 | SATIS

京都の古い家の保存と再生

建築家:永山祐子|建主:Yさん

京都の古い民家を保存した外観

京都の古い民家を保存した外観

この家は、京都の古い家のリノベーションです。今回ゲストハウスとして生まれ変わった町家は、建物の正面側の半分はすでに建て替えられており、裏口のある半分をリノベーションしています。かつては裏口だった立派な唐破風の玄関を正面として捉え、古い家の趣を生かしながら、新たな素材を使ったり、照明を入れたりしながら、歴史的価値ある建築を新たな空間として作り出しています。永山さんは外から見る風景と中に入った時に全く違う空間を作りたかったと言います。

玄関に入ると自動で水が落ちてくる手水鉢、来客の時の歓迎を表している

玄関に入ると自動で水が落ちてくる手水鉢、来客の時の歓迎を表している

ここはある財団による、3つのゲストルームを持つ中長期滞在型のゲストハウスになっています。1階にはかつて流行した和製マジョリカタイルを特注した壁と床で構成されたロビー、それに続く和室、そして、シェフを呼んでの調理にも対応できるキッチンとダイニングがあります。少し平面を見てみましょう。写真では複雑に見えますが、間取りとしては一階がパブリックスペース、2階にそれぞれテイストの違う3つのゲストルームがあります。部屋は元々分かれていた小割りの部屋を繋いだもの、そして圧巻なのは2階から1階を見下ろす吹き抜けです。元々廊下だった部分を抜いて作られた吹き抜けがあることで閉鎖的な京都の町屋でありながら、空間の抜け感が生まれています。

1階 平面図

1階 平面図(クリックで拡大)

2階 平面図

2階 平面図(クリックで拡大)

断面図

断面図(クリックで拡大)

料理人を呼べる専用のオープンキッチンを備えたダイニング

料理人を呼べる専用のオープンキッチンを備えたダイニング

ダイニングと中庭

ダイニングと中庭

中庭を見る。窓越しに季節の移り変わりを楽しむ。

中庭を見る。窓越しに季節の移り変わりを楽しむ。

町との距離をデザインする

永山さんはこの建物をデザインするにあたって、町との距離をデザインしたいと語っていました。初めに書いたように、昔の正面側は建て変わり無くなっていました。そこで新たな正面を作り出すために1階入り口にロビーが生まれています。1階は町との距離が近いロビーと和室、キッチンダイニング、そして共有の風呂などの水まわりがあります。2階にいくと1つ目のゲストルームはエントランスの上に位置し、町との距離も近く道に面した開口からの明るさがあります。それに対して2つ目は小さな中庭に面した窓から光を採り入れています。そして3つ目は天窓から特徴的に光を採り入れたゲストルームとなっています。明るさによって3つの特徴ある空間が構成されているのです。それぞれの部屋は違ったテイストで作られていて当時のステンドグラスや丸窓を活かしながらその面影を残しています。

2階廊下から見る中庭上部の空間

2階廊下から見る中庭上部の空間

2階から吹き抜けを見る。かつては廊下だった床を抜いた。

2階から吹き抜けを見る。かつては廊下だった床を抜いた。

窓のない一番奥の部屋。トップライトからの光が閉ざされた教会のようなドラマチックな空間を作り出している

窓のない一番奥の部屋。トップライトからの光が閉ざされた教会のようなドラマチックな空間を作り出している

かつての丸窓やステンドグラスは当時のまま活かしている

かつての丸窓やステンドグラスは当時のまま活かしている

かつての丸窓やステンドグラスは当時のまま活かしている

道に面した明るい部屋。かつての小割りの部屋の床間を抜いて繋いでいる。

道に面した明るい部屋。かつての小割りの部屋の床間を抜いて繋いでいる。

照明を楽しむ

こうした少し暗い町家づくりの家では、照明は重要な要素となります。それぞれの部屋のイメージに合わせて永山さんがご自身でデザインした照明を選んで使っています。例えばダイニングテーブルや2階の部屋に使われていた「FUWARI」という鉄板を逐次成形という特殊な技法で成形した照明は、鉄でありながら、「FUWARI」という名前の通り重さを感じさせない柔らかさを持つ照明でした。それぞれの部屋や廊下、吹き抜けには照明も合わせて、部屋の印象を作っています。

道に面した部屋の明るいリビング空間の照明は「FUWARI」、もと床柱上部の照明も永山さんのオリジナルの照明

道に面した部屋の明るいリビング空間の照明は「FUWARI」、もと床柱上部の照明も永山さんのオリジナルの照明

少しだけ光が入る部屋。中庭に面している。

少しだけ光が入る部屋。中庭に面している。

古い構造を残しながら寝室へと改造

古い構造を残しながら寝室へと改造

空間のイメージに合わせた照明計画。商品化されたものやオリジナルの照明を使っている

空間のイメージに合わせた照明計画。商品化されたものやオリジナルの照明を使っている

空間のイメージに合わせた照明計画。商品化されたものやオリジナルの照明を使っている

空間のイメージに合わせた照明計画。商品化されたものやオリジナルの照明を使っている

空間のイメージに合わせた照明計画。商品化されたものやオリジナルの照明を使っている

パーツを復刻する

階段の手すりの桟やその頭の部分、丸窓、ステンドグラスなど、当時のものを活かしたり、または再生して新たに同じデザインで作ったりしています。当時のデザインからインスパイアされながら永山さん独自のデザインの空間に仕上げています。それは新たなデザインだけでは生まれない不思議な力を持ってそこにいる人に訴えてくるようでした。見たことがあるような、しかしどこにもないデザインになっているのです。

階段の手すりや窓、ステンドグラスなど、当時のものを活用している部分と再現している部分とは一見見分けがつかない

階段の手すりや窓、ステンドグラスなど、当時のものを活用している部分と再現している部分とは一見見分けがつかない

古い型を使って新たな空間を作る

この建物のロビーは和製マジョリカタイルと呼ばれる当時の型を使ったタイルを使い、オリジナルのカラーリングとその配置パターンを考え、新たに創造することで独特な壁面や床材となっています。和製マジョリカタイルは大正初めから昭和10年代頃に日本で生産された多彩色レリーフタイルで、近代イギリス製の「ヴィクトリアンタイル」を模倣してつくられたもの。もともと階段の上がりがまちに使われていた和製マジョリカタイルから発想を広げ、その素材を圧倒的な量で使い、また新たな組み合わせで元の型を使いながらも今までにないような新しい感覚を呼び覚まします。激しい色を組み合わせ、繰り返しパターンが想起させる幾何学的なものと宇宙的ともいえる浮遊感を同時に持った空間へと繋げているのです。

一階ロビーの空間、オリジナルの和製マジョリカタイルを床、壁ともに大量に使っている

一階ロビーの空間、オリジナルの和製マジョリカタイルを床、壁ともに大量に使っている

ロビーから通り側を見る

ロビーから通り側を見る

1階和室の静的な空間と大きな照明

ロビーに続く和室は中庭に面しています。日本的ともいえる静かな空間です。しかし奥の床間にはアーティストの作品が飾られています。さらに中央の照明は現代的なデザインながら違和感なく、和の空間に馴染んでいるのが新鮮でした。一見ハレーションを起こしそうなものが、融合して日本的な空間を想起させる空間へと昇華されています。

ロビーから奥の和室への空間、左側は小さな中庭

ロビーから奥の和室への空間、左側は小さな中庭

中庭を眺める永山さん

中庭を眺める永山さん

色を楽しむトイレ

1階には共有のバスルームとトイレ、各ゲストルームにはコンパクトなシャワーブースと洗面を備えた水まわりが作られています。それぞれの部屋の水まわり空間はコンパクトでありながらも見た目にも機能的にも遜色のない、ゆったりとした雰囲気の空間となっています。黒を基調とした水まわり空間に合わせ、サティスのノーブルブラックとシャワーブースが選定されています。まるで、トイレの空間や便器は白いという固定観念を拭い去るようです。また海外の方が使うということから、トイレは大きめでゆったりとした座り心地のサティスXタイプ、2階の各ゲストルームにはサティスGタイプを選んでいます。

1階の共有のサティスXタイプ/ノーブルブラックとバスルーム

1階の共有のサティスXタイプ/ノーブルブラックとバスルーム

1階の共有のトイレと浴槽

2階の中庭に面するゲストルームの水まわり空間

2階の中庭に面するゲストルームの水まわり空間

2階の中庭に面するゲストルームの水まわり空間

シャワーブースのブラックとサティスGタイプ/ノーブルブラック、トイレリモコンやペーパーホルダーともに黒を基調にしている

シャワーブースのブラックとサティスGタイプ/ノーブルブラック、トイレリモコンやペーパーホルダーともに黒を基調にしている

2階の天窓のあるゲストルームの水まわり空間

2階の天窓のあるゲストルームの水まわり空間

2階の道に面したゲストルームの水まわり

2階の道に面したゲストルームの水まわり

水まわりから部屋をのぞむ

水まわりから部屋をのぞむ

1階 トイレ

1階 トイレ(クリックで拡大)

2階 トイレ

2階 トイレ(クリックで拡大)

2階 トイレ

2階 トイレ(クリックで拡大)

元の建物にあった文脈を読み取る面白さ

永山さんにリノベーションの魅力について伺いました。「ある時代の文脈を読み解く面白さと、そこから発想して違う文脈に作り変える楽しさがあります。新築ではできない発想があるのです。」確かにこの建物の随所に、通常の新築では生まれないであろうデザインのアイディアや、素材や色使いが見られます。さらに小さな小割りの空間を抜いて一つの部屋にするなど、どれをとってもリノベーションだからこそ生まれたものなのでしょう。中に入ると外見からは想像できない永山さんのリノベーションに驚きと感動を誰もが持つに違いありません。海外からくるゲストに多くの思い出と普通の日本滞在とは異なる、強い印象を残していくのだと思います。リノベーションだから生まれたこの建物が庶民の作ってきた歴史を語ってくれるのでしょう。

取材・文: 土谷貞雄
photo: 森崎健一
(2026年2月16日 Y邸にて)

永山裕子

永山祐子

1975年 東京都生まれ
1998年 昭和女子大学生活科学部生活美学科 卒業
1998年 青木淳建築計画事務所 入社
2002年 青木淳建築計画事務所 退社
2002年 永山祐子建築設計 設立

受賞歴
2004年 中之島新線駅企画デザインコンペ優秀賞
2005年 ロレアル賞「色の科学と芸術賞」奨励賞
2005年 つくば田園都市コンセプト住宅実施設計競技二等
2005年 JDC Design Award 奨励賞「ルイ・ヴィトン大丸京都店」
2006年 AR Awards 優秀賞「a hill on a house」
2010年 田屋リニューアル 2010実施設計コンペ 佳作
2010年 共愛学園前橋国際大学 4号館設計プロポーザル 佳作
2012年 ARCHITECTURAL RECORD Award(USA), Design Vanguard 2012
2014年 JIA新人賞2014「豊島横尾館」
2017年 山梨県建築文化賞「女神の森セントラルガーデン」
2017年 JCD Design Award 銀賞「女神の森セントラルガーデン」
2018年 東京建築賞優秀賞「女神の森セントラルガーデン」
2021年 照明デザイン賞 最優秀賞「玉川髙島屋S・C グランパティオ」
2022年 World Architecture Festival 2022 Highly Commended「JINS PARK 前橋」
2023年 iF Design Award 2023 Winner「JINS PARK 前橋」
2026年 iF Design Award 2026 Winner 「AOI CELESTIE COFFEE ROASTERY」
2026年 第76回芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術B部門)

著書
2025年 『永山祐子作品集 建築から物語を紡ぐ』(グラフィック社)
2025年 『建築というきっかけ』(集英社新書)

講師歴
2005年 東京理科大学非常勤講師
2008年 京都精華大学非常勤講師
2009年- 昭和女子大学非常勤講師
2010年 お茶の水女子大学非常勤講師
2011年 名古屋工業大学非常勤講師
2020-2024年 武蔵野美術大学客員教授

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公開日:2026年03月30日