住宅をエレメントから考える

窓をめぐる現代住宅の考察

吉村靖孝(建築家、進行)× 藤野高志(建築家)× 海法圭(建築家)

『新建築住宅特集』2016年12月号 掲載

空間をかたちづくる窓

窓から選ぶ現代住宅3作品

藤野高志

house N 藤本壮介 2008年
庭と家をまとめて覆う大きな穴だらけの外殻をもつ、三重入れ子の住宅。
躯体の窓 増田信吾+大坪克亘 2013年
鉄筋コンクリート造2階建てのアパートの、ハウススタジオ兼週末住宅へのコンバージョン。既存の窓を取り払い、壁から約200mmの位置に建物全体を覆うスチールサッシを設えている。
Casa O _橋一平 2014年
隠居を希望する建主のための築45年の木造家屋の改修。都内の木造密集地域に位置する旗竿敷地に建つ。隣家の窓と対面しないようなるべく大きな窓を開け、密集する家屋の後ろ姿を一望する。

藤野:

私は藤本壮介の「house N」(『新建築』0809)、増田信吾+大坪克亘の「躯体の窓」(『新建築』1405)、_橋一平の「Casa O」(『新建築住宅特集』1412)を選びました。この3つはどれも、住宅の中と外の関わり方を窓によってどうつくるかということが特徴的です。先ほど海法さんの話にもありましたが、住宅は人に安心感を与えて外の環境から守りつつ、同時に開くことも考える必要がある。そこに窓が非常に重要な役割を果たします。
「house N」は、「窓の群れ」がここにしかない空間をつくっています。窓がまだかろうじて壁に穿ったものという存在を残しつつも、壁だけでなく屋根にも同じ程度の比率で窓があるため、内外の関係性を変えるだけでなく、建築空間の質自体をこの窓の群れがつくっている。窓の分布と密度がどのような効果を生むかの、ひとつの指針でもあると思い選びました。
次に「躯体の窓」ですが、まずこれを「窓」と名付けたこと自体に驚きます。この建築では躯体の開口部とは無関係に、躯体を覆う「窓」がある。カーテンウォールと違い、この窓はしっかり開きます。さらに注目すべきは、この建築の前に庭があり、窓やミラーカーテンに反射した光が庭を照らし出すことです。そうすると、通常では考えられないほど庭の隅まで照らし出され、そこに立つ人の影がいろいろな方向に伸びたりなど、窓があることにより外の環境自体が変わってしまう。「開口と窓を切り離す」「窓が外の環境をつくる」という複合的な可能性がある建築だと思います。
「Casa O」は木造建物が密集した地域に建つ住宅の改修です。建物の床面積に対して明らかに大きい窓を開け、室内空間を周囲の雑然とした風景と連続した仕上げとすることで、中にいながら街の中に佇んでいる感じがする。床の素材も外に近い。1階はピンクに塗ったコンクリート土間で、2階はタイル敷きで吹抜けの回り階段を登っていると、まるで都市の中を浮遊しているかのようです。西沢立衛さんの「HOUSE A」(『新建築』0703)も、環境の中に放り出されるような、同じ感覚を受けます。「HOUSE A」はボックスの四方八方に窓を開けていますが、見せたい対象があるというより、周囲の環境自体が建物の中に流れ込んでくるつくり方だと思いました。

吉村:

この3作品は周辺との大胆な繋がりという共通点がありますが、特に窓が内部空間の環境にかなり大きな影響を与えているものですね。窓が群れとして現れてくるという表現に顕著でしたが、単に繋ぐというよりは周囲の環境を取り込んで内部空間が大きく変容しています。ピクチャレスクな独立窓から、環境的、あるいは経験的な窓へという流れを代表する作品群といえるかもしれません。

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公開日:2017年11月30日