INTERVIEWータイルの魅力を発信する

「編集力」で見せる、五感に響くタイル空間

勝田隆夫(LINE-INC.)

勝田 隆夫氏(LINE−INC.代表)
勝田 隆夫氏(LINE−INC.代表)。事務所に併設した家具のショールーム「LINE-PRODUCTS」で、自らデザインしたソファに座る

勝田 隆夫氏率いる建築・デザイン事務所「LINE-INC.」は、長く愛される空間づくりにこだわり、インテリアから建築設計、プロダクトまで幅広くデザインを展開しています。クリエイティブディレクターとして、これまでに手がけたプロジェクトは1,500件を超え、その膨大な経験に裏打ちされた柔軟性と多様なノウハウこそが、同事務所の最大の強みです。
勝田氏は、魅力的な空間を生み出す要として、素材の”適材適所”を見極めることが不可欠だと言います。刻々と表情を変える素材がある一方で、『タイル』は時を経ても美しさが損なわれない不変の存在であり、空間の均衡(バランス)を保つための重要なエレメントと位置づけています。
今回は、単なる機能の枠を超え、独自の”編集”によってアートの領域へと踏み込むタイルの魅力と、その卓越した活用術についてお話を伺いました。

感性にふれるトータルデザインと、素材の適材適所

私たちのデザインの原点は「ドアノブから街の風景まで」という理念にあります。2002年の設立以来、ショップやオフィス、ホテル、そして公共施設から家具に至るまで、多岐にわたるプロジェクトを手がけてきましたが、一貫しているのは「空間の一部を切り取ってデザインしているのではない」という意識です。
例えばホテルのデザインを考えるとき、単に壁の色や床の素材を決めるだけでは不十分です。チェックインする瞬間に差し込む光の当たり方、そこを流れる音楽や漂う匂い、さらにはサービスの内容まで、その場所で体験するすべての要素が重なり合って一つのデザインになると考えています。私たちはそれを「五感をデザインする」と呼んでいますが、視覚的な美しさだけでなく、その場所を訪れる人が何を感じ、どのような時間を過ごすのかという体験価値そのものを創出することが、私たちのミッションであると考えています。
クライアントから依頼をいただく際、まずはそのプロジェクトの目的や価値がどこにあるのかを徹底的に話し合います。新築であればゼロからストーリーを構築し、リノベーションであれば、その建物がこれまで紡いできた歴史やポテンシャルをいかに現代に蘇らせるかを考えます。重要なのは、単に要望を聞き入れるだけでなく、時には「本当に必要ですか?」と問い直すこと。クライアントの期待以上のものを生み出すためには、相手の話を深く分析し、プロとしての視点から、やらないことや別の選択肢を丁寧に提案する勇気が必要なのではないでしょうか。
私のキャリアのスタートは鉄の家具職人でした。毎日つなぎを着て、鉄工所で鉄粉にまみれながら溶接をして家具をつくっていた経験が、今の素材に対する感性を形づくっています。鉄という素材は、時間とともに錆び、表情を変えていきます。その変化を愛おしむ感覚があるからこそ、空間のなかで変わるものと変わらないものをどう組み合わせるかという、素材の”適材適所”の判断が磨かれたのだと感じています。

初めてデザインしたレザーとスチールの椅子(右)
30年前、飲食店のために初めてデザインしたレザーとスチールの椅子(右)。試作と検証を重ね現代に甦らせた(中央、左)

不変的なタイルがもたらす、空間のバランスと経年変化の美学

阪急グランレスパイア大阪のフレンチレストラン「MAISON VERTE (メゾン ヴェルテ)」
シャビーシックな都会感ある内装が印象的なホテル阪急グランレスパイア大阪のフレンチレストラン「MAISON VERTE (メゾン ヴェルテ)」。太陽の光が映えるグリーンを基調とした店内に、艶やかさを求めて柱にタイルを施した(提供:LINE-INC.)
VERMICULAR Pot Made Bakery(バーミキュラ ポットメイドベーカリー)
VERMICULAR Pot Made Bakery(バーミキュラ ポットメイドベーカリー)。カウンター腰壁の素焼きタイルが温かみのある空間を演出している

空間を構成する素材のなかで、私にとってタイルは非常に不変的な存在です。無垢の木や黒鉄のように、使い込むほどに味わいが出る経年変化を楽しめる素材が好きですが、それらだけでは空間の均衡を保つのが難しい場合もあります。そこにタイルという、10年経っても引き渡し時とほぼ変わらない状態を維持できる“不変”の素材を組み合わせることで、空間に素晴らしいバランスが生まれます。
デザインにおいて大切にしているのは、時代性やトレンドを意識しながらも、時を経ても美しさを損なわず、時間の流れが趣になるような、長く愛されるデザインを提供することです。タイルはその点において非常に優れた素材です。衛生的でメンテナンスがしやすく、水まわりなどの機能性が求められる場所はもちろん、その高い意匠性から、カウンターの腰壁や柱など、デザインのアクセントとしても積極的に取り入れています。
最近手掛けたサウナのプロジェクトでは、床から壁、ベンチの立ち上がりまでを面で続くように、タイルで滑らかにつなげてデザインしました。コーナー部分にR(曲線)をつける役物タイルを使い、三次元的に“ぬめっ”とした質感で構成したのですが、それが実に可愛らしく、かつ力強い表現になりました。こうした細部の納まりこそが、空間の質を決定づけます。小口を綺麗に見せるコーナー材や巾木タイルなど、機能的なパーツをどう使いこなすかによって、タイルの活用範囲はアートの領域まで広がると感じています。

タイルで構成したサウナ
タイルで構成したサウナ。床から壁、ベンチを面で繋げて曲線的な三次元空間をつくりあげた
LIXILのストーンテイストのタイル「チェッポデグレ NX」
LIXILのストーンテイストのタイル「チェッポデグレ NX」。イタリアの堆積岩・チェッポをモチーフにした。他にもさまざまなトーンの石材プリントのタイルを取り揃えている(写真:LIXIL)

近年のタイルはプリント技術も飛躍的に進化しており、本物の石と見紛うような質感の大判タイルも増えています。重量やコストの制約が厳しいプロジェクトにおいて、本石に代わる高い施工性とコストパフォーマンスを兼ね備えたタイルは、設計者にとって極めて魅力的な選択肢となります。
しかし、タイルは決して単なる石の代用品ではありません。一つひとつ表情が異なる素焼きや釉薬が醸し出す独自の“ゆらぎ”は、均質な工業製品にはない温かみや時間の流れを空間に添えてくれます。光の当たり方で刻々と表情を変えるタイルの質感こそが、インテリアの奥行きを深めてくれるのです。

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公開日:2026年09月28日