INTERVIEWータイルの魅力を発信する
「編集力」で見せる、五感に響くタイル空間
勝田隆夫(LINE-INC.)
“目地”という名のデザイン──標準品を唯一無二の表現へ変える編集力

ニューヨークの地下鉄の壁を模してサブウェイタイルを取り入れた事例。目地がない突きつけで設えるのは難しいが、それゆえにハンドメイド感のある表現ができる
タイルを使う際のこだわりの一つが”目地”の扱いです。個人的には、極力目地を細く、あるいは突きつけで貼るのが好きですね。ニューヨークの地下鉄のようなサブウェイタイルなどは、あえて目地なしで突きつけることで、手仕事ならではのわずかな“ずれ”や“ゆらぎ”が生まれ、ハンドメイド感が強調されます。完璧に綺麗に並びすぎるよりも、その「いい加減な混ぜ方」にこそ素材の味が引き立つのです。
もちろん、機能的に目地が必要な場合もあります。特に汚れが気になるキッチンバックなどでは、濃いグレーや黒の目地を選ぶことで、経年による汚れを目立たせず、同時にグリッド状のデザインとして空間を引き締める効果を狙います。目地に一筋の色、太さ、そして入れ方を変えるだけで、同じタイルでも全く異なる表情を見せます。これはもはや、一つのデザイン作業と言えますね。
こうした編集力を象徴するのが、帽子専門店「CA4LA(カシラ)」のプロジェクトです。レンガタイルを現場でわざとハンマーで割り、その不揃いな破片を一緒に埋め込むなど、歴史的な建造物を改装したホテルのようなトラディショナルな内装に仕立てました。例えば、壁面の一部に、あえてタイルをアーチ形に配置した箇所があります。これは「かつてそこに窓があった場所を、後から埋めて潰した」という風景を擬似的につくり出すことで、空間にストーリーを与えました。カタログにある標準品をそのまま並べるのではなく、現場でのひと手間を加えることで、そこにしかない重厚な表情になるのです。

CA4LA表参道店。ニューヨークの歴史ある図書館、博物館のようなヒストリカルなイメージをコンセプトにした内装で、壁一面にはクラシックなレンガタイルが貼られている。ムラのある目地や窓を埋めたような貼り方をすることで、歴史的な建造物を改装したかのような重厚さを醸し出している

LIXIL「INAX インテリアカラー目地」などのサンプルを手に取る勝田氏。「目地やコーナー材など、細部の納まりが空間全体の印象を決定づける」と語る。同目地は、カラーバリエーションがあり、今までの目地材より発色がよく、かつ色褪せやムラが発生しにくいのが特長
予算が限られたプロジェクトでも、カタログの標準品をプロの編集力でブラッシュアップさせることは十分に可能だということです。例えば、2色や3色の標準品を現場でランダムに混ぜて貼るだけでも、オリジナリティは格段に上がります。このとき施工する現場の職人さんに「均等にバランスよく」と指示するのではなく、あえて「いい意味でいい加減に」配置することで、既製品にはないリズムが生まれてきます。
標準品の限界値を検証し、貼り方や目地の色、自然光や照明の当て方を工夫して見せ方を“編集”する。それによって、カタログに載っているそのままの姿ではない、唯一無二の空間をつくり出すことができます。既成概念にとらわれず、異なる品番を混ぜたり、現場で割り方を変えたりといったトライを繰り返すなかで、表現の引き出しは増えていくはずです。
【LIXILが提案する目地によるタイルの意匠】

目地素材
素材感のあるモルタル目地を太くし、土壁の中にタイルがあるような壁面やレンガ・瓦みを積み上げた感じを演出

カラー目地
土の風合いのブラウンや、鮮やかなカラーまでさまざまな目地が登場。タイルの質感を引さ立て空間に個性を与える重要な要素となる

空目地
弾性接着剤張り工法は、目地材を詰める必要がなく細目地や深目地での仕上げが可能。タイルの凹凸感や陰影を強調できる
【タイル目地の仕上げ方法】






記録よりも”記憶”を。デジタル時代にこそ求められる実体験の価値

LIXILのタイルのサンプルを前にして、素材としての魅力や可能性を語る勝田氏
今の時代、Googleマップ上で世界中のどこへでも行けるし、AIを使えば誰でもそれらしいデザインの絵を描くことができます。しかし、そこで得られるのはあくまで情報としての記録に過ぎません。デザイナーにとって本当に重要なのは、記録ではなく”記憶”に残る体験をどれだけ積めるかです。極端なことを言えば、単なる記録は忘れてもいいし、記憶に残らないようなデザインには意味がないと思っています。
伝えたいことは、「とにかく現物を見て、触れて、その場所の空気を肌で感じる時間を惜しまないでほしい」ということです。カタログや画面上では素材の本当の質感や、光を受けた時の陰影、その場所の匂いや温度までは分かりません。実際に旅をして、素晴らしいホテルに泊まり、美味しい料理を食べ、美しい空間に身を置く。そこで「いいな」と感じて記憶に刻まれたものだけが、自分のクリエイティビティの源泉になるはずです。
私自身、今でも現場が好きで、職人さんと一緒にタイルの割付を考えたり、モックアップを並べて検証したりする時間を大切にしています。タイルを選ぶ際もカタログを眺めるだけではなく、実際にLIXILの展示会やショールームなどへ足を運び、膨大な種類のタイルのなかから「あ、これいいじゃん」と直感的に惹かれるものを見つける手間を惜しみません。自分の足で稼いだ体験値から生まれるデザインには、AIには真似できない説得力と強さが宿ります。
日々、数多くの素材に触れているからこそ、タイルにはまだまだ未開拓の可能性があると思っています。例えば、タイルで家具やオブジェをつくってみる。建築商材という枠を超えて、新しい感性でタイルの新しい用途を考えてみるのも面白いでしょう。かつて鉄の魅力に没頭したように、一つの素材を深く掘り下げ、その“味”をどう引き出すかを考え抜くこと。情報の波に流されず、自分の五感を通じて”記憶”された確かな感覚を信じ、これからも空間づくりの可能性を広げていきたいですね。
取材・文/フォンテルノ
人物撮影/シヲバラ タク
勝田隆夫(LINE−INC.代表)
1972年生まれ。静岡県出身。インテリアデザインを学んだ後、店舗デザイン会社に入社。
1996年に清水薫らとともに鉄工房を備えたデザインチーム「EXIT METAL WORK SUPPLY」を設立。家具のデザインから製作までをチームで手掛ける。
2002年にインテリアデザインを軸としたLINE-INC.を立ち上げ独立。
2023年にはLINE-PRODUCTSをリブランディングし、家具ブランドとして新たに始動。現在に至る。
オフィスサイト : https://www.line-inc.co.jp/
プロダクトサイト : https://line-products.co.jp/
プロユーザーの皆さまに向けて、INAXタイルの技術と商品を知っていただくためのスペース
https://www.biz-lixil.com/tile_consultingroom/
https://ctlgsearch.lixil.co.jp/public/index.php?target=builder&category=CTGMC_4168783
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公開日:2026年09月28日