JP TOWER × LIXIL

復原プロジェクトを通じた歴史的景観と建築技術の継承

既存タイルについての検証

再現された外壁タイルのディテール

次に外壁タイルの再現について、そのプロセスを紹介します。設計事務所からLIXIL(旧INAX)に外壁タイルについて相談があったのは2007年のことです。「外壁タイルの再利用の可能性について検証を行いたい」ということから始まりました。まず、現状の外壁タイルのうち、創建時のタイルが含まれている数量を調査。同時に既存タイルを再利用可能な状態で外壁から採取できるかどうか、既存タイルの汚れを除去して創建時の色に戻せるかどうかなども探りました。さまざまな検討の結果、大部分はオリジナルのタイルを新たに再現し、張り替えるという選択がとられました。再現にあたり、外壁から採取したタイルを詳細に調査。基本となる大きさは227.5㎜×61㎜だと推察されました。テクスチュアは白いボディに細かな黒い斑点があり、ピン角であることが特徴的でした。これらを忠実に再現するため、まずはサンプルづくりが開始されました。

オリジナルタイルを再現する試み

既存タイルはプレスによる乾式製法でつくられていたので、新たにつくるタイルも同じ乾式製法で製作することにしました。特徴である白いボディを再現するにあたっては、まず外壁から創建当時のタイルを採取し、洗浄することで創建当時の白色のニュアンスを探りました。その上でその白色を表現するための原材料を探すことからはじめました。ボディの白色には微妙な色幅があったので、その色幅を再現するために試作を何度か重ねました。試作したタイルを1m2角ほどのパネルに張り込んで、微妙な色調の検討を重ねました。最終的には4種類の白色を混ぜて張ることになりました。また、タイルの特徴の1つである表面にある黒い斑点は、白い素地に沈み込んでいるような見え方をしていたので、これを再現するために原料と成形方法を調整しました。同様に既存のタイルには微妙な光沢があったので、釉薬の掛け方などを調整して光沢を再現しました。このほかタイルの特徴として、一体成形の役物が80種類以上と非常に多いことが挙げられます。それらを残さず再現するために、既存タイルをもとにすべての役物について金型を作成しました。また、成形方法も工夫しながら対応しました。タイルの施工方法としては、レール工法が採用されています。これは、躯体にアルミのレールを取り付け、そのレールにタイルの裏足を引っ掛けるように取り付けていく施工方法です。この工法のための専用の裏足の形状を検討し、その裏足を成形するための製造方法についても検討しました。こうした試行錯誤の結果、創建時のタイルの姿を再現することができました。

再使用する既存タイル
再現された4種類の白色タイル
4種類の白色タイルを混成した、再現部分

サッシの保存か復原かを検討

創建当時のサッシが忠実に再現された外観

サッシの復原については、2008年7月、設計事務所からLIXIL(旧TOSTEM)に調査の打診がありました。ただちに現地調査を行い、既存サッシの一部を取り外し、分解して状態を確認しました。劣化の進み具合は部位により様々で、部分的に使用できる部材・部品もありましたが、全般に枠周りは錆の進行が著しく再利用できる状態ではありませんでした。
既存サッシの障子材はスチールの押し出し形鋼を用いたもので、この時代としては一般的なものです。ただ、3連1ユニットで、幅3.9m×高さ4.4m、見込みが170mm、方立見付けが170mmと大きなサイズでした。当時のサッシは鋼材に錆止め塗装を施し、オイルペイント仕上げ。創建当時から調査時まで何度か表面が再塗装されていることも分かりました。創建当時の色を再現する為に何層も塗られた色の中からオリジナルの色を限定する作業に手間がかかりました。このような調査報告をもとに、保存や復原の方向性を検討しました。修繕してそのまま残す案もありましたが商業施設+オフィスという建物の性質上、最新の機能・性能が必要でした。古いサッシのディテールと現代の建物に求められる性能を両立するのが難しく、郵便局の北側部分7か所と西側部分2か所の障子を除き、そのまま残すことは断念しました。こうした作業を進めている2009年の夏、サッシ復原は正式発注となり、抜き取り調査、全数検査と検討を進めていきました。2010年の1月には復原の方針も定まり、サンプルの制作が始まりました。

アルミサッシによる復原

サンプル制作にあたり、復原の仕様を決めていきます。まずは素材を決めます。創建当時のものはサッシの障子も枠もスチール製です。復原するサッシは、耐候性と意匠性を重視し、障子はアルミ製、枠はステンレス製という仕様になりました。また、ガラスは既存3?4mm厚の単板ガラスから、6mm+A6mm+6mm厚のペアガラスに変更しました。開閉形式も上げ下げ窓からFIX窓に変えています。復原に際しては、障子の素材の違いに苦労しました。前述したように創建当時のものはスチールの押出し形鋼でしたが現在はその製造設備がありません。スチールで作ろうとすると溶接で形鋼を作ることになり、莫大なコストがかかります。そこで、素材をアルミに変更した上で、ディテールは創建当時のものを再現することになりました。創建当時の納まりに揃えるという点で大変だったのが、ガラスをペアガラスしたことでサッシの見込み寸法が変わってくることです。創建当時のサッシ形状及び納まりにできる限り近づけるために、古い図面と新規の図面を重ね合わせて、何度も図面を書き直しました。現代の生産設備と技術で可能な限りの再現性を追求しました。枠の素材もアルミを検討しましたが、最終的にステンレスに決定しました。創建当時は、鉄板を手曲げしていたため、大きなRが出るのが特徴なのですが、この大きなR形状まで忠実に再現しています。創建当時の意匠、ディテールを忠実に再現するという設計者のこだわりに応えるかたちで、障子の形材だけでも30型以上を製作しました。