GIO PONTI × LIXIL

ジオ・ポンティの「愛すべき建築」

鈴野浩一、禿真哉(トラフ建築設計事務所)

独自のタイルを日本で再現

小関雅裕
(株)LIXIL 技術研究本部 研究戦略企画部
 ものづくり工房 グループリーダー

ジオ・ポンティは若いころに陶磁器製造会社で働いていたこともあってか、その多くの作品で内外装にタイルを使っています。 今回の展覧会では、ポンティが自らがデザインした様々なタイルを展示するために、LIXILの「ものづくり工房」とその協力会社で再現しました。職人の手わざによってつくられたタイルを現代によみがえらせるには様々な困難がありましたが、 それを乗り越えて成功したものです。ものづくり工房グループリーダーの小関雅裕さんに、苦労した点を聞きました。

タイル再現のキッカケ

ジオ・ポンティのタイルを再現することとなったきっかけは、サン・フランチェスコ教会でした。その修復工事の際に、LIXILがタイルの制作に携わったのです。 これが縁となって、アーカイブスとの親交が深まり、タイルの魅力を伝えるために再現を行うことになりました。

ジオ・ポンティ アーカイブスとの打ち合わせ(ミラノ)

壁に使われた立体的なタイル

特に再現が難しかったのはビエンコルフ・ショッピングセンター(オランダ、アイントホーフェン)の外壁タイルでした。書籍に掲載されていた写真から、窯変※1調のタイルであるとは推測できましたが、 タイルのサイズや、何種類のタイルがあるかといった細かなことはまったくわかりませんでした。「幸いなことに、展示設計を担当したトラフ建築設計事務所のお知り合いがオランダに住んでいるとのことで、 写真を撮ってもらったりサイズをあたってもらったりして、これを資料にして制作することができました」

実際のサンプルがない状況下での再現は非常に難しいものでした。しかも、つくり上げた再現タイルは、アーカイブスから承認をうけなければなりません。展覧会に間に合わせるために、時間との戦いだった、と小関さんは振り返ります。 「アーカイブスメンバー(ポンティのご息女)から『色ムラがもっと少ないはず』と言われた時は冷や汗が出ましたが、その後の調査で出荷当時の写真が見つかり、当時のものとほとんど同じ状態で再現されていることが確認され、 事なきを得ました」。

タイルは平型、凸型、凹型、凸と凹の並列型の4種類を混ぜて使っていることがわかりました。しかもその立体感のあるレリーフが予想以上に深いものでした。 「これを乾式の製法でつくると型も大きくなり、時間的にも間に合いそうもないということで、湿式リプレスで制作しています。ある程度の塊を湿式で成形してから、石膏型でもういちどプレスするという方法です。色ムラは施釉※2で表現しました」。

ビエンコルフ・ショッピングセンター(アイントホーフェン)
タイル現地確認
ビエンコルフ・ショッピングセンター タイル試作
ビエンコルフ・ショッピングセンター
タイル試作石膏型

ホテル・パルコ・デイ・プリンチピのレセプションやレストランで使われている小石形のタイルも、資料が乏しい中での再現で、苦労しました。 ここでも書籍に載った写真をもとにサイズと形状を割り出し、型鋳込み※3による整形で制作しています。青と白の二種類の色がありますが、同じ青色でもよくみると形が微妙に異なっているのがわかります。 これは6種類の形状をつくって、手作り感を表現したものです。

ホテル・パルコ・デイ・プリンチピ 小石形タイル試作
ホテル・パルコ・デイ・プリンチピ 小石形タイル試作
ホテル・パルコ・デイ・プリンチピ 小石形タイル窯出し

床タイルの自然なゆらぎ

「このホテルには、試作品をアーカイブスに見てもらうためにイタリアを訪れた際に寄り、宿泊しました。部屋から見えるナポリ湾の海と空の青を、そのままホテルの内部へ取り込もうとしたことが実感できました」。 オリジナル・タイルの青は、コバルトを原料にして生み出したものです。日本では呉須※4と呼ばれる顔料と成分は似ています。
「日本にはイタリアとはまた違う海や空の色があります。それを表わすには、むしろ呉須の方が合っている、とも考えました」 この床タイルは、商品化を前提にして再現を行いました。そのため、量産化するための製法の工夫も凝らされています。しかし、オリジナル・タイルの良さを損なうことは許されません。
例えばユニークな模様は1枚ずつ手描きするステンシル技法によってつくられたものです。微妙に異なる筆のタッチが、味わいを生むのですが、これを同一の刷毛目で床を埋めると、単調な面に感じられてしまいます。 「ここでは同じデザインでも3パターンの刷毛目を用意して、それを混ぜることで元のタイルがもっているゆらぎのような表情を再現しました」
また、タイルは平滑な面に見えますが、実は微妙にうねっているとのこと。それもここでは再現しています。手づくりの良さを現代によみがえらせる工夫が随所に盛り込まれたというわけです。 また、ガッビアネッリ社の黄色い床タイルの再現では、釉薬※5・絵具の手掛けにより、ゆらぎ面を表現することに成功しています。

ホテル・パルコ・デイ・プリンチピ 床タイル試作
ガッビアネッリ社 床タイル制作
ガッビアネッリ社 床タイル試作
  1. ※1 窯変:焼成の時に、素地(きじ)や釉薬(ゆうやく)の成分が化学変化をおこし、釉や工面、素地に予測しない釉色や釉相など変化が現れていること。
  2. ※2 施釉:やきものに釉薬(ゆうやく)を施す(掛ける)こと。刷毛塗りや漬け掛け、流し掛け、コンプレッサーで霧掛けなどの方法もある。
  3. ※3 鋳込み:石膏型に泥状の陶土を流し込み成形する方法。
  4. ※4 呉須:コバルトを主成分とする天然の鉱物顔料。藍色の染付けに使われる絵具(上絵の具)。
  5. ※5 釉薬:陶磁器(やきもの)の表面に施されたガラス質の被膜。吸水性をなくし、その皮膜自体が色、表情の装飾ともなる。「うわぐすり」とも呼ぶ。

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公開日:2014年06月30日