東日本大震災復興支援活動

「女川温泉ゆぽっぽ タイルアートプロジェクト」── タイルアートをLIXILがサポート

坂 茂(建築家、坂茂建築設計)

『新建築』2015年9月号 掲載

インタビュー
アーティストとのコラボレーション
坂 茂(建築家)

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女川との出会い

震災直後の避難所に間仕切りを届ける活動は、2004年の新潟県中越地震の時からです。まだ紙管ではなく、ハニカムを使うなど試行錯誤していました。東日本大震災直後も避難所にプラバシーがないことが予想できたので、すぐに活動を始めました。避難所という避難所を順番に回っていました。

それと同時に、岩手、宮城、福島の3県に、TSP太陽と共同して業者登録をしました。東北沿岸には仮設住宅を建てる土地が少なく、政府による平屋の仮設住宅では多くの住民を受け入れることが難しいと思って、コンテナを積んだ3階建ての仮設住宅の模型をつくり、紙管の間仕切りをつくる時に、「もし土地が十分になければ、こういう方法もあります」とセールスマンのように回っていました。話があった場合、すぐに取り組めるように、需要のない時から業者登録をしていたのです。

その時に、女川町の安住宣孝前町長にお会いして、予定していた土地が余震の影響で使えなくなり残りは野球場しかなくなったことをうかがい、コンテナの仮設住宅を提案したら、前町長の英断でプロジェクトが開始しました。業者登録はしていたのですが、3階建ては前例がないということで行政とのやりとりに時間がかかってしまったのですが、なんとか実現しました。

アンケートを実施

予算も面積も一般の仮設住宅と同じですが、コンテナというのは意外に住み心地がよいので、ほかの仮設住宅に住んでいる方に申し訳なく、何かしたいと思い、学生たちと一緒に女川のみなさんにアンケートを取りました。「どういうものがほしいですか」と一軒一軒回ったんです。その中でもっとも多かったのが銭湯という回答でした。仮設住宅のお風呂は狭いから足を伸ばせないし、子どもと一緒に入れない。

たまたま仮設住宅をつくった野球場の近くに温泉が出ているので、町と話し合って、さっそく設計をしました。ただ、設備面や衛生面で費用がかかることが分かり、仮設の予算では合わなく困っていた時に、町から駅舎を新設する話があり、駅のそばにあった「ゆぽっぽ」という町営温泉を駅舎と一緒に合築したらというアイデアが出ました。仮設住宅も好評だったので、設計をやらせていただくことになりました。

温泉とアート

コンテナを用いた「女川町コンテナ多層仮設住宅」。
この建築で最初に考えたのは、駅から海に向かってまっすぐ軸線がつくられ、そこに商店街ができるのですが、その軸線と呼応するようにシンメトリーの外観をつくることでした。もうひとつの特徴は屋根です。建築において屋根がもっとも重要だと思っています。屋根さえあれば空間ができます。温泉に入っている時、休憩室で飲食している時、気持ちいい光が屋根から降り注ぐ空間、季節によって光の質が変わり、それを感じられる場所をつくりたかった。

温泉の設計では、お風呂には絵があるほうがいいと思い、千住博さんに相談したら、ぜひお手伝いしたいということで、水戸岡鋭治さんにも加わってもらいました。また、阿部鳴美さんのように女川でスペインタイルをやられている方がいるので、千住さんの絵をタイルで表現できればと思っていました。これまでアーティストの方とコラボレーションしたことはなかったのですが、ここに絵があるのとないのでは全然違います。男女の浴室を入れ替えますので、両方の絵が楽しめます。千住さんの絵の再現性もよかったし、タイルは耐久性もあるので最適な材料だったと思います。LIXILも協力的で、色も素晴らしく、千住さんも喜んでいました。

コンテナを用いた「女川町コンテナ多層仮設住宅」。

コンテナの仮設住宅に住んでいる方が3月21日のオープニングに来てくれて「家賃を払っても住み続けたい。また、坂さんの建築が町にできて嬉しい」と言っていただきました。日本では公共建築に市民が愛情を持たないことが多いのですが。今回、駅が完成して嬉しいと言ってくれたのは、日本では珍しいことだと思います。こういう建築をこれからもつくり続けていきます。

(2015年7月30日、坂茂建築設計にて 文責:本誌編集部)

「JR女川駅/女川温泉ゆぽっぽ」東側外観。スキップフロアを上がった2階がゆぽっぽ。1階は駅事務所のほか、交流スペースなどがある。