東日本大震災復興支援活動

「女川温泉ゆぽっぽ タイルアートプロジェクト」── タイルアートをLIXILがサポート

坂 茂(建築家、坂茂建築設計)

『新建築』2015年9月号 掲載

LIXILのものづくりが受け継いできたこと

「女川温泉ゆぽっぽ タイルアートプロジェクト」で、タイル制作を手がけたのが「LIXILものづくり工房」である。
LIXILのタイルや便器に代表される焼き物づくりは、焼き物の伝統に支えられた常滑の地で育まれた。きっかけは、フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテル旧本館(1923年竣工)にある。ここの内外を飾る煉瓦をつくるために「帝国ホテル煉瓦製作所」が設立された。この製作所のことはあまり知られていないが、後の伊奈製陶創業者が技術顧問を務め、建築部材として求められる高い品質の煉瓦がつくられた。このものづくりの技術は、その後、伊奈製陶、 INAX、LIXILへと受け継がれ、現在に至っている。
LIXILものづくり工房では、過去の建築物に使われたタイルやテラコッタの復原・再生に取り組んだり、建築家やアーティストの創作活動を通じて魅力的で革新的な焼き物づくりをしている。ここでは、LIXILのものづくりがどのように受け継がれてきたかを、LIXIL広報部文化企画グループ・学芸員の後藤泰男さんと、ものづくり工房・工房長の小関雅裕さんに伺った。

トライアンドエラーを惜しまない文化

「建築家とのコラボレーションは帝国ホテルの時に始まりました。ライトの強い思いに応えるため、試作を何度も繰り返し生産したと聞いています。そういったトライアンドエラーを惜しまない文化が、このものづくり工房に引き継がれています。工場でのラインに乗らないものや単品の要望に答えるのがここの仕事です。できる限り断らないで、培ってきた経験と技術で応えたいと思っています」(小関氏)。帝国ホテルが現在でも多くの人を魅了するひとつに、職人の努力が挙げられるだろう。煉瓦はもちろん、大谷石の職人も、次々に変更される設計に対応したという記録がある。日本の技術力が建築を支えてきたのだ。

東京駅丸の内駅舎の化粧煉瓦

「東京駅丸の内駅舎保存・復原」(『新建築』1211)では3階部分の外壁の化粧煉瓦約40万枚が復原された。「辰野金吾は煉瓦ではない表面仕上げにしたかったのではないかと思います。煉瓦では西洋建築そのままになってしまうので、日本的表現は何かとした時に煉瓦の上に化粧煉瓦(タイル)を張ったと考えました。その思いを汲み取って復原作業を進めました」(後藤氏)。色合いを安定して再現するため知多半島の赤土100トンを一度に確保した上で見本を作成したり、焼成する条件と原料を少しずつ変えながら試作を繰り返し15,000枚を超える見本をつくるなど、経験と技術が復原を可能にした。

「東京駅丸の内駅舎保存・復原」では3階部分の外壁の化粧煉瓦約40万枚を復原。**

建築家・アーティストの思いを汲み取る

1963年につくられたジオ・ポンティ設計の「聖フランチェスコ教会」の外装タイルを復原した。**

ジオ・ポンティが設計したミラノにある「聖フランチェスコ教会」の外壁タイルもLIXILの復原技術による。タイルもジオ・ポンティ自身のデザインで、四角錘の形状が特徴。釉薬の溶融粘性の違いで四角錐の稜線がはっきりしてしまい現代的になってしまうことから、釉薬の粘性を調整して、当時の手づくりの柔らかさが残るように調整した。「制作中、なぜ四角錐という形状にしたのか疑問だったのですが、太陽光の反射が時間によって違うことが完成後に分かり、建築の奥深さを感じました。設計者の思いを感じ取れるよい経験でした」(後藤氏)。アーティストとのコラボレーションでは、大竹伸朗さんのアート作品が印象的だったという。「タイル絵は、画家が長い時間を掛けて描いた絵を、窯の炎という人間の力の及ばないものに託すこと。しかも、窯から出ないと本当の色が分からない。これは自分にとって新しい世界だ」と語った大竹さんから、本物とはどういうことなのか、焼き物とは何かということを改めて考えさせられた。技術協力だけではなく、アーティストから教えられ気づかされることによって、ものづくりの本質が受け継がれている。

経験と技術の継承

「タイル生産は時代と共に効率化が求められ、工場も自動化していきました。
時代の要求に応え生産量を増やすことはメーカーとして当然のことですが、その陰で、手間をかけ時間をかけてつくってきた経験や技術は居場所を失い、細々と受け継がれてきました。でも、女川のタイルアートプロジェクトなどに参加すると、この経験や技術は今後、もっと求められるように感じています」(後藤氏)。

焼き物は人類のもっとも古いテクノロジーといわれていて、今日もつくり続けられている。そこには実用だけでなく、文化や芸術としての側面も担っており、職人の技が語り継がれ、伝承されてきた。今後も、焼き物による表現は多くの場面で求められ、手間をかけてつくることが必要になるだろう。こういった経験や技術を培っている”LIXILのものづくり”に今後も期待したい。(編)

大竹伸朗 「焼憶」展(2013年)に展示された「転写による焼き付けタイル」。**(**提供:LIXIL)

LIXILものづくり工房

**

LIXILものづくり工房は、ものづくりの原点と未来を探る場として、2006年にINAXライブミュージアム内にオープンした。やきものの街で培った「ものづくり」の伝統や技術を継承し、魅力的で革新的なものづくりに挑戦している。ものづくり工房のあるINAXライブミュージアムには、ほかに「窯のある広場・資料館」「世界のタイル博物館」「陶楽工房」の既存の文化施設に「土・どろんこ館」があり、さらに2012年、「建築陶器のはじまり館」を新設し、ものづくりの心を伝えるミュージアムとして活動を展開している。

所在地:愛知県常滑市奥栄町1-130 (INAXライブミュージアム内)
URL: https://livingculture.lixil.com/ilm/ceramicslab/

雑誌記事転載
『新建築』2015年9月号 掲載
https://shinkenchiku.online/shop/shinkenchiku/sk-201509/