上野トイレミュージアム×LIXIL

藝大生が創作した体内と自然の循環を感受するトイレ

動物の生態を再現した“うんちタイル”

——トイレブースの腰壁には“うんちタイル”が敷き詰められています。なぜ排泄物を模したタイルになったのですか。

伊藤さん:トイレの空間デザインを計画するに当たっては紆余曲折がありました。ゼミでリサーチしていくなかで、アフリカに動物のフンを干してレンガにして家をつくる例があり、これはもしかしてと、工芸科陶芸の豊福誠教授に相談しました。動物の“うんち”を使ってタイルをつくりたいと話を持ち掛けたら「それはいくら何でも無理だよ」と。動物のフンは草なので、焼成温度に耐えられずに燃えてしまいます。その代わり、動物のフンを模したタイルであればできるのではないかというアドバイスを頂いて、“うんちタイル”にたどり着きました。

東京藝術大学 美術学部工芸科陶芸 学部4年 保坂朱音さん
東京藝術大学 美術学部工芸科陶芸 学部4年
保坂朱音さん

保坂さん:中山研究室から“うんち”をタイルでつくることを依頼されて、最初は結構議論になりました。“うんち”を形づくってタイルにして沢山あったら、果たして綺麗なんだろうかと。だったら、排泄物でなく生息環境などで表現したらどうかという意見も出ました。結局、私たちは“うんち”を汚いと思っている。けれども動物にとっては健康を確かめるひとつの大切なもので、そういった点から見直したいとなった。そこから、意識を変えて“うんち”をしっかり見つめて、陶芸の学生間で意見交換をしながら、それぞれ担当の動物の“うんちタイル”をつくっていきました。

伊藤さん:例えばパンダでいうと、初期のタイルの原型はサイズも大きくキッチュな感じでデザイン重視でした。これを中山准教授にフィードバックしたところ、「果たして、これで本当にいいのだろうか」となった。パンダの生態をもっとよく知ろうと、その生態的なエビデンスを調べました。パンダはすごく消化が悪い動物で、食べたものが消化しきれずにフンに笹のテクスチャがどうしても出てしまう。その情報からデザインにもう一度戻り、第二期のタイルの原型では、笹に見立てたものを押し付けて型をつくり、材料を流し込んで仕上げています。第一期と比べて、より写実的ですが藝大ならではのデザインが表れるような方向性で進めていきました。

タイルの原型の試作品
タイルの原型の試作品。薄茶色が第一期の案。白色は第二期のもので、より写実的になっている

保坂さん:それぞれの動物の“うんちタイル”の原案は、形にしたもので3、4パターン、スケッチブックにすると20パターン以上考えたと思います。キリンの“うんちタイル”の場合、形は1種類ですが釉薬は2パターン使っています。

東京藝術大学 美術学部工芸科陶芸 学部3年 大槻莉子さん
東京藝術大学 美術学部工芸科陶芸 学部3年
大槻莉子さん

大槻さん:ペンギンも形が1種類で、釉薬は3パターンに分けています。パンダとライオンは形が2種類、釉薬は形ごとに1パターンです。一つひとつの形だけではなくて、どうやって配置するかタイル壁面の見せ方についても話し合いました。陶芸の学生は、そもそもタイルが専門ではないので、一からの勉強だったのですが、どう見せたら動物らしさを表現できるのかタイルの割り付けについてかなり考えました。

伊藤さん:トイレブースの腰壁一面に“うんちタイル”を貼っています。タイルの種類を増やせば簡単に複雑なパターンはつくれますが、コストの問題もあって、いかに少ない種類のタイルで複雑な面をつくるかという挑戦でした。化学の分子の空間充填モデルを見たり、エッシャーの作品を参考にしてインスピレーションを得たり、本当に多岐にわたるリサーチと議論で一緒に突き詰めていきました。

トイレブース内観 ライオン
トイレブース内観 パンダ
トイレブース内観 キリン
トイレブース内観 ペンギン
トイレブース内観。腰壁は“うんちタイル”で一面をデザイン。タイルをパターン化したことで、メッセージ性と清潔感のある空間を両立できた。写真左上から時計回りにライオン、パンダ、キリン、ペンギンのブース

——“うんちタイル”はLIXILものづくり工房で製造しましたね。

保坂さん:学部生なので研究段階ですが、どのような土を使って、その上に釉薬を掛けたら、どういう表現になるかを勉強しています。今回、土ではなく釉薬で考えなくてはいけないとなった時に、最初、どうすればいいのか悩みました。そもそもタイル製造の過程が初めてだったので、釉薬を選んで工場に注文するという方法が新鮮でした。LIXILものづくり工房に行かせてもらいましたが、膨大な種類の色見本と釉薬があって、それも単純にすごいと感じました。

大槻さん:量産のタイルづくりは初めてのことばかりでした。色見本はそれぞれ自分たちでつくったテストピースを持っている程度ですが、LIXILものづくり工房には想像がつかないほどの種類が一堂に揃っていました。その圧倒的な数に驚きましたが選びやすく、とてもいい経験になりました。一方で、タイルは発注して制作過程を見ることなく完成品が納品されます。いつもは自分の手の中でひとつの作品が出来上っていくので、慣れない方法に戸惑いました。出来上がりのイメージが全く持てず、タイルを一つひとつ全部自分でつくって作品としたほうが楽なのではないかと感じたほどです。今回、特に1種類のタイルで壁面を構成していかなくてはならず、工業製品というのがクローンを並べる感じがしてしまって、自分の作品らしさを表現するのが難しかった。それと、“うんち”という本来は決められた形ではないものをひとつのパターンにするという点も苦戦しました。

保坂さん:工芸科では自分たちでつくってその過程をほとんど見れるというのが、私たちのものづくりだったので、発注して、しかも自分たちでなく職人さんが施工して出来上るというものづくりがすごく新鮮で、面白いと感じました。自分とは違う、今回のようなものづくりもあるということが勉強になりました。

伊藤さん:タイルの施工には、中山研究室が立ち会いました。配置のパターンはこちらで用意して、左官職人さんとコミュニケーションを取りながら仕上げてもらいました。目地も一色でなく複雑な施工なので「何かあったら直ぐに呼んでください」とお願いして慎重を期してタイルを割り付けました。

大槻さん:完成したタイルの腰壁は艶々していて綺麗で、純粋にうれしかったです。

保坂さん:清潔感を保ちながら生息環境を表現する点は上手くいったと思います。汚いものに見られたらと怖かったのですが、完成したトイレを見に行った時に、小さな子どもが「すごく楽しい」「すごく綺麗」と言ってくれたのを聞いて、うれしかったですね。最初、“うんち”に寄せるという話の時に、だったら手押しのタイルがいいのではと思ったのですが、出来上りが綺麗に仕上がったというのは、手押しではなくて量産の型による製品がそう見せているのではないかと感じました。型を使った均一なタイルを並べることで、モチーフが“うんち”でも綺麗に見えるという印象を受けました。

ライオンの “うんちタイル”
ライオンの “うんちタイル”
パンダの “うんちタイル”
パンダの “うんちタイル”
キリンの “うんちタイル”
キリンの “うんちタイル”
ペンギンの “うんちタイル”
ペンギンの “うんちタイル”

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公開日:2020年12月23日