ピンチや失敗は新展開の種!

「なんとかせにゃあクロニクル 伊奈製陶100年の挑戦」展

『コンフォルト』2024 December No.200

土地の物語が立ち上がる
八重洲焼きタイル (2022年)

2022年に竣工した再開発ビル「東京ミッドタウン八重洲」。その地下20mの現場土を使ったタイル製作の依頼を受け、LIXILやきもの工房は、現場土の配合率のこれまでの限界を越えるために、新たな手法で挑戦した。

現場の土で「八重洲焼きタイル」

INAXライブミュージアムに隣接する「LIXILやきもの工房」。国内外の建築家やアーティストとのコラボレーションによるタイル製作、歴史的建造物のタイルやテラコッタの復原、研究開発などに取り組んでいる。今回、「東京ミッドタウン八重洲」の現場土のタイルづくりを発案したのは、実施設計を担当していた竹中工務店東京本店設計部の喜多淳子さんだ。窓口となったLIXILタイル営業部の横川充彦さんが振り返る。

「喜多さんに現場に呼ばれ、敷地の粘土を2キロ手渡されたんです。陶芸が趣味の喜多さんが、地下20メートルほどの現場土を採取し、自ら水簸(すいひ)したものでした」。水簸とは土を水と混ぜ、沈降速度の差を利用して、粘土を精製する技法だ。喜多さんは陶芸用白土に水簸した現場土を6段階の割合で混ぜ、陶芸教室の窯でサンプルを焼き、50パーセント以下ならいい風合いの形・色ができそうだと検証したうえで、横川さんに試作を依頼したのだ。「やきもののことをよくご存じだなと驚きました」

すぐにやきもの工房の芦澤忠さんに電話し、状況を伝えた。答えは「うーん、現場土をそんなに多く入れたことはないですね。数パーセントでも割れたり、反ったりしますよ。でも、やってみて、結果を判断してもらいましょう」。横川さんは「芦澤さんはできないではなく、やってみようと言う人です」と信頼を寄せる。タイル原料に5、10、20、50パーセントの現場土を配合してサンプルを焼くと、上限50パーセントでは膨れが出てしまい、強度も落ちる。20パーセント以下なら可能だった。この結果から現場土5トンがやきもの工房に搬入された。「試作は水簸し不純物が少ない粘土だったので可能でしたが、未処理の現場土を使って本焼きまで行くのは難しいと考えました。でも、なんとかしたいと思ったんです」と芦澤さん。

大きな不純物は取り除けるが、5トンもの土の水簸は現実的ではない。現場土をクラッシャーで粉砕し、2回目の試作。「ところが焼いて数日たつと、試作タイルの中に残っていた石灰粒が空気中の水分を吸って膨張し、表面が剥離する現象が起きてしまった」。工房のメンバーと話し合い、現場土をボールミルで泥状にすり潰すことで、より均質な材料に近づけ、なんとか本焼きができた。「すり潰す方法は、釉薬調整のときによくやりますが、現場土では初めてでした。高いハードルを与えてもらったおかげで、新しい技術が増えたんです」と芦澤さんが笑った。

中央区立城東小学校と八重洲ウォーク

再開発でミッドタウン八重洲に移転した中央区立城東小学校。竹中工務店東京本店設計部の川内賢さんが担当し、ピロティ空間に面したファサードに3色の八重洲タイルが目地なしで施工された。1枚1枚違う表情と色味をもち、やきものの自由度を感じさせる。

八重洲焼きの由来が、現場のプレートに刻まれた。

柳通りからミッドタウンに向かう八重洲ウォークに沿う塀は、同じく設計部の喜多淳子さんが担当。二丁掛と二連山2タイプを縦にランダムにデザイン。

八重洲焼きのサンプル

(1)

(2)

(3)

(1)1回目のサンプル。タイル原料に喜多さんが水簸した現場土を配合。配合率は上から5、10、20、50%。焼成温度は2段階。八重洲の粘土は鉄分が多く、配合率が多いほど赤味、黒味を帯びる。50%ではところどころに膨れが発生した。(2)本焼きの八重洲焼きタイル。上3枚は城東小学校用。裏足の形状は乾式の引っ掛け工法に対応する。上から現場土の配合率10、15、20%。色が異なるところが味わい深い。下3枚は八重洲ウォーク用。形状は3タイプ。配合率はすべて20%。モルタル施工。(*)(3)横川さんは竹中工務店へのプレゼンテーション時、サンプルをお菓子のように箱詰めして設計部に届けた。(*)

横川充彦 Mitsuhiko Yokogawa

LIXIL WATER TECHNOLOGY JAPAN 営業本部タイルチャネ ル営業部プロジェクトタイルアカウントG第1チーム

芦澤 忠 Tadashi Ashizawa

LIXIL WATER TECHNOLOGY JAPAN デザイン・新技術統 括部 やきもの工房(*)

取材・文/清水 潤 資料写真/LIXIL 撮影/梶原敏英(*)、尾鷲陽介(★)

『なんとかせにゃあクロニクル 伊奈製陶100年の挑戦』展

伊奈製陶からINAXまでのものづくりの歴史を、年表とエポックメイキングな製品や技術などの展示で展観。さらに惜しくも実現しなかった事業やアイデアにも光を当てる。

会場   INAXライブミュージアム「土・ どろんこ館」企画展示室 愛知県常滑市奥栄町1-130
会期   2024年4月13日~2025年3月 25日 10:00~17:00 (入館は 16:30まで)  水、年末年始休

https://livingculture.lixil.com/ilm/

書籍『なんとかせにゃあクロニクル 伊奈製陶 100年の挑戦』
企画/INAXライブミュージアム企画委員会
発行/株式会社LIXIL A4変形判 130ページ
定価/¥1,500+税
https://livingculture.lixil.com/ilm/learn/booklist/inaseito_book/

雑誌記事転載
『コンフォルト』2024 December No.200
https://confortmag.net/no-200/