「Omoiiro™」から広がるタイルデザインの可能性──2つの事例から読み解く

アレクシー・アンドレ(Omoiiro 開発者、アーティスト、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員)
丹羽 浩之、加古 ひとみ(デザイナー/有限会社ヴォイド)

CASE 2 | 豊田合成記念体育館 レストラン「& tresse」/ 愛知県稲沢市

「Omoiiro」はストーリー性のあるタイルをデザインする一助に

丹羽 浩之、加古 ひとみ(デザイナー/有限会社ヴォイド)

ー「Omoiiro」タイルを採用したレストランのコンセプト

レストラン「& tresse」は愛知県本社の豊田合成株式会社が稲沢駅前に建設した豊田合成記念体育館に併設されたレストランです。スポーツ施設でありながら、駅からすぐの立地という特長から、地域に開かれたカフェ的なレストランにしたいと思っていました。

店名についている「&」はキーコンセプトとなっていて、&には何かと何かをつなぐ、企業と地域をつなぐ、人と街をつなぐという意味を込めています。
店内の空間も様々な状況に応じて使いやすいように、いくつかの機能性を兼ね備えた空間で緩やかに区切っています。アイランドキッチンを中心に窓際で景色を楽しみながらソファでくつろげる席から、周りから一段高くし目線を変えた空間。グリルを楽しめる席、パソコンで作業もできる席、個室など様々にあります。照明や家具などのしつらえも空間毎にかえているので、何回か来店いただいても座る席によって印象がかわるようなお店にしています。

丹羽 浩之
加古 ひとみ

デザイン的にも豊田合成さんという企業色と稲沢という町のもつキャラクターを反映できるように考えました。内装は茶系や黒系の落ち着いた色調で、できるだけ自然素材を使ってデザインしています。これは稲沢が化石の出る町であり、銀杏で有名だということで、そこからイメージされる土や樹木のイメージをデザインのストーリーとして取り入れたいと思ったからです。

豊田合成

ー「Omoiiro」タイルのデザインプロセス

「Omoiiro」はカタログに掲載のあるシリーズ(*DTL 『ファインストライプ 』で存在は知っていました。すでにグラフィックの形状が決まっているものに色を「Omoiiro」を使って入れられるというものでしたが、今回は無理を言って色だけでなく形状も含めて自由にデザインさせてほしいという経緯で始まりました。
タイルを使う箇所は店内に2つある柱でした。建築の構造上どうしても出てきてしまう柱で、この柱が空間上、違和感がでないように、逆に言えば、特別なキャラクターが出せる場所になるようにと考えながらデザインしました。

社章の六角形をモチーフに広がるインテリアデザイン

店内のデザイン要素のキーとして六角形という形状がありました。この六角形は豊田合成さんの社章にもなっている炭素原子6個がつくる化合物「ベンゼン環」に由来しています。ベンゼン環は六角形の形態によって強固に安定しながら、結合する置換基によっては活性する化学物質と言われています。その強固なつながりと活性というイメージをさらに発展させて、六角形の線がさらに周囲へ伸び広がり、新たなつながりがうまれるようなデザインイメージを随所に取り入れました。床 や天井材にそのデザインモチーフを入れて、柱のタイルにも展開させようと思いました。タイルでそのようなグラフィカルパターンをゼロから作り上げ、色を「Omoiiro」で仕上げる。柱にストーリー性のあるデザインを持たせるには適した技法だと思いました。

TOYODA GOSEI

「Omoiiro」で表現したかったタイルの素地感と印刷のかすれ感が折り重なる風合い

「Omoiiro」でチャレンジしたのは、六角形のグラフィックパターンがきれいな直線ではなく、線の太さや色の濃淡がかすれたり、重なりあってレイヤーのようにバランスをとることでした。こちらからの要望やLIXILからの提案などで何度かやりとりして、最終的にはタイルの持つ素地の良さにしっかり合うデザインを作ることができました。かすれ感やレイヤーは稲沢の地層が伝えてくれる大地の重なりを表現できたと思いますし、色も樹木のグリーンなどは焼き上がり工程で淡くなってしまうことを何度か調整しながら、よいものが出来ました。立体感のあるパターンでありながらも、模様がのらないタイルの素地を見せる部分もあり、程よい凹凸感になりました。
最終的には400角サイズで4パターンのタイルを作りました。割り付けとしては床に近いタイルは地面をイメージした茶系の濃いものを配置し、そこから上は樹木を想像させるグリーン系のタイルにしました。

「Omoiiro」はデザイナーの恣意性やタイルの意外性を活かせるツール

「Omoiiro」はAI的で、チョイスした色について「システムが選んだ色」と言うと、クライアント含めてデザイン決定の合意形成がとりやすいなと思いました。とは言え、恣意的に人間が決める部分もあります。例えば、色のチョイスは「Omoiiro」がはじき出しますが、そもそもどの写真や画像を「Omoiiro」で解析するかの決定は人間がしています。これは恣意的と言えます。また、「Omoiiro」が抽出するカラーパレットもいくつかの選択肢があるので、その中から、もう少しこの色を足したいなどのアレンジを加えるのにも人間の恣意性が入ります。
このようにシステムが全て決めているわけではないけれど、こういったシステムをデザイン決定のための1ツールとして使うことはデザイナーにとってはストーリーのあるクリエイティビティの一助になると感じました。

また、「Omoiiro」で作った色やデザインがタイルになる際には、タイルという自然素材の持つ不確定要素、窯の中で焼かれてみないとわからない、という意外性をポジティブにとらえてデザインを組み立てていくことで、タイルの面白さを引き出せるのではないかと思いました。

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公開日:2020年09月30日