ちょっと新鮮な浮遊感――INAXフロートトイレ

湯浅良介(オフィスユアサ)

『コンフォルト』no.181 2021 October 掲載

床から便器を浮かせて足元はゆったり。タンクはもとより給水管もコードも隠されている。
約2年前に発表されたINAXのフロート トイレが、いま、注目度を伸ばしている。
新たな工法開発によって木造建築に設置できることから、住宅での採用が増えているのだ。
インテリアの自由度がアップし、掃除や手入れが格段にラクなのも人気の秘密。
タンク付、タンクレス、収納付に続く第4のトイレとして、選択肢に入れておきたい。

取材・文/秋川ゆか 撮影/梶原敏英(1頁目の住宅)

フロート トイレ
神奈川県大磯町の佐藤邸。玄関からドア越しにダイニングキッチンを見る。右のドアを開けるとトイレ。室内とトイレ内のインテリアに統一感を持たせた。サニタリー感があまりないフロート トイレなら、ドアを開けていても違和感がない。

フロート トイレが家のインテリアを自由にする

玄関脇にある1階トイレ
天井を極限まで高く取り、列柱や欄間のグリッド、押し縁、壁面照明などで連続性を表現した室内。

室内と一体化するトイレインテリア

佐藤邸1階。右/天井を極限まで高く取り、列柱や欄間のグリッド、押し縁、壁面照明などで連続性を表現した室内。奥の部屋は家具製作のための工房にする計画だ。左手のグレーのドアの向こうが玄関。左/玄関脇にある1階トイレ。グレイッシュな色彩でコーディネートした。パネルはホワイトアッシュ。両サイドからの間接照明の光も美しい。

DATA
佐藤邸

所在地/神奈川県中郡大磯町
竣工/2021年7月
設計/湯浅良介
構造・規模/木造2階建て

すっきりとしたデザインの壁掛けトイレは、ヨーロッパでは住宅やホテルでも一般的だ。日本では公共空間などでの採用が主だったのは、荷重の問題があった。便器には使用するたび思いのほか重みがかかる。便器先端から135ミリの位置で約220キロの重量を10分間支えられるというのがJIS基準だ。木造住宅の壁や床ではそれが難しかった。
金属フレームによる新工法の開発によってその問題を解決したのがINAXのフロート トイレだ。これなら木造新築であれ古い家屋のリノベーションであれ、壁掛けトイレが設置できる。

このトイレでは、どんなよいことがあるだろう?

まず、トイレ空間のデザイン性がひろがる。便器が浮いているため床の素材やデザインは自由だ。給水管やタンク、電源コードなども見えないので、いかにもトイレな感じが少なく、リラックスできる小空間として考えることができる。そのことは使い勝手のよさとイコールでもある。トイレ本体に清潔をたもつさまざまな先進機能が搭載されていることに加え、形状に複雑な部分がないから清掃性はきわめて高く、床やパネルの拭き掃除もしやすい。
建築家の湯浅良介さん(オフィスユアサ)も、このトイレに注目したひとりだ。2台のフロート トイレを入れて設計した佐藤邸は、先ごろ竣工したばかり。夫婦と1歳の女の子が暮らす住まいを訪ねてみた。
極地基地を思い出すような幾何学的な外観の建物に入ると、1階はワンフロアの広い空間だ。天井がとても高い。3.6メートルほどある。
「配線配管を天井両脇にまとめることで、人が過ごす場所はできるだけ高く取りました」と湯浅さん。
フロアは引き戸によって、3つのスペースに仕切ることができる。広いほうは夫の佐藤裕さんが計画している家具製作工房。1間幅の搬出入口もある。玄関扉から直接入る小さなスペースは妻の有美さんがまつげエクステのサロンにする予定だ。またLDKもやがて、得意の料理を提供できる場にしようと考えている。
たっぷりと高さのある欄間部分に入れたガラスが明るい。押し縁や天袋、壁上に並ぶ照明、2階を支える列柱などの連続性が、一見シンプルでクールな印象を醸しながら、木の質感のためだろうか、どこか古代からつながるような普遍を思わす。
「予算的制約もあった中で、記号化した繰り返しのリズムを通して、用途や時間性を超えた、自律性と強度のあるデザインにしたいと考えました」(湯浅さん)
1階トイレは玄関そば。サロンに来るお客さまも使う場だ。フロート トイレは配線などが隠れるうえ、床材の切り欠きなども不要で非常に扱いやすかったと言う。玄関やキッチンの手洗いなども皆、壁付けにしているので同じ属性で統一もできた。
いっぽう2階は寝室などのプライベートスペース。天井は低めに抑え、ライトグレーと白を基調に落ち着きを出している。こちらのトイレではフロート トイレに付属する間接照明がいっそう役立つ。家族しか使わないので、夜はそれだけでも充分。
「寝室横のトイレに、この人感照明はとてもいいと思います」(湯浅さん)
佐藤夫妻も「トイレの床の奥まで好みのマットが敷けます。お掃除は本当にラクだし、便器が汚れにくいのもうれしいところ。照明もふた開閉も流すのも自動だから、子どもにもきっと使いやすいですね」。

湯浅さんには、フロート トイレならではのデザインも考えてもらった。以下の3案である。
「こんなコトもできたらいいなぁと夢想が広がりますよね。フロート トイレは、皆がこれまで認識してきたトイレとはちょっと違う。便器らしくないというか、壁についている何か白い家具。だからいろいろアイデアも湧きます」(湯浅さん)
壁や床が反射素材なら一層の浮遊感が出るだろう。照明を工夫すれば非現実感も増すだろう。清掃しやすさは浴室にも向く……。デザインの夢はどこまでもふくらむのである。

広い農地を前に立つユニークな外観。
古いデスクにシンクを取り付けた洗面台上/広い農地を前に立つユニークな外観。外からは想像できないほど内部は明るい。下/古いデスクにシンクを取り付けた洗面台は、施主の佐藤裕さんのアイデア。現在は別の仕事を持ちつつ、テーブルなどの家具の製作もしている。
2階トイレ2階トイレは、ライトグレーを基調としたやさしい雰囲気。床全体にマットを敷けるのもフロート トイレだからこそ。パネル上の絵は湯浅さんが自作を佐藤夫妻にプレゼントしたもの。

フロート トイレならではのデザイン案

フロート トイレの浮遊感を存分に生かす3アイデア。「夢想レベルでのスケッチですが」と話す湯浅さんだが、どれも実現すればかなり面白いものになりそうだ。おまけにトイレとして先進的機能を持ち、掃除もしやすいのだから、注目を集めること間違いない。
スケッチ・文/湯浅良介

バスタイム
浴槽、洗面器、トイレの給排水を全てまとめた箱形EPSをつくる。床は掃除しやすく、箱に手洗いがつけられたりシャンプーボトルや歯ブラシもおけて1石3鳥。
夢見心地
壁床天井に色をつけ、かつ光が均一に反射する素材を使用。あかりはフロート トイレの照明のみ、換気扇も扉の上など見えない箇所に設置して、現実に戻すような要素を視界から消す。
フロートな気分
12角筒の腰壁の一辺がフロート トイレとなり、付属の照明と合わせて全角に照明を設置。角度をつけることによりライン照明が各辺の腰壁に反射し、腰壁全体が光となり、床も光の面となる。
湯浅良介
湯浅良介 Ryosuke Yuasa
1982年東京生まれ。東京藝術大学大学院修了。2010~18年、内藤廣建築設計事務所。18年~オフィスユアサを設立し設計活動を行う。19年~東京藝術大学教育研究助手。
オフィスユアサ
https://www.yuasaryosuke.com

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公開日:2021年09月22日