心を休める「ウェルビーイングトイレ」に改修された
市庁舎のトイレ
──イネーブリングシティの実現を目指して(愛知県蒲郡市)

蒲郡市庁舎外観

人気の観光地「竹島」は、長さ387mの橋で陸地と結ばれていて、ここには5つの神社があり、パワースポットにもなっている。対岸とは異なる独自の植生をもっていることから島全体が国の天然記念物に指定されている
愛知県蒲郡市は人口約8万人、三河湾に面し、知多半島、渥美半島に囲まれた穏やかで風光明媚な景観が特徴。天然記念物の島「竹島」があるほか、県内最大の温泉観光地としても有名で、年間約460万人の観光客が訪れる。
そんな観光資源豊かな蒲郡市が現在積極的に進めているのが公共トイレの改修である。
市が掲げる「イネーブリングシティ(Enabling City)※1」構想では、「すべての人が心も体も健やかで自分らしく幸福に過ごせるまち」の実現を目指している。
今回は、「イネーブリングシティ基本計画」に基づき、ウェルビーイング要素を導入した公共トイレの改修を例に、環境整備の取組みについてご紹介したい。
蒲郡市庁舎のトイレ改修のきっかけと経緯

蒲郡市庁舎内観
これまでの行政サービスは「困っている人を助ける」ことが中心だったが、これからは「市民が自分らしく活動できる環境を整える」という役割に変化し、「人間の幸せと健康」を都市機能の中心に据えるという新しい概念が生まれている。
蒲郡市では、まちづくりの最上位計画として「第五次蒲郡市総合計画(令和3〜12年度)」を策定。中でも「イネーブリングシティ基本計画」の取組みの一つとして、公共トイレにウェルビーイング(心の満足を重視する)の要素を導入し、公共トイレの数・質を共に充実させるなどの具体的な施策を示している。
市庁舎本館2階のトイレ改修には、庁舎管理を行う行政課、コンセプト作成を担うウェルビーイング推進課、設計を行う建築住宅課の3つの課(以降、改修チームとする)が担当。具体的なトイレのプランについては、株式会社LIXILが「心身を整えるトイレ」というテーマに基づいた設計を、また、パナソニック株式会社がウェルビーイングにつながる照明計画の提案を行っている。中心的なコンセプトであるウェルビーイング空間の実装および検証については、横浜市立大学先端医科学研究センター助教の西井正造先生に専門的な助言をいただいた。
「今回の市庁舎のトイレ改修は、ウェルビーイング空間の実装に向けた“たたき台”となるもので、どのようなトイレが価値向上につながるかを探るべく、さまざまな要素を盛り込んでいます。そこから得た知見を今後に活かし、最終的には公園のトイレまで展開していくことを想定しています」と、建築住宅課の担当者は語る。
トイレ改修計画のスタートから完成まで
令和6年からプロジェクトを開始し、市役所内で定期的に打ち合わせを重ねながらプランを検討。令和8年に工事施工、改修前後のアンケートを実施して、最後に効果検証を行う予定で進めた。
市役所ではこれまで、トイレは最低限の機能で十分とし、改修も後回しにされがちだった。しかしトイレ環境を改善することは、来庁する市民だけでなくそこで働く職員の健康や労働のモチベーションを上げることにつながるとの仮定から、ウェルビーイング推進課と協力して「ウェルビーイングトイレ」へ改修することになった。
改修にあたり事前に市職員にアンケートを実施し、現状のトイレに対しての不満を列挙してもらった。アンケートでは、57人中54人と多くの職員が「少し不満足」、「不満足」という回答を寄せ、満足度がかなり低いことがわかった。前回の改修では、和式であった便器を洋式に交換しただけだったので「個室が狭い」「擬音装置(流水音)や、衛生面から便座クリーナーを設置してほしい」「ポーチ等を置く台が無い」などの意見が出された。
アンケートを担当した改修チームのメンバーからは「トイレ改修前のアンケート回答率の高さから、トイレが働く人にとっていかに関心の高いものであるかを実感した。ただトイレを新しくするだけでなく、時代や利用者のニーズに目を向けながら変革していくことが重要だと感じた」という感想が語られた。
次に、アンケートで出された不満を取り除くためにどうしたらよいのか、さらに幸福感を与えるためにどうしたらよいのかを改修チームの3課で検討。時代のニーズに応えるよう、アートやアロマ、緑化など、人間の五感を刺激する要素を取り入れることにした。



市役所職員への改修前アンケートの結果



トイレ機能として求めるもの
■ 故障・メンテナンス対応
・頻繁に故障しない便器や水栓であることが最重要
・故障した後に速やかに直してもらえること
■ 衛生面・感染症対策
・冬は手のアルコール消毒、便座クリーナーもあると感染症対策の観点から安心
・洋式トイレには蓋をつけて欲しい
■ プライバシー(音)
・音消しの装置をすべての個室に欲しい
・BGMでなくても、全個室流水音が流せるようにして欲しい
■ 荷物置き・予備のトイレットペーパーを置く台など
・ドアに荷物掛けが設置されたが、意識していないと出るときに額をぶつける
・ポーチ等の置き場(トイレットペーパーの上の簡易的なものでよい)
■ その他設備・環境
・ジェットタオル、全身鏡の設置
・冷暖房の完備
このコラムの関連キーワード
公開日:2026年03月19日

