心を休める「ウェルビーイングトイレ」に改修された
市庁舎のトイレ

──イネーブリングシティの実現を目指して(愛知県蒲郡市)

完成後の評価と今後の展望

令和7年12月完成後の職員たちの反応は以下のようだった。
・トイレがきれいになり、利用した職員から改修チームのメンバーへ感謝の言葉をかけに来てくれた。
・改修していないフロアの職員が、フロアを跨いで改修されたトイレを利用する姿が見受けられた。
・改修後に職員アンケートを実施したところ、満足が71%、少し満足が14%と概ね満足しているとの結果だった。
・改修後の不満点としては、男子トイレの器具の個数が減ってしまったことが挙げられた。

改修チームのメンバーからは「トイレ全体の寸法を変えることが出来ない改修の難しさと、トイレに求めるものが人によってさまざまで、奥深さを感じました。全体的には、不満の多かったトイレを満足度の高いものに改修でき、居心地の良いトイレ空間を提供できたと思います」と感想を述べた。
最後に、これからの公共トイレに求められること、メーカーへの要望を尋ねたところ、「今回は最前線のトイレ提案をいただきありがとうございました。これからの公共トイレは、ウェルビーイング要素をどう取り入れるかが、そのトイレの個性として良し悪しを決めることになりそうですね。メーカーへの要望としては、公共トイレはショールームに置いていないことが多かったので、事前に実物を見ることができる場所や機会があるといいですね。また、石鹸の補充液が使用機種によって変わることが多く管理が大変です。補充液については機種やメーカーを超えて統一出来るとありがたいです」という意見が出された。

公共トイレにウェルビーイング(心の満足を重視する)の要素を導入した今回のトイレ改修の試みは想定以上の成果が得られたようだ。トイレ空間が心地よいものになれば、人々の生きる満足度が高まる。蒲郡市庁舎の公共トイレ改修が、まち全体に広がることを期待したい。

【用語解説】

※1 イネーブリングシティ
イネーブリングシティとは、横浜市立大学の武部貴則特別教授の調査チームが提唱するまちづくりの新概念で、市民一人ひとりのウェルビーイング(幸福と健康)や自己実現を最大化することを目指した都市像を表したもの。都市の中で人々が幸福や健康(ウェルビーイング)を同時に感じられる要素(イネーブリングファクター:EF※2)を実装することで、都市環境における社会的・環境的要素が市民の幸福感や健康状態に与える影響を最大限に生かし、ウェルビーイングを促進するイネーブリングファクターを都市全体に導入することを目指す。その手法の一つとして「イネーブリングシティウォーク(Enabling City Walk:ECW)という市民参加型の調査活動がある。

※2 イネーブリングファクター(EF)
イネーブリングファクターとは、都市空間や公共施設、建造環境、サービスなどの形で、社会実装可能な幸福を高める要素。これにより人々が幸福を感じることで健康を向上させる「ハピネスドリブン(Happiness-driven)」の考え方を採用。自治体や関係団体等が中心となり進める都市計画等に対し、市民一人ひとりの主観的幸福を中心にとらえる概念である。

市役所職員へのウェルビーイングトイレアンケート(改修後の令和8年1月に実施)

今回改修したトイレの満足度
大便ブースの好感度
各個室(大便器ブース)のブースのタイプ別好感度は男性、女性共に「Relax」が1位であった
最も気に入った機能・設え
最も気に入った機能・設えを聞いたところ、男性が「小便器の間仕切り板」、女性が「個室の中に洗面鏡」と「自動水栓(加温水栓の手洗い)」が1位であった
西井正造

蒲郡市役所のトイレ改修に関わって

西井正造(横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザインセンター)

蒲郡市が掲げる「イネーブリングシティ」の実現に向け、庁舎内環境の質向上をテーマに議論する中で着目したのがトイレ空間でした。日常的に利用される重要な場所でありながら、評判が芳しくないという現状を打破するため、私がこれまで病院の体験価値向上施策で採り入れてきたバイオフィリックデザイン等の知見導入を提案。自然要素を取り入れた環境設計が、利用者の心身にどのようなポジティブな変化をもたらすか。その検証を目指して本プロジェクトに参画いたしました。

本プロジェクトでは、主にバイオフィリックデザインの理論的整理および導入方針の助言を行いました。自然要素が心理的・生理的に与える効果についてエビデンスを提示し、五感に働きかける設計の方向性を検討。また、実証事業としての評価視点の整理にも関わり、改修前後における利用者の心理的変化を測定するなど、学術的な知見に基づいた検証を行うための枠組みづくりを行い、さらにデザインを実装するためのスキーム作りや業者選定の考え方など、プロデューサー的な関わり方をさせていただきました。

バイオフィリックデザイン
バイオフィリックデザインは、自然の要素を空間に取り入れることで、人々の健康や幸福を向上させるデザイン手法で、1984年に生物学者エドワード・O・ウィルソンの「バイオフィリア理論」に基づいている。本物の植物や、緑のポスターなどをトイレ空間に取り込み、リラックスできる環境に整えた(蒲郡市庁舎のトイレ)

完成した空間は、従来の機能中心のトイレとは一線を画し、短時間でも気持ちや身体を整えられる「リフレッシュの場」としての可能性を強く感じました。視覚・嗅覚・聴覚に働きかける工夫が調和し、庁舎内に新しい価値を創出できたものと考えています。今後は職員の皆様の反応や心理的変化を丁寧に分析し、この知見を「蒲郡モデル」として体系化することで、他の公共施設への応用や社会実装の可能性を探っていきたいと考えています。

本プロジェクトに関わり、行政、企業、研究者が部局横断で連携し、一つのゴールを目指す姿勢に大きな意義を感じました。トイレという身近な空間を通じてウェルビーイングを具体化する試みは非常に先進的であり、実証的な知見を社会へ還元できる可能性を秘めていると実感。LIXIL様が培ってきたノウハウと蒲郡市の実行力に触れ、私自身も多くの刺激をいただきました。本取り組みが、今後の公共トイレのあり方を提示する先駆的なモデルとなることを期待しています。

蒲郡市庁舎のトイレ改修

所在地 愛知県蒲郡市旭町17-1
施主 蒲郡市役所
設計 蒲郡市役所
施工 株式会社ケイディーエル
用途 公共施設
竣工 2025年12月(改修)
LIXIL使用商品 パブリック向けクイックタンク式床置便器: BC-P110S・DQ-PA150CH
シャワートイレPBシリーズ: CW-PB21LQE-NE-R1
センサー一体形ストール小便器: U-A51
マーベリイナカウンター スタンダードMタイプ: MB-500M
はめ込みだ円形洗面器: L-2291
バック照明付鏡、フロント照明付鏡: MH-451NBJL, MH-451NFJ
トイレ手洗 コフレル スリム、木手すり: YL-DA82SKH12C, NKF-1SU
ベビーキープ: AC-BK-F62
エコカラットプラス ラフクォーツ: ECP-375/RTZ3N
エコカラットプラス スモークウッド: ECP-615/SMW1
エコカラット セルフ: ECSF-1260S/13,114
エコカラットプラス ノルディックカラー: ECP-2515NET/NRC2
■LIXIL ビジネス情報 施工事例サイト
蒲郡市庁舎/本館2F
https://www.biz-lixil.com/case/pdf/B250063.pdf

■LIXIL ビジネス情報 建築・設計関連コラム
職場のトイレの快適性が人々を幸福感へと導く
https://www.biz-lixil.com/column/housing_architecture/toilet041/

取材・編集/フォンテルノ
撮影/エスエス企画

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公開日:2026年03月19日