地区の家 えんえん×LIXIL
みんなが繋がる、サードプレイスとしての建築
矢橋徹(建築家/矢橋徹建築設計事務所)

取材を行った熊本県熊本市の事務所で、「地区の家 えんえん」の模型を前にする矢橋氏
大分県大分市に誕生した「地区の家 えんえん」は、社会福祉法人大分県福祉会が運営する、子育て支援と地域交流の拠点です。第2回「日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」で採択されたこの施設は、イタリア・トリノの「地区の家(Casa del Quartiere)」という、住民が主体となって運営する多機能なコミュニティ拠点のコンセプトをモデルに、高齢化が進む地域と新しい子育て世帯が混在する“狭間”の課題に寄り添い、地域を繋ぎ直す“ハブ”となることを目指して設計されました。公園と保育園の“通り道的な空間”「ビッグ土間」や、CLTと鉄骨を組み合わせた軽やかな構造など、既存の福祉空間の枠組みを超えた挑戦的な建築が、地域の居場所として育ち始めています。今回は「地区の家 えんえん」を設計された矢橋徹建築設計事務所の矢橋徹氏にお話しを伺いました。

「地区の家 えんえん」。入口には庇を大きく設けて軒下広場とし、天候に左右されず、マルシェを開いたり、子どもたちの遊び場となり、多世代が自然に集える
「地区の家 えんえん」が目指した新しい福祉の姿

矢橋徹建築設計事務所代表
一級建築士
矢橋 徹氏
このプロジェクトは、日本財団が主催する「第2回 みらいの福祉施設建築プロジェクト」という公募から始まりましたが、その本質は単なる施設づくりではありませんでした。全国から集まった292件もの応募案件の中で、私たちが社会福祉法人大分県福祉会の皆さんと共に目指したのは、地域に潜在する課題を掘り起こし、それを解決するための「新しい福祉の姿」を建築として表現することでした。計画地となった大分市羽田という場所は、1980年代には工業団地があり、そこで働くために移り住んだ現在の高齢者層が暮らすエリアと、山を切り崩して新しく開発された子育て世代が暮らす住宅地が、ちょうど一本の道を隔てて隣り合う狭間の地点になっています。そこには、高齢者や子育て世帯ならではの社会課題が潜在しています。
設計の初期段階から、私たちは「制度の外側」といった法規が想定していないため、指導も支援も行えない領域をいかに建築に取り込むかを議論してきました。例えば、大分市では当時0歳児の一時預かりへの補助が十分ではなく、多くの家庭が孤立していました。また、医療的ケア児や病後児の預かり先も不足しており、親御さんが仕事に復帰できないといった切実な声がありました。こうした「既存の福祉制度では補えないもの」を、建築の力と保育士さんの情熱でカバーしていくことが、このプロジェクトの真の目的です。そこで重要な役割を担うのが、滝尾保育園の保育士さんたちです。彼らは行政の知りえない日常的に子どもの表情や保護者のわずかな変化を察知する「人の動きを読む」プロフェッショナルであり、その高い職能は、地域の困りごとを吸い上げる“センサー”や“ハブ”となってくれます。

「地区の家 えんえん」の模型。建物中央には通り抜けできる「ビッグ土間」を配置した
そのため、あえて公共施設ではなく、社会福祉法人の私財として、行政の枠組みを超えた自由な場所をつくるという選択をしました。それは、「一人の困りごとにも眼差しを向ける」という法人のミッションを、最も純粋な形で具体化する作業でもありました。地域の人々が「あ、ここには入ってもいいんだ」と思えるような、物理的にも心理的にも開かれた佇まいを追求し、まちの分断を繋ぎ直す装置としての建築を構想していきました。
この課題発見型の施設を実現するために、既存の保育園と隣接する公園を縫うように繋ぐ「ビッグ土間」という空間を建築の核に据えました。この空間は、クランクする敷地に沿って交流空間と保育空間を雁行配置した通り抜けができる“道”であり、子どもたちの遊び場であり、誰もがふらっと立ち寄れる地域の縁側でもあります。制度という高い壁を建築の力で取り払い、高齢者がゲートボール帰りに新聞を読み、小学生が放課後に訪れるような、多世代が自然に混ざり合う「家の延長」のようなサードプレイスを目指しました。

滝野保育園と羽田東公園を繋ぐ「ビッグ土間」。閉鎖的になりやすい福祉施設を日常と地続きの関係に位置づけている。交流空間(右)と保育空間(左)を配し、保育と地域活動を緩やかに調整する干渉空間としても機能する
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公開日:2026年03月30日




