地区の家 えんえん×LIXIL

みんなが繋がる、サードプレイスとしての建築

矢橋徹(建築家/矢橋徹建築設計事務所)

ハイブリットで実現した、軽やかで強固な構造

周辺環境と調和した外観デザイン
周辺環境と調和した外観デザイン。市と協議して隣接する羽田東公園との柵を撤去し、境界をあいまいにした。「地域の家 えんえん」を介してゆるやかに地域が繋がっている
屋根をCLTにした
屋根をCLTにしたことで鉄鋼の構造がスリムになり、工期も短縮された(写真:矢橋徹建築設計事務所) ※ CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板):ひき板(ラミナ)の繊維方向が互いに直交するように積み重ねて接着した、大型のパネル状の木質建材。 従来の集成材の接着と異なり層ごとに90度交差させることで、強度と寸法安定性が飛躍的に高まる

建築の佇まいについては、周囲の住宅地に馴染む親しみやすい家型の三角屋根を連続させるデザインを採用しました。これは、巨大な箱をドンと置くのではなく、小さなボリュームがポコポコと集まったような構成にすることで、威圧感を抑えて地域の人々が愛着を持てるスケール感にするためです。
構造面において、このプロジェクトの大きな特徴となっているのが、鉄骨造とCLT(直交集成板)を組み合わせたハイブリッド構造の採用です。屋根に150mm厚のCLTを使用することで、木材自体の自重と剛性で水平方向の強度を確保し、鉄骨特有の複雑なブレースや重厚な梁を大幅に減らすことができました。その結果、柱や梁を極限まで細くすることが可能になり、視線がスッと抜けるような透明感と、木質素材による温かみが共存する、これまでにない福祉空間が生まれました。また、CLTの採用は工期の短縮にも大きく寄与し、現場での施工効率を飛躍的に高めてくれました。
設計のプロセスは、物価高騰などの厳しい現実と向き合いながら贅肉を落とす作業の連続でもありました。当初は2階建てのプランで進めていましたが、日本財団によるデザインレビューの中で「本当に2階建てである必要があるのか」という問いを投げかけられ、改めてチームで議論を重ねました。結果として、全体ボリュームを8割程度にまで絞り込み、平屋建てへと変更しましたがネガティブな減額案ではありませんでした。建物をスリムにしたことで、敷地の裏側に豊かな「通り庭」や、地域住民と一緒に育てる「えんえん野原」といった外部空間が生まれ、隣接する公園との繋がりがより密接で豊かなものになったのです。ボリュームを削ぎ落とすことで、かえって本当にやりたかったことが研ぎ澄まされ、空間の密度が高まっていきました。

断面図
断面図(提供:矢橋徹建築設計事務所)[クリックで拡大]
羽田東公園側と反対側の外観
羽田東公園側と反対側の外観。滝野保育園へと繋がっている

環境設計においては、デンマークのエンジニアと連携して立体解析を行い、「光の入り方(採光・日射)」と「風の抜け(通風)」を最適化するポイントを厳密に導き出しました。ただ開放的なだけでなく、歩くたびに風景が切り取られ、奥行きが生まれるような設計を心がけています。例えば、移動するごとにふと視線が抜けたり、今まで気づかなかった地域の風景が発見されたりするような開口部の配置です。窓のサイズや位置を絞ることでコストを抑えつつ、より印象的な風景の抜けを創出するという、関係性の美学を徹底しました。構造スパンも、大型トラックが入り込めないという敷地周辺の細い道路状況を考慮し、運搬可能なサイズから逆算して合理的なグリッドを決定しています。こうした不自由さを逆手に取った設計が、結果としてこの場所独自の軽やかさと、地域に寄り添うヒューマンスケールを生み出すことができました。

建物をスリムにしたことで生まれたスペースを「通り庭」として設えた
建物をスリムにしたことで生まれたスペースを「通り庭」として設えた。地域に開放されていて誰でも自由に行き来できる

手に触れる木と意匠を支えるアルミ、素材の質感と機能の調和

異なる素材を用いることでリズムカルな雰囲気を演出
梁よりも下部は木質素材、上部はアルミを配した。異なる素材を用いることでリズムカルな雰囲気を演出している

素材の選定基準として徹底したのは、「人が触れる場所」と「触れない場所」を意匠的・機能的に明確に切り分けることでした。具体的には、子どもたちが体を預けたり大人が腰掛けたりする、梁より下の手が触れる空間にはシナ合板などの木質素材を使用し、視覚的・触覚的な安心感を与えています。一方で、梁より上の抽象的な空間やサッシ、そして高いメンテナンス性が求められる箇所には、あえて無機質な白いアルミを配しました。木という温もりのある素材と、アルミといった工業製品としての精度の高い素材。それらが梁の下と上で鮮やかに切り替わることで、空間に心地よい緊張感とリズムが生まれています。

羽田東公園側と反対側の外観

建物の中心部に配置したシェアキッチンは、この施設においてナースステーションのような役割を担っています。ここからは施設全体を見渡すことができ、常に保育士が常駐することで、利用者の動きをゆるやかに見守れる設計にしました。設計にあたってこだわったのは、食を通じたコミュニケーションの創出です。作る人と食べる人という垣根を超え、子どもから高齢者までが自然に集まり、時には小学生がスタッフに人生相談をするような、家の延長線上にあるサードプレイスとしての機能を期待しています。 意匠面では、キッチンの水栓が重要な役割を果たしています。LIXILグループのグローバルブランド「グローエ」の製品ですが、あえて特徴的な大きなスケール感のあるグースネックタイプを選ぶことで、遠目から見た際にも「あそこに台所がある」と直感的に認識させる視覚的なサインとしての役割を持たせました。

「ビッグ土間」の中央に配置したシェアキッチン
「ビッグ土間」の中央に配置したシェアキッチン。存在感あるキッチン水栓がサインとなり自然と子どもたちが集まってくる。後方に見えるのがトイレ出入口

トイレの計画では、「分かりやすさ」と「プライバシー保護」という、相反する課題の克服に最も苦心しました。多くのトイレにLIXIL製品を採用していますが、3カ所の個室トイレは、あえて動線が目立ちすぎない施設内の端のエリアに相談室とまとめて配置し、利用する際の心理的なハードルを下げつつ、オープンな空間の中に裏方としての落ち着きを確保しています。また、職員用と利用者用をあえて分けず、地域に開かれた誰でも自由に使えるトイレとして、外からの人の流れも配慮した造りになっているのも特徴のひとつです。その中で多機能トイレは、単なるバリアフリー対応に留まらず、将来的に医療的ケア児や0歳児の一時預かりを本格化させる際の機能的な拡張性を見据えています。

トイレは分かりやすい位置に
トイレは分かりやすい位置にありながら、視線が気にならず、誰でも利用しやすいように考慮をした
多目的トイレはユニバーサルシート(大型ベッド)を設置
多目的トイレはユニバーサルシート(大型ベッド)を設置。医療的ケア児にも対応できるつくりになっている
保育室のこどもトイレ
3カ所の個室トイレには木を使った暖かい手洗い空間を含めて、施設内の端のエリアにまとめて配置
保育室のこどもトイレ
保育室のこどもトイレは、幼児の年齢や体格に合わせた小便器のほか、洗身を安全かつ快適に行えるシャワーパンを設置した
三箇所のトイレ空間とシェアキッチンの平面図
相談室に隣接する①三箇所のトイレ空間と④シェアキッチンの平面図[クリックで拡大]

ここでLIXILの製品、特にフロントサッシなどを採用したのには、設計者としての強い信頼があります。私は以前からLIXILのアルミの色味や、意匠的なサッシのフレームの線の細さを高く評価してきました。設計者にとって「枠を細く、線を少なく」見せるのは多大な労力を要する作業ですが、LIXILの製品は標準仕様でその美しさが備わっているため、設計の手間を抑えつつ非常に精度の高い仕上がりを実現できます。 また、ガラス面積を広げながら断熱性能を極限まで高めるといった、LIXILの「大胆でかっこいい、逃げない姿勢」は、設計意図を力強くサポートしてくれました。公園側に面した巨大な開口部は、建物の透明性を形づくるだけでなく、外部の風景を内部へと引き込む重要な境界となっています。 屋根の色についても、当初のレンガ色から、現場での見え方を確認しながら落ち着いたグレーへと変更しましたが、こうした微細なトーンの調整においても、LIXIL製品の洗練された質感は非常に馴染みが良いものでした。私たちが目指したのは、豪華な装飾ではなく、素材が持つ本来の魅力を引き出すことで生まれる質の高い日常の空間です。LIXILの製品を取り入れることで、本質的な空間構成や地域との関わり方のデザインに、より集中することができました。

滝野保育園側入口
滝野保育園側入口
滝野保育園側入口。大きなガラス面のサッシが内と外を繋ぐ役割を果たしている。外の水栓は使いやすい入口横に配置した
明るく見通しのよい開放的な開口部
明るく見通しのよい開放的な開口部
明るく見通しのよい開放的な開口部。風景が抜け、人々の往来を促している

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公開日:2026年03月30日