ごみ分別に始まる循環型の未来まちづくり ――鹿児島県・大崎町の挑戦 第3回 「空き家」を資源循環させる。

柱梁以外が撤去され、これから生まれ変わる空き家。資源循環実証調査の対象になった旧上町(うえまち)簡易郵便局(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)

自治体の資源リサイクル率日本一を達成した鹿児島県大崎町の取組みを紹介するレポートの第3回。これまで主に生活ごみの資源循環について紹介してきましたが、建物の資源循環についてはまだ課題が残っていました。今回は大崎町とともに、鹿児島大学、LIXILも参画して、いよいよこの残された課題に挑みます。まずは、いまどの地域でも課題となっている空き家の資源循環への取組みから始められました。

空き家に価値はないのか?

これから一部解体・改修されて生まれ変わる旧上町簡易郵便局(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

全国の多くの地域で空き家が増えています。少子高齢化で家が継がれず、人口減少化している地域では売却も難しく、解体費用の負担も大きく、所有者が変わらないまま人の住まない家が残されるケースが増えています。

(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

「大崎町においても同様の課題が見られます。町の統計によると、2008年の時点ですでに空き家率は18%を超えており、その後も増加傾向が続いています。空き家の増加は、景観や防災、防犯、地域コミュニティの維持など、さまざまな面で大きな課題となっています。」(中村優作氏/大崎町役場 企画政策課)

これは個人の問題だけでなく、土地や建物をいかに更新していくかという、まちの社会問題でもあります。更新されない理由は次の使い手が現れないからで、それが家族でないとしたら、土地や建物は市場に出る必要があります。しかし、土地と建物の評価価値が解体費用を下回るので、売りに出されません。30年を超える木造家屋にはもとより不動産価値がつきません。建物の解体処理は、経済的、環境的負荷になりがちなのが現状です。そこで、空き家には本当に価値はないのか?少しでも価値化できないのか?を検証する試みを始めました。空き家の価値を可視化し、有効資源として循環利用できるかどうか実証する事業です。循環利用の有効性を示して空き家の放置を減らし、土地再利用の促進につなげようという狙いがあります。

それは2024年に協定を締結した「住宅改修における資源循環実証調査事業」。大崎町、大崎町SDGs推進協議会、鹿児島大学、そしてLIXILの産官学4者のコンソーシアムが企画、運営を行い、大崎町内の空き家の価値評価を実施するというものです。

1. 解体した部材がどれほど再利用できるのかをはかる「資源貯蔵庫」としての経済価値、環境負荷低減価値
2. 全部を解体せず改修・再生することで得られる「不動産資源」としての経済価値、環境負荷低減価値

2025年12月、1軒の木造空き家住宅を対象に、柱梁を残して解体し、再利用できる部材の検証を行う「解体部材調査」を行いました。解体部材を再利用することで得られる価値、抑えられる処理コストを合わせて、総合的な経済価値を算定します。また、廃棄処理せず再利用することによってどれほどCO₂排出量を抑えられるか、環境負荷低減の価値も算定します。

次に、柱梁になった空き家を2026年5月より改修工事を行い再生します。解体部材も極力再利用します。そのとき、新築にくらべて改修はどれほどコストを抑えられるか、環境負荷をどこまで抑えられるかを実証していきます。これまで見えづらかった空き家の価値を明らかにすることで、積極的に改修・再生や解体部材の再利用が図られ、廃棄物を減らし資源循環につながることを狙いとした事業です。

住宅改修における資源循環実証調査事業の運営体制(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

空き家再評価の流れ(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

「資源循環の観点から言うと、空き家は改修して使えれば最も価値が高まります。しかしそれには限界があるので解体・建替えも避けられません。そのときでも材料を再利用できるように資源の貯蔵庫として評価するのです。現在住宅を解体するときには、建設リサイクル法によって木材、コンクリート塊、金属などが分別解体・再資源化が図られています。しかしその方法は燃料化や本来の価値を下げてしまう使い方がほとんど。しかし建築部材をまた建築部材として利用する、水平リサイクルができると価値は上がります。特に環境負荷低減で大きな意味をもちます。たとえば端材はどう利用するかその方法が鍵であり、デザイン力が問われることになります。また環境負荷低減の利点も認識されるべきです。各部材のLCA(ライフサイクルアセスメント)、つまり部材が製造される時から運ばれ、使われ、解体処理されるまでに生じるCO₂排出量を算出します。」(鷹野敦氏/鹿児島大学 大学院理工学研究科 准教授)

空き家の価値を探る調査開始 改修と建材再利用の可能性

旧上町簡易郵便局の解体時にレスキューされた建具。次の改修工事に再利用される(撮影:フリックスタジオ)

今回調査対象となったのは大崎町の中心街「上町(うえまち)」の旧道沿いの住宅です。

「この旧道は、現在の国道がバイパスとして整備される以前、商店が立ち並ぶ歴史ある街路として賑わっていました。しかし時代の移り変わりとともに商店はほとんど姿を消し、現在では住宅街へと変化。ところどころに空き家や空き地が見られるようになっています。今回調査した住宅は、かつて郵便局として地域の生活を支えてきた建物でしたが、現在はその役目を終え、住み手もいなくなったことで空き家となっていたものです。上町は本来大崎町の中心エリアで、地域の歴史や暮らしが凝縮された重要な場所です。このエリアを再生していく意義は大きく、まずは象徴的な場所である上町から調査を開始することにしました。」(中村氏)

調査対象空き家の改修工事は、大崎町エリアで建設業を営む久徳建設が担っています。

(写真:フリックスタジオ)

「大崎町はリサイクルのまちです。空き家もまた循環再生できるまちにしたいですね。身近な場所だった旧郵便局の建物が生まれ変わることで、今後も地域住民に親しまれる場所になればと思います。建物に灯がともり続けることで町は活気づき、未来へとつながります。今回このプロジェクトで研究の分野に携われることは貴重な経験ですし、LIXILさんの環境負荷を低減させた製品にも感銘を受けました。ここを起点に町民の皆で循環型社会について考え、取組みを広げて行きたいと思います。」(吉留李奈氏/久徳建設 取締役・一級建築士 )

解体計画と改修設計が終わると、次は現場での解体です。久徳建設が請けていますが、レスキューする部材の調査を兼ねているため、鹿児島大学の学生とLIXIL社員による解体ワークショップが2025年12月5日に開催されました。

空き家解体ワークショップ

旧上町簡易郵便局の改修前解体ワークショップ(写真:フリックスタジオ)

対象建物は、約72㎡程度の木造平屋建て。前面道路側に14㎡ほどの小さな郵便局の店舗と事務所がありました。その奥に、台所、居間、和室と続きます。解体方針は、基礎と柱梁の構造体を残してそれ以外をすべて撤去することです。解体工事用足場の組立てと、床の撤去、そして屋根瓦下ろしは先に済ませ、ワークショップは壁面撤去から始まります。参加者は学生が6人、LIXIL社員が11人。合計17人全員が解体作業の素人。プロの職人に監修指導していただきながら、工事を進めます。間仕切り壁を抜き、胴縁などの木材は廃棄しながら、やや太さのある間柱などは新しい物件に再利用できるようにレスキューしていきます。セメント板の外壁はバールで割りながら処分。アルミサッシは丁寧に外しながら、再生アルミ材としてまとめます。窓と建具は一部そのまま再利用へ。天井と屋根の撤去は素人では難しく、ワークショップでは触れずに後日職人の手で行われました。

旧上町簡易郵便局解体直前の正面(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

旧上町簡易郵便局解体直前の店舗内部。左が窓口(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

旧上町簡易郵便局解体直前の住居部分。手前和室、奥居間(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

旧上町簡易郵便局解体直前の住居部分。和室(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

改修前の旧上町簡易郵便局平面図(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)

内壁の撤去から始める(写真:フリックスタジオ)

内壁の撤去(写真:フリックスタジオ)

外壁の撤去(写真:フリックスタジオ)

新しい建物に再利用できるように現場からレスキューした部材(写真:フリックスタジオ)

建具の型板ガラスは外して再利用(写真:フリックスタジオ)

「再利用できる材料の筆頭は木材です。今回は、再利用できるようレスキューした木材を積極的に次の改修工事に利用するデザインを提案しました。端材の建材としての再利用は難しいのですが、ここでは外壁の仕上げ材に使用するデザインを見出しました。端材を外壁に乱張りして、最後に黒色に塗装します。不揃いでも美しいパッチワークデザインです。障子、襖、貴重な型板ガラスなどはそのまま次の改修に利用します。」(鷹野氏)

ワークショップは建物解体だけではありません。ここは前面道路に対して短冊状に奥行きのある敷地で、奥にあたる北側敷地に庭があります。かつては庭木が手入れされていた場所ですが、放置されていたために藪になり、人もアプローチできなくなっていました。下草刈りをし、雑木を払ってここも整備しました。

整備前の裏庭と藪払い作業(写真:フリックスタジオ)

整備後の裏庭(写真:フリックスタジオ)

建物の資源循環をまちに実装していくこと

資源循環の実証調査で空き家の再生、再利用にどれほどの経済価値があり、環境負荷低減に貢献するか、その具体的な結果については次回レポートしますが、現段階ですでに有効であることは見えています。しかし実際空き家解体・改修を促進し、再利用につなげるには大きなハードルがあります。

(提供:一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

「再利用可能な材を解体時にレスキューすることは容易ですが、それを次の利用につなげるところに最大の課題があります。建替えする新しい建物へ必ずしも再利用できるとは限りません。それが難しい場合、別のユーザー、別のプロジェクトにどのように効率よく供給するのか?その仕組みづくりが求められます。そのためには資材置き場を設置し、それを継続管理しなければなりません。古材卸業ですね。しかし伝統家屋の高級古材などとは違い、経済的に成立させることは難しそうです。そこで検討しているのは、〈空き家のリスト化〉と長期間かけて工事する〈こつこつ解体〉です。解体候補の空き家を調査し、再利用できる部材のリストをつくります。でもまだ解体はしません。再利用先が見つかった段階で解体工事を行い、すぐに現場に搬送します。できればその距離も近い方が良い。まちに空き家が点在していますが、それを分散した資材倉庫とみなすのです。しかし、実際は解体と次の新築あるいは改修スケジュールを合わせなければならないし、権利や管理方法の整理も必要でまだアイデア段階ではあります。」(遠矢 将氏/一般社団法人 大崎町SDGs推進協議会)

空き家の価値化+リスト化は、このプロジェクトの継続課題です。さらに近年の物価上昇から住宅建設費は高騰を続けていて、若者の家づくりのハードルが上がっています。だからこそ、特に地方では比較的安価に入手できる中古物件を購入して、改修再利用することに現実味があるのです。

「空き家をどう利活用できるのか。一般オーナーが考えをまとめるのはなかなか難しく、専門知識や経験知が必要になります。オーナーに寄り添ってサポートし、次の使い手に繫いでいく。そのようなプロフェッショナルが必要で、それはまちのビルダーの役目でもあると感じています。」(吉留氏)

資源循環の実証調査事業は、空き家がもつ資源価値の側面を検証する前半を終え、後半の不動産価値の検証に続いていきます。

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公開日:2026年06月10日