ごみ分別に始まる循環型の未来まちづくり――鹿児島県・大崎町の挑戦 第4回 「空き家」を再生する。

再生中の空き家「circular village house TSUDOI -UEMACHI-」(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)

自治体の資源リサイクル率日本一を達成した鹿児島県大崎町の取り組みを紹介するレポートの第4回。前回は建物の資源循環と、増える空き家問題を解決するために、空き家を資源循環する研究計画を紹介しました。今回はその計画を実証する、資源再利用、空き家改修をお伝えします。前回、調査のために一部解体して、柱梁を残しましたが、そこから再生・リノベーションしていきます。

建築の資源循環を実証する空き家再生

「空き家には価値がある」ということを前回お伝えしましたが、その1つが資源的価値です。解体時に生じる部材は廃棄処理されるのが通常ですが、その材を別の用途に再利用し資源循環できればそこに新たな価値が生まれます。部材だけではなく、空き家全体を改修・再生できれば、さらに大きな規模で資源循環が実現することになり、不動産価値が生まれます。大崎町、大崎町SDGs推進協議会、鹿児島大学、LIXILの4者のコンソーシアムで企画運営している今回の住宅資源循環実証プロジェクトでは、空き家を一部解体し、その材を再利用するととともに、さらに空き家自体を改修・再生させることで、建物自体の資源循環をどのように実現できるかを見いだしていきます。

柱梁だけ残して空き家を再生させる意義

柱梁だけ残して解体した空き家(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)

今回のプロジェクトでは、かつて大崎町の商店街であった上町の通りに面する空き家を再生します。この建物はかつて地域の郵便局でしたが長らく閉鎖していました。大崎町SDGs推進協議会がこれを借り上げて改修。集会や住宅としての機能をもった建築「circular village house TSUDOI -UEMACHI-」として再生させました。この名前には、大きく3つの想いが込められました。

まず1つ目は、多様な人々や技術が「集う」場所になってほしいという願いです。かつて放置されていた空き家が、地域住民の皆様、移住をご検討の方、そして産官学民の多様なパートナーの知恵と技術を結集し、人が集う新たな拠点として生まれ変わりました。

2つ目は、歴史ある「上町」エリアへの敬意です。サブタイトルに冠した「UEMACHI」には、かつて門前町や商店街として賑わったこの土地の歴史をリスペクトし、ふたたび地域の賑わいを取り戻す起点にしたいという決意を込められています。

そして3つ目は、宿泊施設「GURURI」から受け継ぐ資源循環の系譜です。資源が「ぐるり」と循環するまちの中で、そこに人が「つどい」、新しい暮らしをデザインしていく。大崎町が目指す持続可能な未来を体現する拠点として、この名前を冠としました。

空き家再生の改修設計は鹿児島大学鷹野研究室が担当しました。

鷹野敦氏(鹿児島大学 大学院理工学研究科 准教授)

「プロジェクトの目的は空き家は再生できることを実証すること、改修する意義を示して、その姿を町民や来訪者に見てもらうことです。住宅再生の実証を念頭に置いているので、再生後は寝泊まりのできる住宅仕様を基本としています。さらに移住政策として宿泊体験ができるなど、大崎町の体験をサポートする施設として地域に開かれた機能を持たせることにしました。そのためこの建物の一番の特徴は、通り庭のような大きな『土間』です。外から人を引き込み、裏に通り抜けできる土間で、土足のまま様々な人が集えるような地域の拠点にしたいと考えました。元郵便局のフロアと廊下を土間に、水まわりはキッチンから浴室まで一直線にまとめています。」

建築リノベーションで難しい点のひとつが、解体してはじめて劣化状況がわかるケースがあるということ。この空き家も改修設計前に一部解体調査が行われましたが、多くの柱でシロアリ食害など劣化が見られ、構造体の補強が必要であることが判明しました。

そこで、仕上げ材を全部解体し柱梁の構造体だけ再利用する、スケルトン改修の方針が採られました。コンディションの悪い空き家でも、改修・再生されることで、それまでゼロだった不動産価値が新しく生まれるのです。

(鷹野氏)「構造補強の方法については、既存の柱の外側に柱を立てて新しい架構で覆う鞘堂(さやどう)方式※を採りました。建物を建物で覆う方法です。新しい柱の下には基礎の打ち増しもします。外側の鞘堂が耐震性能を発揮しますが、既存の構造も鉛直荷重を負い、互いに補完する関係です。」

※ 鞘堂:建物を外側からもう一つの建物で覆って保護する「外殻」のような建築。文化財建築で用いられる手法の一つ。

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circular village House TSUDOI‐UEMACHI- 設計コンセプトシート
改修前平面図(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)
TSUDOI(改修後)平面図(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)
TSUDOI東西断面詳細図(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)

解体部材を再利用――古材を建築デザインに昇華させる「古材建築」

TSUDOI外観。材縦張り仕上げが特徴(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)

建築解体後の古材は、チップ化され燃料とするサーマルリカバリーが一般的です。しかし木材を次の建材として再利用する水平利用に近い資源循環ができれば、より環境負荷、経済負荷の低減につながります。TSUDOIでは、壁や間柱材など解体時に発生した古材や、近隣地域で発生した古材も積極的に再利用されました。

(鷹野氏)「研究室ではこれまで多くの住宅解体現場に立ち会っているのですが、古材の山を目にしては、再利用できないものかと考えていました。今回の改修でトライしたのが、解体現場からレスキューした古材を外壁仕上げとして乱張りすることでした。古材といっても、もとは建材のため、ある程度幅寸法が揃っています。そこで縦のラインだけ揃えて端材をビス留めしていけば、隙間なく面を埋めていけるのでは無いかと考えました。これは実際にやってみて結構うまくいったと思います。ツギハギの古着の美しさと同様に、建築のパッチワークデザインになったのです。そのほか、これまで取り置き保存してきた引戸、障子戸、家具、什器なども積極的に材料として再利用。古材を建築デザインに昇華させる古材建築を目指しました。」

空き家の解体部材は、ものによっては再び建材として資源循環が可能です。どんな部材が再利用できるのか検証されていきました。

TSUDOI立面図(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)

資源循環に配慮した建築材料を使う

今回のプロジェクトは、建築資源をいかに循環できるのか実証するものです。それは解体、改修、再生の方法次第であることが見えてきました。しかし建築資源の循環のしやすさは、そもそも建材がいかに資源循環しやすい素材や構造になっているかにも大きく左右されます。今後は資源循環を視野に入れた建材開発が必須になっていくはずです。そこで今回の改修では、資源循環に配慮しながら機能性を担保する建材を利用、または新たに開発しました。これらの建材にはコンソーシアムメンバーであるLIXILの技術が用いられています。

窓の断熱性向上――高性能窓TWシリーズ

断熱性と耐候・耐久性の両立を実現した、高性能窓TWシリーズ。外側にアルミ材、内側に樹脂材を使用。アルミは、一度製品になったアルミ材などを再利用する循環型低炭素アルミ「PremiAL(プレミアル)」を使用することで、製造時の環境負荷低減に貢献している。アルミは精錬時に大きなエネルギーを必要とするからだ。窓ガラスにはLow-Eトリプルガラスが使用され、遮熱、断熱性能を上げている。

外壁の断熱性向上――スーパーウォール(外壁パネル)

構造用のパーティクルボードに硬質ウレタンフォームの高性能断熱材や気密シートが組み合わされた、外壁パネル。新しく立てた柱間に設置するだけで、環境性能の高い構造壁が完成する。環境性能向上にともなう、コストや工期の課題を解決できる。

廃プラスチックを使用したパネルデッキ―― revia panel(レビアパネル)

TSUDOIの屋外アプローチに敷設されたのは、LIXIL独自の循環型素材「revia(レビア)」を使用した簡易施工パネルデッキ。一般的に廃プラスチックの多くは埋立・焼却されてしまうが、reviaはほぼ全ての廃プラスチックと古材を融合させて作られている。更に今回設置したレビアパネルの隣には、大阪・関西万博の施設で実際に舗装材として使用されたレビアが、会期終了後に回収されて再設置された。万博という一時的なイベントでの役割に終わらせず、その資源を大崎町のコミュニティハブで永く使い続けるという「終わりのない資源循環」のバトンを体現した先進的なアプローチが施されている。

海洋プラスチックの資源循環――海洋プラスチックを活かした手洗いボウル※製品化前の試作品です

洗面室には、LIXILの従業員がビーチクリーン活動で海岸から回収した海洋プラスチックを原材料に一部活用(質量比0.65%)した「手洗いボウル」のプロトタイプを採用した。海洋プラスチックは生態系や人体への影響が懸念されるマイクロプラスチック汚染に直結する深刻な問題。各地で回収の働きかけが行われているが、回収後の再利用の道はまだ遠い。この廃プラスチックを手洗いボウルの材料に加える技術は、資源循環の実現に向けた新たな一歩となる取り組みです。

船橋靖史氏(LIXIL LHTサステナビリティ企画推進部)

「このような資源循環、環境負荷低減に貢献する製品開発は、自社単独では限界があり、自治体や大学、異業種と手を取り合うことで、より大きな社会的価値を生み出せると実感しています。もちろん企業にとっても、社会的意義が顕在化しブランド価値を上げることにも繋がります。LIXILは、自社製品・サービスにおける環境負荷低減、資源循環の実装を推進して、持続可能な社会を実現しようとしています。」

梅原克稔氏(LIXIL LHT 営業本部 LHT九州支社 鹿児島支店長)

「通常の営業は、製品の提案と納まり(詳細設計)などの建築への落とし込み相談が主ですが、提案の現場には資源循環の促進や環境負荷低減といった課題が挙がることはまだまだ少ないと言えます。しかしこれからのメーカーはモノを売るだけではダメ。地域課題を解決するパートナーであるべきなのです。そのための社内外の啓発が必要であるし、大隅半島のお客様をこのTSUDOIにぜひお招きしていきたいと感じました。」

資源循環実証ワークショップ――
古材活用コンクリートの土間施工と
古材乱張り外壁施工

住宅改修における資源循環や環境負荷低減をリサーチ、研究、実証するために、空き家再生工事の一部をワークショップで実施し、コンソーシアムの鹿児島大学、LIXILのメンバーが参加しました。ひとつはセメントを使わず、廃プラスチックや陶器ガラなどの資源循環に寄与するコンクリートによる土間の打設。もうひとつは、空き家解体時に発生した古材を水平循環利用する外壁の乱張りです。

古材活用コンクリート打設ワークショップ

土間は古材活用のコンクリートの試験打設をするために、メンバーによるワークショップ形式で施工されました。そのため平滑さや強度といった品質をそれほど求めず、ラフな仕上げとする設計方針が採られています。コンクリート材料には様々な古材が活用されています。骨材として地域住民の皆様から集められた陶器ガラ、廃プラスチックと古材で作られているレビアを使用。さらに生産時にCO₂排出量が多く環境負荷のかかる一般的なセメントの代わりに、鉄鋼精製時の副産物である高炉スラグを活用したコンクリートが打設されました。

左から、粉砕したレビアを材料とした骨材、陶器ガラ(左は細粒、右は粗め)、高炉スラグ*
*製鉄所の高炉で鉄を溶かす際に発生する副産物
レビアを材料とした骨材、陶器ガラなどの骨材と高炉スラグをミキサーで撹拌。一方で硬化を促す刺激剤に水を入れて撹拌。それをミキサーに投入して十分練るとコンクリートができる。
小野勝男氏 (LIXIL LHT 商品本部 技術研究所)

「コンクリート材を開発する上での研究課題のひとつにCO₂排出問題が懸念されているセメントに代わるセメントフリーなコンクリート技術の開発があります。今回はその実証試験でもありました。コンクリートは求められる場面が実は幅広いのです。構造コンクリートは絶対的な品質が求められますが、意匠的に使用される室内土間などにはこの古材活用コンクリートでも十分役目を果たします。初心者でも扱えるので、個人が家づくりを楽しむDIY材料としての可能性もあることが今回実証されました。今後は、他用途への展開や、流動性を高めて平滑さを増すような仕上げなども検討したい。」

土間コンクリートを打設するワークショップ

(江口凱士氏/鹿児島大学鷹野研究室)「手動で操作するミキサーの扱いはとても難しかったです。どうしても均質にならず、ダマができますね。」

(武田崇志氏/鹿児島大学鷹野研究室)「コンクリート打設自体は大学の実験で経験があり2回目でしたが、実際の現場は環境が全く異なり、水平を保つことの難しさを痛感しました。 」

ワークショップはさらに近隣住民の参加も募りました。TSUDOIは地域の拠点として再生するため、施工時から参加してもらうことで地域に開こうという考えです。打ち立てのドロドロのコンクリートに、貝殻やビー玉など、思い思いのものを持参したものを埋めこんで、足で踏み固めていきます。TSUDOIの空き家再生は、資源循環、建築再生が実証できて終わりではなく、地域の拠点としての運用がこれから始まっていくプロジェクトなのです。

古材活用コンクリートの土間打設ワークショップ。貝殻やシーグラスなど思い思いに持ち寄り、仕上がったコンクリートに埋めていく。参加者の手の痕跡が建物に残される。

古材乱張り外壁施工ワークショップ

捨てられるはずだった材が、建築の顔として外壁の装いになる。まさに資源循環された証が、第一印象として目に入ってくる建築がこの「TSUDOI」 です。空き家を解体した際にレスキューしていた古材をそのまま使った施工がいかに可能なのかを実証するために、ここでもワークショップが行われました。中心メンバーは鹿児島大学鷹野研究室の学生たち。

(三木悠真氏/鹿児島大学鷹野研究室)「まず古材をおおむね長さの違いで分類します。基礎から軒下のラインまで縦に古材を張るわけですが、役割分担をしてビス留めして張る担当と材をカットする担当の2つに分かれます。張り担当が幅と長さを指示、カット担当はそのオーダーにしたがって材を下ごしらえして渡すという流れ作業の体制を取りました。乱張りといえども隙間を空けないように、ラインを通します。ラインは横だと長さを保つのが大変なので縦にラインを通し、エッジを重ねながらビス留めしていきます。」

(江口氏)「古材といっても一般製材ですから150-180mmのある一定の幅の板材が集まっているわけです。幅を揃えるのはそれほど苦労しませんでした。カット担当は3人、張り担当は十数人。それぞれの仕事を続けていくと慣れてきて、外壁全周を約1.5日で施工しました。」

(武田氏)「配管や電線を考慮した正確な穴あけ作業が必要になるのですが、古材のため割れやすく、素材の扱いと精度の保ち方に大変苦労しました。」

(鷹野氏)「乱張りの後に黒の塗装を考えていましたが、施工してみると色合いが良く、色調にゆらぎがあって馴染んでいるので、木地のままとしました。経年変化しますが、それをデザインにとりこんでいます。」

鹿児島大学鷹野研究室――左から武田崇志氏、江口凱士氏、三木悠真氏、鷹野敦准教授(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)
構造ボード、断熱材、防水シートが一体化したスーパーウォール外壁パネルの上に胴縁をまわし、そこに古材を直接乱張りする。(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)
(提供:鹿児島大学 鷹野研究室)

柱が一部劣化しているなど想定以上に状態が悪い空き家でしたが、無事に改修・再生を果たしました。建物全体を資源循環させる本取り組みにより、建築分野における資源循環の有効性と、空き家再生を促進する新たな手法としての可能性が実証されました。なお、建設行為に伴う環境負荷を客観的数値で把握するため、改修工事と並行して建物のLCA(ライフサイクルアセスメント)、つまり建ててから壊して廃棄されるまでに発生するCO₂排出量の算出を進めています。次回は資源循環と空き家再生の取り組みを、大崎町そして他地域へといかに広げていけるかを考察していきます。

特記無き写真:フリックスタジオ

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公開日:2026年09月28日