最先端テクノロジーとローカルインダストリーが融合した
「HAERA」の空間デザイン

HAERA 1階のフロア。大きな柱が空間のデザイン性を表現する重要な要素となっている。愛知県の常滑(とこなめ)は、日本六古窯にも数えられる「やきもの」のまち。HAERAの内装デザインは地元の伝統産業を取り入れた地域共栄のスタイルにこだわった。金色の装飾タイルは、ハイブランドの店舗デザインに負けない存在感を空間にもたらしている
2026年6月にオープンし、大きな話題を集めた超高層複合ビル「ザ・ランドマーク名古屋栄」と、併設の商業施設「HAERA」。名古屋における新たなラグジュアリー市場への挑戦として、ファッション・アパレル業界からも注目を集めています。
今回、「HAERA」共用部のデザインをテーマに、施設の企画・プロデュースを担ったパルコ、内装デザインを手掛けた建築設計事務所NOIZ、そして空間デザインの核となるタイル製作を担ったLIXILやきもの工房の関係者が一堂に会しました。
施設が掲げる「PUBLIC MUSEUM(パブリックミュージアム)」というコンセプトは、なぜ生まれたのか。そこに込められた、一人ひとりの感性を尊重する思想、地元の伝統産業を取り入れた地域共栄への想いとは。また、最新のデジタル技術とやきものの技術が融合して生まれた立体タイルには、どのような開発の舞台裏があったのか。
コンピューテーショナルなデザイン手法と伝統的なやきもの素材が出会い、訪れる人を魅了する唯一無二の空間はいかにして誕生したのか。関わった表現者たちの熱量と飽くなき探究心が結実した、ものづくりの軌跡を紹介します。
出席者(敬称略)
加園 真一(株式会社パルコ 空間デザイン部 部長)
豊田 啓介(株式会社NOIZ 設立パートナー)
安藤 寿孝(株式会社NOIZ プロジェクトマネージャー)
近藤 有希子(株式会社NOIZ デザイナー)
芦澤 忠(LIXILやきもの工房 技術チームリーダー)
名古屋の新たなランドマークにラグジュアリーモール「HAERA」が誕生

加園 真一 氏
(株式会社パルコ 空間デザイン部 部長)
パルコ 加園氏: 2026年6月にオープンした超高層複合ビル「ザ・ランドマーク名古屋栄」。その地下2階から地上4階に位置する商業施設「HAERA(ハエラ)」は、J.フロント都市開発が所有し、パルコが企画・プロデュース・運営を行う形でスタートしました。
名古屋随一の商業エリア「栄」の中心に「名古屋の新たなランドマークとなる国内外の文化・交流価値創造拠点」をコンセプトに、三菱地所・J.フロント都市開発・日本郵政不動産・明治安田生命・中日新聞社によるコンソーシアムによって計画されました。当初から「トップラグジュアリーの誘致」というビジョンと、そして三菱地所が名古屋初となる5つ星ホテル「コンラッド」を誘致することが決定していたことを背景に、パルコ内でも高級路線に舵を切るという明確な方針になりました。
この建物はJ.フロントリテイリンググループにとって、栄エリアで10棟目のビルになるため、既存の松坂屋やパルコとの差別化が不可欠で、中日ビル、テレビ塔と共に、名古屋の新たなシンボルとなることが目指されました。
ターゲットは、単なる“富裕層”というよりも、良いものや自分の好きなものに対してお金を使うことを惜しまない、価値感の成熟したこだわり層です。従来のパルコのような若層向けでもなく、一般的な百貨店でもない、既存施設の枠を超え、まったく新しい業態を作りたいと考えました。

2026年6月名古屋中区錦三丁目にオープンした、栄エリアで最も高い約211mの超高層複合ビル。オフィス、名古屋初の「コンラッド・ホテルズ&リゾーツ」や栄エリア初の「TOHOシネマズ」、ラグジュアリーブランドが多数出店する商業施設「HAERA」
各階が異なる“ギャラリー”という
空間コンセプト
パルコ 加園氏: 竹中工務店や三菱地所と外装を検討していた初期段階で、「PUBLIC MUSEUM(パブリックミュージアム)」というコンセプトが生まれました。5・6階部分にある大庇(おおびさし)を「幕」として捉え、幕が上がると“商業”という舞台空間が見える、という劇場のようなイメージです。中で過ごす方々が主役になれる非日常な空間を目指しました。「劇場」という言葉だけでは具体的なイメージの共有が難しかったため、それを「ギャラリー」という形に昇華させました。フロアの共用エリアすべてが作品であり、それをお客様に鑑賞しに来ていただき、街の人々にも楽しんでもらおうと考えたのです。エントランスには、名古屋生まれのアーティスト・西野達さんによるシャンデリアと壁紙のインスタレーションが、お客様を出迎えています。
各階独自のテーマ素材と色を、装飾的な柱や床、天井のパターン、家具などの多様な形で体現しています。
地場の産業や素材とのコラボレーション
パルコ 加園氏: 私は渋谷パルコの空間デザインにも携わっていましたが、そこで実現しきれなかった2つのテーマ「地域共栄(リージョナリズム)」と「サステナブル」を、今回のHAERAには随所に盛り込みました。名古屋には誇り高き歴史、世界屈指の技術、そして脈々と受け継がれる伝統があります。これらを最大限に引き出すためデザインの初期段階で、東海3県の企業や職人さんなど、最終的に20〜30社ほどにお集まりいただき、名古屋でフォーラムを開催しました。その土地で文化や技術を守り続けているものづくりの当事者たちと、一緒に作ることを大切にしたかったのです。このフォーラムをきっかけに、職人さん同士の横のつながりも生まれました。このアプローチも地域共栄への取り組みの一環であり、この施設のファンづくりの第一歩になっていると思います。
フォーラムでは、共用エリアのデザインを担当するNOIZさんや、トイレ空間をデザインされたNOWさんにも参加いただき、ワークショップを開きながら「東海エリアの素材や技術を使ったらどんなことができるか」を侃々諤々と議論しました。地元企業や職人さんたちとの協働においては、新たな施設がメディアとしての役割を担い、施設内の皆さんの作品を世界に向けて発信すること、それをあらゆる人たちに知ってもらうことが、作り手や地域企業との「地域共栄(リージョナリズム)」に繋がっていくと考えています。

ザ・ランドマーク名古屋栄
商業:地下2階〜4階
シネコン:5〜9階
オフィス:12〜30階
ホテル:10、11階、31〜41階
(資料提供/株式会社パルコ)

商業施設「HAERA」外観。低層部のガラスを基調としたファサードは、昼間は自然光を取り込み、夜間は上品な光を放つ(資料提供/株式会社パルコ)

5階部分の屋上。大庇が舞台の幕に例えられ、商業空間という舞台が見えるイメージ(資料提供/株式会社パルコ)
「見ると見られる」が反転する。
自撮りしたくなる空間に隠されたデジタルとリアル

柱やファニチャーなどの近くに据えられた解説板。パネルのQRコードを読み取るとHAERAのホームページにつながり、作品の解説や作り手の想いを知ることができる(写真提供/株式会社パルコ)
NOIZ 豊田氏: 「PUBLIC MUSEUM(パブリックミュージアム)」というコンセプトをいただいた際、名古屋の地域性をどのように表現するかが、大きな課題でした。
提案は当初、デジタル技術を活用した体験を中心にスタートし、その考え方はピクセル状のタイルデザインにもつながっています。デジタル技術によって生まれる人と人との交流や、そこから広がるネットワークを捉える一方で、実際の素材やものを目の前で見ることの価値も、改めて提示したいと考えました。
空間の構成にはデジタル技術を用いていますが、実際に目にし、触れる素材には徹底してこだわっています。全体を均質に整えるのではなく、限られた予算と面積のなかで力を注ぐ場所を明確にし、素材そのものが圧倒的な個性を生むように設計しました。特にLIXILさんとは、以前からタイルの新たな可能性を探る取り組みを重ねてきた経緯があり、その成果をメインの柱に凝縮しています。
ラグジュアリーブランドが立ち並ぶ環境のなかでも埋没しないインパクトを持たせるとともに、訪れた人の記憶に残り、思わず誰かに伝えたくなるような象徴的な場を館内の随所につくりました。
「PUBLIC MUSEUM(パブリックミュージアム)」という考え方のもと、内装の一つひとつを、鑑賞の対象となる展示物のように捉えています。同時に、来店者自身も空間の一部となり、そこに身を置くことで、その場が完成するようなデザインを目指しました。見る側と見られる側の関係が入れ替わり、誰もが鑑賞者であると同時に発信者にもなる。そうした新しい場所のあり方を考えています。

豊田 啓介氏
(株式会社NOIZ 設立パートナー)
名古屋には、「金のシャチホコ」や華やかな婚礼など、きらびやかさや力強さを連想させる文化があります。ただし、それらを地域性の分かりやすい記号として、そのまま空間に持ち込もうとしたわけではありません。そうしたイメージを一度抽象化したうえで、やや過剰にも映る華やかさを、あえて避けずに引き受ける。その先に、金や銀といった強い素材表現を位置づけました。洗練によって抑え込むのではなく、その過剰さも含めて現代的に再編集することで、名古屋の持つ活気やエネルギーを空間全体に表現しようと考えたのです。
地下2階から地下1階へと上がり、さらに4階から1階へと下る館内の回遊動線に沿って、柱の素材と表情を段階的に変化させています。地下2階ではリサイクル素材による複合的でマットな表情、地下1階では土や焼き物、4階では木とブロンズ、3階では艶のある銀と白、2階と1階では金と白へと展開します。動線を進むにつれて、遊びや混成を含んだ現代的な表情から、より純度が高く、光沢のあるフォーマルな表情へと移り変わっていきます。こうしたドラマチックなコントラストによって各階に異なる個性を与えながら、空間全体に名古屋らしいダイナミックな活気を生み出しています。






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公開日:2026年09月10日