最先端テクノロジーとローカルインダストリーが融合した
「HAERA」の空間デザイン
垂直動線に仕掛けられた「光のシャワー」と斜めの柱

安藤 寿孝氏
(株式会社NOIZ プロジェクトマネージャー)(写真提供/株式会社REHO)
NOIZ 豊田氏: キーテナントにシャネル、カルティエ、ルイ・ヴィトン、エルメスといった世界的なラグジュアリーブランドが入るなかで、共用空間も単なる背景にとどまらず、それ自体が明確な存在感を持つことを意識しました。
1階の入口は施設全体の導入部として、「白と金」によるきらびやかな世界観で構成しています。そこから館内を巡るにつれて、地域性やより等身大の感覚へと徐々に移り変わるグラデーションをつくり、フロアごとに異なるキャラクターを持つ空間としました。
各フロアをつなぐ垂直動線であるエスカレーターやエレベーターの周囲は、あえて輝度を高めた、光に満ちた空間としています。フロアからフロアへ移動する際に、光のシャワーを浴びるような感覚によって気分を切り替え、それぞれの空間を新鮮に体験できる「回廊空間」として設計しました。
パルコ 加園氏: エスカレーター空間では、下から見上げるとガラスの手すりより飛び出している斜めの柱が見えます。実は、建物の5階から9階には映画館が入っているのですが、映画館の大空間を確保するために、構造上どうしても下階の柱を斜めに振る必要がありました。その建築的な制約をどうデザインに昇華させるかが課題でした。
NOIZ 安藤氏: 事務所内でもさまざまな検討を重ねました。3階・4階で柱が斜めになることをポジティブに捉え、段状にずらしながら被覆することで、他の柱との関連性を保ちつつ、独自の動きをもつ意匠としました。また、あえてガラス手すりの外側まで張り出させることで、下から見上げた際に、展示物がガラスケースから飛び出してきたかのような、立体的な表情を生み出しました。
パルコ 加園氏: 訪れた方から「なぜ3、4階の柱だけこうなっているの?」とよく聞かれますが、この理由を説明すると一様に驚かれますね。




インパクトを与えるやきものの質感とデジタルなアプローチ
NOIZ 豊田氏: 圧倒的な存在感と世界観を持つラグジュアリーブランドが集まるなかで、インテリアも単なる背景にとどまらず、明確な存在感を持つ必要がありました。そのため、きらびやかな輝きと、思わず触れたくなるような凝縮された質感を重視しています。ものづくりの伝統が息づくこの地域には、常滑をはじめとするやきものの歴史があるため、やきものを素材として取り入れることは当初から決めていました。
天井のグリッドは、規則的な正方形の反復ではありません。日々更新されるテナントラインに合わせて調整できるルールとし、必要な設備を避けるなどの諸条件を満たしながら、単調にならない格子となるように設計しています。
パルコ 加園氏: NOIZさんのプレゼンテーションの中で特に目を引いたのは、サイネージやLEDのような直球のデジタル演出ではなく、デジタル技術を「設計のアプローチ」として使い、見たことのない模様や意匠を生み出すという点でした。その数学的な面白さに非常に惹かれましたし、それが彼らと組みたいと思った大きな理由の一つです。
NOIZ 豊田氏: デジタルワールドは「ミラーワールド」とも呼ばれ、情報を複製・生成することで、いくつもの世界をつくり出すことができます。一方、リアルな世界に存在する物は、一つの固定された実体として捉えられがちです。しかし、同じ物であっても、見る人や位置、光の状態によって、その見え方や感じ方は変化します。つまり、リアルな世界にも、観測する人の数だけ異なる体験が生まれるということです。デジタル技術だからこそ可能な複雑な構成を用いながら、最終的にはそれを物質として立ち上げ、素材が持つ多様な表情や質感として体現することが、今回の設計の根本にありました。
触れたくなるタイル形状はどのように生まれたか

近藤 有希子氏
(株式会社NOIZ デザイナー)
NOIZ 近藤氏: 最初の提案時から、「水滴」のような表面張力をいかに釉薬で表現できるかを追求していました。3Dプリンターで何度もテスト形状を出力し、立ち上がりの角度や滑らかな曲面のスタディを重ねました。
凸面だけでなく、凹面の形状についても3Dプリンターを用いて模型を作り、中心を少しズラして削るだけで、4つの角の高さに変化が生まれ、非常に多様な形状が作れることが分かりました。また、凹面形状のタイルはブライトの銀色を使用することで、周囲の景色の映り込みが複雑となり面白くなります。これを実際のタイルとして実現できるかどうか、LIXILさんと何度もキャッチボールをさせていただきました。
NOIZ 豊田氏: まさにデジタルと物質のせめぎ合いを形にした、一つの表現だと思っています。
LIXIL 芦澤: 最初に「これできますか?」と言われたときは、正直やったことがない試みだったので、「まずはやってみます」と返答するしかありませんでした(笑)。いわゆるタイルの厚みよりも高さがあり凹みも深い形状であるため、焼成する際に釉薬が流れて凹面中心に溜まってしまい、少し色飛びが起きてしまいました。それをどう制御するかは本当に試行錯誤の連続でした。
ここで私からも質問させてください。割付のパターンやタイルの形状、サイズがいくつかあり、そこからさらに変化・進化していきましたが、あれはどういった思考の流れから変化していったのでしょうか?

3Dプリンターで作った模型の数々
NOIZ 安藤氏: まず来館者の目に触れる1階・2階では、流体を思わせる形状をデザインの軸としました。水滴を思わせる立体的な形に釉薬をたっぷりと施すことで、厚みのある質感と豊かな煌めきを生み出しています。また、水滴単体だけでなく、隣り合う水滴がつながり、より大きな形へと変化していく様子も取り入れることで、流体ならではの有機的な表情を強めました。
当初はすべてのタイルに凹凸を持たせていましたが、フラットな面があることで立体的な形状がより際立つと考え、白いフラットタイルを地として、金色のタイルを図として配置するパターンへと発展していきました。初めは金色のタイルをランダムに配置していましたが、議論を重ねるなかで、分散させるのではなく、螺旋状に上昇する構成とすることで、より力強い動きが生まれると考えました。各フロアで用いる素材や色は異なりますが、螺旋のパターンを共通させることで、階ごとの個性を保ちながら、建物全体に一貫した動きと連続性を与えています。これが、デザインを大きく前進させるブレイクスルーになりました。
LIXIL 芦澤: LIXIL 芦澤:「水滴」がモチーフとなり、つながっていく形がベースにあったとは驚きでした。




NOIZ 豊田氏: 実は、1階入口の床タイルは、1枚1枚の異なる形状のタイリングによって徐々にずれながら向きを45度変えるという、これは非常に手間のかかる仕事をしています。1枚1枚、すべてサイズも形状も異なるんです。
パルコ 加園氏: あれには感動しましたね。気づく人は少ないかもしれませんが、ディテールが好きな人にはたまらない仕掛けで、実に空間全体の質をグッと引き上げているのは確かです。予算の関係でさまざまな取捨選択を迫られる中、「これ面白い」「絶対やりたい」という気持ちになりました。
2か所のエントランスはどちらも斜め45度の角度からアプローチしているので、真ん中に進むにつれて床タイルがいつの間にかズレているという、デジタルならではのタイリングデザインです。施工を担当された竹中工務店さんは現地でのタイル加工ができないため、工場ですべてカットして番号を振り、パズルを組み立てるように施工してくださいました。10人のうち1人しか気づかない部分かもしれませんが、そうした細部デザインへのこだわりこそがパルコらしいと感じています。
NOIZ 豊田氏: まさにデジタルと物質のせめぎ合いを形にした、一つの表現だと思っています。

入口から店内に向けて、床タイルが少しずつズレながらカーブしている。一つひとつ大きさや形の違うタイルに番号を振り、パズルのように施工したという。デジタルの割付に、職人技術が応えたこだわりの成果
やきものらしい金色へのこだわり
NOIZ 豊田氏: 金色と銀色のタイルの色名に「寂金(さびきん)」「幽銀(ゆうぎん)」と命名しました。あえてテカテカした西洋的なゴールドではなく、味わいのある茶色を帯びた金であることを伝えたかったからです。犬山の国宝茶室『如庵』にあるような奥深い美意識の金色こそ、名古屋の街にふさわしいという想いがずっとありました。

写真右 芦澤 忠
(LIXILやきもの工房 技術チームリーダー )
LIXIL 芦澤: 表情豊かな金色を作り出すのには、本当に苦労しました。釉薬の調合がほんの少し違うだけで、狙った輝きが出ません。また、同じ調合であっても、焼成温度が20度違うだけで輝かなくなってしまいます。色の確認のために皆さんが常滑にお越しになるギリギリのタイミングまで試験を繰り返し、ようやく出来た錆びたような質感の金にOKをいただけたときはホッとしました。
最終的には、初期に試作したブライト調の金色と、この錆びたような金色の2種類を組み合わせて使っていただけることになり、その2種類の対比が、結果として豊かな表情につながったと思います。
また、タイルの成形自体も非常に難しく、時間的な制約がある中で、今回は「鋳込み(いこみ)成型」という、石膏型に泥漿(でいしょう)を流し込む方法を採用しました。NOIZさんが繰返し検証された形状を忠実に製作するために、3Dモデリングのデータを活用し原形を製作しました。さらに、形状が複雑なため、焼くときに変形してしまうリスクがあり、形状を保つために裏側から押さえ(焼き台)を付けるなど、ノウハウが求められる作業を積み重ねています。
パルコ 加園氏: 当初は金色を出すのが難しいと伺っていたので、ある程度のくすみは許容するしかないと考えていましたが、やきもの工房へ伺った際、目の前に現れた金色のタイルは次元の違う美しさで、本当に驚きました。同行したスタッフたちも、それを見た途端、絶賛していましたね。
LIXIL 芦澤: そう言っていただけると嬉しいですね。私も締め切りが迫る極限状態の中で、これまでとは全く違うアプローチに踏み切った結果でもありました。釉薬の設計手法を変えたことで、ところどころ光り方に揺らぎのある「やきものらしい金色」を導き出すことができました。
NOIZ 豊田氏: 千利休の茶碗と同じような、深い味わいがありますよね。2種類の金を使ったことで、より深みが増しました。








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公開日:2026年09月10日