三田ガーデンヒルズPARK MANSION×LIXIL

タイルの再利用と復原で
「旧簡易保険局庁舎」の意匠を継承

生かし取りタイルと
復原タイルを馴染ませる

日本陶業代表 深谷献一氏
日本陶業代表 深谷献一氏

深谷──タイルの生かし取りはもちろん手作業です。目地にカッターで切れ目を入れ、ハンマードリルで1枚ずつ斫っていきます。今回のタイルは焼き締められていて硬く、壊れづらいものではありました。大きく割れずに生かし取りできたのは約9万枚。比較的多く採取できて、そのうち1万2千枚は使いたかったのですが、再利用にあたって厚みの問題がありました。昔のタイルなので、厚みが10から13mmとバラ付きがあるのです。それは現在と施工方法が違うためです。昔はしっかりと厚いモルタルで下地をつくるので、5mm前後の厚み違いなら、施工時に職人が揉み込んで面を合わせられるのです。しかし現在は平滑な面に接着剤で施工するのでミリ単位で厚みが均一でなければなりません。そこで千枚のサンプルから厚みの平均値をとり、12mmのものだけ採用しました。再利用できたのは10〜11%程度にとどまりました。

手作業で行われる既存タイルの生かし取り
グラインダーで目地に切れ目をいれていく
手作業で行われる既存タイルの生かし取り。グラインダーで目地に切れ目をいれていく(提供:大成建設)
タイルに付着しているモルタルの粗削り作業
タガネで慎重にはがしていく
斫った後、タイルに付着しているモルタルの粗削り作業は、タガネで慎重にはがしていく(提供:大成建設)
LIXILやきもの工房 芦澤忠
LIXILやきもの工房 芦澤忠

芦澤──斫ったタイルを再利用するには、タイルの裏に付着しているモルタルをきれいに取り除く必要があります。酸性溶液で洗浄するのですが、その濃度や浸水時間は私たち独自のノウハウを蓄積したものです。洗浄後、タイルの裏足や当時製造されたメーカーの刻印を発見するような出会いもあって感慨深いものがあります。

酸性溶液洗浄後のタイル表面
酸性溶液洗浄後のタイル裏面
酸性溶液洗浄後のタイル表面と裏面(提供:LIXIL)
大成建設東京支店 工務課長 鈴木康介氏
大成建設東京支店 工務課長 鈴木康介氏

鈴木──ファサードデザインの継承は、中央の柱4本分が計画されていました。使われるタイルは約4万枚。しかし再利用できるタイルは1万枚程度なので、それを中央の柱2本分に使用し、不足分は復原タイルで補足します。タイルの復原で最も難しかったのは、1枚ずつバラつきのあるオリジナルタイルの色と馴染ませることでした。

深谷──まずはオリジナルタイルを削る前に、1m2程度の範囲のタイルをサンプリングして、色の違い、並びをリサーチするところから始まります。1枚ずつ全部色味が違うのですが、復原タイルも1枚ずつそれに色を合わせるわけにはいきません。今は色味を一定に製造できるので、何種類の色をそれぞれ何%製造するかを計画しなければならないのです。結局10種類の色違いサンプルタイルを製作し、ランダムに敷き並べて何色あればオリジナルに馴染んでいけるか、LIIXLと一緒に検証を繰り返しました。経済性も考慮して確定したターゲット色は5色。その割合も算出して復原タイルのレイアウト見本をつくり、オリジナルの再利用タイル見本と比較します。

色ごとにタイルを選別
色ごとにタイルを選別
オリジナルタイルの再利用見本サンプル
生かし取りしたタイルを色分けし、枚数の割合にしたがってランダムに敷き並べて、色と並びの見本サンプルをつくる(提供:LIXIL)

芦澤──タイルの色は材料となる土の配合、窯の温度、酸素の量などで変化します。それらを調整してサンプルタイルを製造します。ターゲットの色合いが決まれば、製品の製造時はその色を確実に再現するという課題はまたあるのですが、現在の技術では高い精度で合わせられます。

鈴木──復原タイルサンプルの現地確認会で明らかになった課題が、経年変化の風合いでした。経年変化の差で、新旧の表情の違いがやはり現れていました。そこでエイジング加工を施す方策をとりました。

深谷──よくある方法は塗装で風合いを加えることですが、塗装自体が先に劣化しメンテナンスが必要となります。そこで、タイルの生地に色粉を混ぜ、焼成してその風合いを出す手法がとられました。色粉の混入時に撹拌しすぎると均一になってしまいバラついた表現になりません。完全に混ぜきる前に成形することで、ランダムなエイジングの風合いが出ます。しかしそのコントロールは難しく、偶然を操るような面もあって、経験に裏付けられた技が発揮されています。

5色用意した復原タイル
復原タイルの敷き並べサンプル
既存タイルと復原タイルの比較
5色用意した復原タイルと復原タイルの敷き並べサンプル。既存タイルと復原タイルの比較(4枚並べたサンプルのうち手前が既存タイル)(提供:LIXIL)
復原タイルの施工
復原タイルの施工
復原タイルの施工(提供:大成建設)
正面ファサードに施工されたタイル
正面ファサードに施工されたタイル/左の柱が既存タイルの再利用、右の柱が復原タイル

再評価されるタイル建築

結果、中央の2本の柱に生かし取りした再生タイルが、その両脇の2本の柱に復原タイルが施工されたが、その違いは見分けられないほどだ。来場者との距離が最も近づく1階ポーチ部分に使われている桜色の万成石や、上部壁面に使われている白色の稲田石はその8割ほどが再利用され、往時の姿を遺している。ワンポイントのデザインとして効いているテラコッタ装飾も生かし取り、再利用されたほか、型取りされてGRC製で復原されたものも施工された。

生かし取りされたテラコッタ装飾
テラコッタ装飾
テラコッタ装飾
生かし取りされたテラコッタ装飾(左、提供:大成建設)と正面ファサードに使用されているテラコッタ装飾

深谷──タイルの施工方法は、昔と今でずいぶん違います。昔の施工はコンクリートの打設から丁寧で、打設後に薄い膜が張るレイタンスをワイヤーブラシで磨いて養生し、左官が厚みをとってつくるモルタルが緩衝材となって、経年劣化で剥離するようなことのなかなかないタイル壁ができていました。タイルは正しい張り方をすれば、メンテナンスの少ないロングライフな建材なのです。しかし、バブル時代に量産された建物の中には、必ずしも十分な施工方法がとられず、経年劣化するものもありました。そのためメンテナンスコストがかかるイメージがもたれることもありますが、現在は接着剤の性能も向上し、耐震性、耐久性の高い技術が普及していますので、タイルに対する信頼性は非常に高いものになっています。歴史的なタイル建築には、現代建築にはなかなかみられない魅力があります。その利活用は今後も増えていくでしょう。

鈴木──三田ガーデンヒルズでは、PARK MANSION棟中央部分に既存の意匠が継承されましたが、その他の外壁にも一部タイルがデザインに取り込まれています。たとえば帯状に入っている斜め張りのタイル。二丁掛タイル(レンガの小口ではなく長手面のプロポーション227x60mm)を斜めに交互に張るデザインですが、これは既存の外壁にも一部採用されていたパターンです。このプロジェクトはレジデンスを新築するものですが、その建築の魅力や価値を向上させる要素として、歴史意匠の継承が見直されていく契機となるでしょう。

左:日本陶業代表 深谷献一氏、右:大成建設東京支店 工務課長 鈴木康介氏
日本陶業代表 深谷献一氏(左)と大成建設東京支店 工務課長 鈴木康介氏

日本の近代建築にタイル外壁の名作は多い。その保存と利活用はいま大きな課題である。躯体を遺さずとも、今回のように既存の建築材料や装飾をストックし文脈と共に新しい建物に再利用する選択もある。タイルの高い耐久性とタイル建築のすばらしさが再評価される機会は増えていくだろう。

取材・文/株式会社フリックスタジオ
撮影/永井杏奈(特記を除く)

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公開日:2026年09月30日