まちの空間を活かす 3

地元と連携して人々を惹きつける
──池袋駅東口グリーン大通り

IKEBUKURO LIVING LOOP 池袋駅東口から護国寺方面へ延びるグリーン大通りでは、年に一度のイベント「IKEBUKURO LIVING LOOP」を2017年からスタートした。通り一帯を屋外リビングに見立て、マルシェやワークショップが楽しめる憩いの空間を演出。第4回目の2020年は「新しい日常を育もう」をコンセプトに10月、11月の7日間行われた

2014年には、東京都23区で唯一「消滅可能性都市」註1と指摘された豊島区。その後、持続発展都市を目指し、現在では「国際アート・カルチャー都市構想実現戦略」を進めています。その中で、池袋駅周辺の4つの公園と周辺区道を核とした回遊できるまちづくりで地域活性化を図っています。池袋駅東口の軸となるグリーン大通りでは、先駆けてリニューアルオープンした南池袋公園と一体的に整備し有効活用することで、魅力ある歩行空間を生み出しています。ファミリー層をはじめ、多くの人々が訪れるようになった新しい池袋のまちの仕掛けについて、豊島区都市整備部の増子氏とグリーン大通りの賑わい創出を手掛けるnestの青木氏にお話を伺いました。

  1. 註1:2014年5月、民間有識者組織の「日本創成会議」が発表した全国自治体の将来推計人口により、 2010~2040年に20~39歳の若年女性が半減し、人口維持が困難となる市区町村。

公園のように憩える歩行空間づくり

──グリーン大通りの取り組みについて教えてください。

増子氏:

2003年頃、池袋駅周辺は放置自転車で溢れていました。グリーン大通りでも平置きの駐輪場を沿道に設置して、緊急的に放置自転車対策をしていた時期があります。その後、放置自転車問題が解消されてくると、通りの見栄えの悪さが目立ち、景観をどうにかしたいとなりました。グリーン大通りは池袋の玄関口として中心となる道路です。もっと良い空間にしていこうと取り組みが始まりました。
2014年からは、まちの価値を向上するため賑わい創出を目的に社会実験を行い、マルシェやオープンカフェなどを実施してきました。その後、「グリーン大通りエリアマネジメント協議会(GAM)」を設立。2016年4月に豊島区が国家戦略特区を取得した際に、グリーン大通りの国家戦略道路占用事業を行っていくという流れで進んできています。
基本的には、池袋駅東口近くの五差路から護国寺方面の区役所辺りまでの区道が国家戦略道路占用事業を取得した区域で、空間を有効に利用して「誰もが集い賑わい、四季を彩る公園のように憩える、美しい都市空間の形成」を目指しています。中でも取り組みが飛躍した一番大きなきっかけは、2016年4月に南池袋公園がリニューアルオープンしたことです。園内に駐輪場を併設したため、それまで通りに停めていた自転車をこちらに駐輪できるようになり、本格的にグリーン大通りの空間を変えていき、有効活用できる段階に入ってきています。社会実験から今年で7年になり、私たちの取り組みも段々と認知されて、居心地の良い空間づくりができていると感じています。

増子嘉英氏豊島区 都市整備部 都市計画課長
増子嘉英氏(写真:フォンテルノ)

──具体的にはどのような再整備をしていますか。

増子氏:

2018年から5期に分けてグリーン大通りを再整備しています。現在は2期まで完了し、南池袋公園側の歩道の整備を終えたところですが、コロナ禍の影響もあり、工区の3期以降は様子見の状況です。
整備に当たっては、3つの方針を掲げています。「歩道照明のリニューアル」、「植栽帯のリニューアル」、「電源・給排水設備の整備」ですね。他にもベンチ等を設けて、憩える空間をつくっています。一般的に見ても、自治体がイベントや地域活動のために道路に電源等を設置することは珍しいのではないでしょうか。

グリーン大通りでの取組み概要【クリックで拡大】(提供:豊島区)
整備前のグリーン大通り整備前のグリーン大通り。工区3~5期のゾーンで、今後、工区1、2期の南池袋公園側同様に整備される(写真:LIXIL)
再整備した南池袋公園側のグリーン大通り 再整備した南池袋公園側のグリーン大通り。植栽帯を取り払い、広々とした歩道になった

通りを有効的に活用するための再整備

──グリーン大通りのイベントはnestが担っていますね。

青木氏:

nestは2017年に「グリーン大通り等における賑わい創出プロジェクト」のプロポーザルが行われて、その際に設立した会社です。僕自身、豊島区は生まれ育った地元で池袋の当事者でもあります。グリーン大通りは、パリのシャンゼリゼ通りと幅員は同じらしいですが、大きな違いはシャンゼリゼ通りにはカフェテリアが並んでいるのに対して、グリーン大通りは金融機関がメインテナントとして占めている。通りとしては池袋のエントランスで、放置自転車問題も解決したので、もっと居心地の良い空間にできるはずですが、沿道のテナントに目的性の高い店舗が多いため、そういった状況になかった。賑わいの定義はいろいろあると思いますが、単純に人を大勢呼び込むのではなく、笑顔の溢れるような、そこに佇みたくなるような居心地の良い賑わいをつくりたいという考えでやってきました。グリーン大通りには、南池袋公園が直ぐそばにあって、nestは公園のリニューアルオープンにも関わっています。“南池袋公園の日常”に、少なからず関わらせていただく中で、あの風景があるのだから、それを延長すればグリーン大通りもだいぶ変わってくるのではないか。公園と一体的に同じ風景をつくるという点が一番重要だと思っています。

青木純氏nest代表取締役
青木純氏(写真:フォンテルノ)
2016年にリニューアルオープンした南池袋公園 2016年にリニューアルオープンした南池袋公園。右手の超高層ビルは 豊島区役所の上にマンションが入った日本初のマンション一体型本庁舎

──イベントがテストマーケティングとして再整備に活かされているようですが。

青木氏:

グリーン大通りのハード整備に繋がる状況をつくることがnestの役割だと思っています。例えば、いきなりハード整備をしても、それを使わなければ意味がありません。行政は、どちらかと言えば都市計画があってそれに沿って実行していく。先に整備が動いて、それを使うという形です。今回のケースで珍しいのはグリーン大通りが国家戦略特区の認定を受けた後、nestが“賑わい創出” 事業者として認定され、僕らが毎月、マーケットやマルシェを開いたり、キッチンカーを平日に入れてみて、どれくらいのニーズがあるか、どの場所であれば人が居心地良く過ごせるのかをテストマーケティングしたことです。社会実験やイベントで、いろいろテストしていく中で、この場所にコンセントがあったほうが使い勝手がいいだろうとか。照明計画についても実際、警察に豊島区と調整交渉しました。イベント時に人がいる状況でどの位の照度であれば安全かどうか、逆にどういう照明であれば、人々はそこで落ち着いて居心地良く過ごすのか、全て僕らが状況づくりをやったうえで、グリーン大通りの整備に繋がっています。
これからの時代、財源も少子高齢化でどんどん先細りしてきます。“使ってからつくる”という方法は時代に合っていて、このタイミングでできた意義は大きかったと思います。

増子氏:

ハード整備について、全てのリクエストに応えることは難しいですが、地域の発展に繋がる、そういった視点で電源や給排水等の整備をしています。地域の皆さんに喜ばれる、将来的なまちの発展のための整備であればお金を出していくという形ですよね。
以前と比べて、グリーン大通り沿いのビルの1階に店舗が増えてきました。もちろん豊島区のほうで都市計画的に誘導をしているということもありますが、地域の皆さんの今までの活動の成果も出てきていると思います。ビルの更新等がある場合は、なるべく賑わいに繋がるような働きかけをしていますので、徐々に成果となって表れていると感じています。

南池袋公園のカフェレストラン「Racines FARM to PARK」 南池袋公園のカフェレストラン「Racines FARM to PARK」。地元レストランチェーンのグリップセカンドが運営している
公園内に出店したマーケット。憩い、遊ぶ場としてだけでなく買い物を通じて地域交流もできる新しい日常を提案している

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公開日:2021年03月24日