横須賀市港湾部×LIXIL

港湾の社会課題に民間ならではのアイデアを提案
――横須賀市の港湾施設に、すり抜け防止対策の後付けフェンスを寄贈

高橋学、水越則之、佐々木佑香(横須賀市港湾部)


うみかぜ公園に隣接する平成地区8護岸に、すり抜け防止対策として既設の防護柵に設置されたLIXILのスチール製グリッドフェンス。横須賀市港湾部の皆さんの向こうには観光スポットの猿島が見える

港湾エリアで発生した防護柵からのすり抜け転落事故を受けて、国土交通省港湾局は2021年8月、全国の自治体に対し、既設防護柵にネットやロープなどですり抜け防止の対応をするよう求めました。続く2023年4月には、国土交通省港湾局と日本港湾協会から新たな防護柵の安全基準ガイドラインが示され、新設する防護柵については、「格子の内法寸法は10㎝未満が望ましい」とされました。
各自治体では、緊急措置として既設の防護柵に金網や樹脂製ネットを張るなどの対応が取られましたが、これらは耐久性や景観の維持に問題があるケースも多く、経年劣化などで危険な状態の箇所については速やかな改善が求められています。
長年にわたり公共エクステリア製品としてフェンスや防護柵を製造・販売しているLIXILは、新しい基準に沿った新商品を開発するだけでなく、既設の防護柵に対する合理的なアイデアを打ち出しました。それは、量産品のスチール製グリッドフェンスを既設の防護柵にステンレス製結束バンドで固定設置するというものです。
そして、2024年12月、横須賀市のうみかぜ公園に隣接する平成地区8護岸の約400mに、金網や樹脂製ネットよりも耐久性が高く、安全で見た目も美しいグリッドフェンスが設置されました。
今回は、LIXILの提案にご協力いただいた横須賀市港湾部の方々に、港湾部の仕事や課題、すり抜け防止対策の後付けフェンスについて、お話を伺いました。

◆参加者

高橋 学氏(横須賀市港湾部 港営担当課 課長 ふ頭管理事務所長)

水越則之氏(横須賀市港湾部 港湾管理課 港湾管理係 係長)

佐々木佑香氏(横須賀市港湾部 港湾管理課 総務係)

LIXIL担当者

親しみのある海洋都市を目指して――横須賀市 港湾部の取組み

高橋 学氏(横須賀市港湾部 港営担当課 課長 ふ頭管理事務所長)
高橋 学氏
横須賀市港湾部 港営担当課 課長 ふ頭管理事務所長

高橋氏: 港湾部の主な仕事は、海で働く港湾労働者、漁業者が、施設や付帯する緑地を快適に使っていただけるように維持・整備することです。一方で、3方を海に囲まれている横須賀市は、海洋都市を目指し、海にフレンドリーであるというイメージづくりをしています。港湾には軍港や漁港など一般の方が立ち入れない場所も多くありますが、開放された場所については、一般の方がいつでも普段どおりに利用できるということを前提とした環境整備に努めています。
本日のテーマとなる護岸に関して具体的にお話ししますと、海辺の遊歩道には主な使い方として、散歩、ジョギング、釣りの3つがあります。釣り人の釣り針が歩行者に当たる、禁止されている場所でのスケートボードや自転車の乗り入れなどさまざまな問題があり、施設利用者と地域住民それぞれの要望をどのように実現させるか、そのバランスを考えながら管理運営しています。

水越則之氏(横須賀市港湾部 港湾管理課 港湾管理係 係長)
水越則之氏
横須賀市港湾部 港湾管理課 港湾管理係 係長

水越氏: 近年は自然災害が多いことから、津波や高潮に対するハード整備への関心が高まっています。横須賀市でも高潮対策事業や侵食対策事業を進めていますが、ハード整備をするとどうしても景観を損ねてしまうことがあります。それを少しでも軽減するために、管理用通路を一般開放して海を眺める場所とするなど、一般の人が親しめる施設となるよう工夫しています。

佐々木佑香氏(横須賀市港湾部 港湾管理課 総務係)
佐々木佑香氏
横須賀市港湾部 港湾管理課 総務係

佐々木氏: 私は主にうみかぜ公園等の港湾緑地を担当しています。うみかぜ公園は、海と猿島を眺めることができる景観が魅力で、多くの方がピクニックに来られる公園です。小さなお子様をお連れになったご家族もいらっしゃるので、施設が安全であることはとても重要です。
公園管理人がいる公園ではありますが、利用者同士によるトラブル、ゴミの放置、施設の破壊行為、喫煙などの問題も発生しています。私は公園管理人とともに、うみかぜ公園に訪れる誰もが気持ちよく過ごせるよう、ポスターを貼って注意喚起をしたり、マナー向上に協力いただけるようお声掛けをしたりと、さまざまな対策をしています。

高橋氏:1992年に横須賀市が港湾緑地条例を公布し、1996年にうみかぜ公園(約52,000㎡)が開園しました。今でこそ「アーバンスポーツ」というジャンルがオリンピックの種目になっていますが、開園当初から園内にアーバンスポーツ施設を取り入れたうみかぜ公園は、港湾緑地ならではの特色ある公園になっています。
海辺にあるアーバンスポーツ施設ということで利用者にとっても気持ち良く、絵になることからコマーシャル撮影で使われることも多くなりました。全国的に見てもこうした海辺のスポーツ施設は増えているようです。
決められた場所で楽しんでいただくことは大歓迎なのですが、駅から続く道路でスケートボードやブレーキの無いBMX(バイシクルモトクロス)に乗るのは、騒音だけでなく安全性の面でも問題となってしまうので、そのようなことが起こらないよう配慮しています。それぞれのコートには緩やかなコミュニティーが形成されているので、利用者同士でも施設の使い方について連携するような文化が生まれています。

うみかぜ公園のスポーツ広場
うみかぜ公園のスポーツ広場にはさまざまなアーバンスポーツの施設がある(写真提供:横須賀市)
うみかぜ公園マップ
うみかぜ公園マップ(出典元:指定管理者よこすかseaside パートナーズ)

求められた2021年の緊急措置――護岸防護柵をめぐる課題

水越氏:2021年8月に発生した防護柵のすき間からのすり抜け転落事故を受けて、同月に国土交通省港湾局より既設防護柵への緊急措置を求める事務連絡が発出されました。続いて2023年4月には「防護柵は縦桟構造を採用することが望ましいとともに、縦格子の内法間隔は10cm未満とすることが望ましい」という新基準が設けられました。 2021年の依頼に対しては急ぎの対応が求められたので、すぐ手に入る材料でかつ短時間で施工できるよう、既設防護柵に金網を樹脂製の結束バンドで留める対応をしました。うみかぜ公園付近の防護柵は約400m、海辺つり公園が約520m、ほか含む全域(概算1,100m)となるとかなりの長さになりますが、横須賀市では10日間ほどで、人が立ち入るエリアの緊急措置を必要とする既設防護柵への対応をすべて完了させました。

高橋氏:当時はスピードが最優先でしたので、事業者に相談しながら考えた対処方法で施工しました。既設防護柵の格子内法寸法は15㎝あり強度的には問題がなかったので、すき間を埋めるのが最善策ということでした。釣りやいたずら目的でネットを切られる心配があるので樹脂製のネットは避けました。採用した金網の錆びについては想定内で、2、3年のスパンで交換していく予定でした。
この緊急措置に対して国からの資金や物資といった補助はありませんので、護岸を有する全国の管理者はどう対応していくかという点で同じ悩みを持っていると思います。新しいものを造るときと比べると、維持管理上で発生する劣化や破損に対する予算を獲得するのは難しい傾向があります。幸い2021年は台風による被害がなかったので、防護柵の緊急措置に予算をひねり出すことができました。そんな中で、LIXILさんより今回のありがたいご提案をいただいたのです。

緊急措置を施した防護柵
うみかぜ公園に隣接する平成地区8護岸の金網による緊急措置を施した防護柵。改修前の状態(2024年11月27日撮影)

近くで見ると樹脂製の結束バンドが劣化で壊れてしまい、金網自体の劣化も目立つ。平成地区8護岸改修前の状態(2024年11月27日撮影)

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公開日:2025年03月17日