デザイナーの視線から見えた多様な課題に応える
トイレデザインの可能性

上垣内泰輔(デザイナー)× 大野力(建築家)× 石原雄太(LIXIL)

『商店建築』2016年11月号 掲載

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トイレのお手本となるオフィスデザイン

上垣内:

昔からずっと気になっているのは、駅やデパートでよく見かける女性トイレの行列です。ダイバーシティー社会を考えるなら、まずあの行列を解決したい。男性、女性トイレの境界をもっとフレキシブルに運用すれば良いと感じます。これ一つとっても、機能による仕分けは難しいですよね。別の物差しを使わないとロスのないパブリックトイレはできませんし、新しい使い方がインフォメーションされルールが確立されれば、実際のハードは後からついてくるのではないでしょうか。

大野:

確かに1カ所でも成功事例ができれば、そこが発端となって全国に広がると思います。今流行のシェアハウスにしても、かつては他人同士の男女が一つのリビングやキッチンを共有することは常識として考えられませんでしたが、それが交流の輪を広げ楽しそうに見えれば自然と一般化していきます。できれば、日本発のシームレスな新しいパブリックトイレの姿を確立して、世界に伝搬させたいですね。そのためには、機能だけでなく楽しさや快適さも大切になると感じます。

「松屋銀座コンフォートステーション(1987)」(設計/早川邦彦建築研究室)の男性用トイレ

石原:

事例によって新たな常識が広がったトイレとして、松屋銀座の「コンフォートステーション」が挙げられます。それまで機能重視だったデパートのトイレに変化を与えるため、1987年に松屋とLIXIL(当時INAX)が提携して全面改装したプロジェクトで、設計は建築家の早川邦彦さんに依頼しました。革新的であった点は、お客様へ豊かさを提供するサービスの一環としてトイレを捉えたことです。デザインやアメニティーに店舗デザイン以上の先見性を与え、デパートのトイレとしては初めてパウダールームを備えました。マスコミにも広く取り上げられ、ホテルや駅などのトイレリニューアルブームのきっかけとなり、アメニティー化の進む現在のトイレのルーツともいえます。

上垣内:

ダイバーシティー社会への対応については、オフィスの事例が先を行っていると思います。昨年、自社オフィスを移転した際、フリーアドレスのオフィスとなり、デザイナーを除いて個人のデスクは廃止されました。社員にとってかなり大きな変革ですが、設計を任された私は、オープンな場所や仕事に集中できる場所など何種類かのスペースを用意して、それぞれがその日の仕事内容や気分に合わせて使いやすい場所を選ぶという空間づくりを試みました。結果は概ね良好で、更にソフト・ハード両面の整備で時間や場所にとらわれず働けるようになったため社員の活動領域は広がり、以前より生きいきと仕事に取り組んでいます。ただし、トイレについてはビル備え付けのものであり、1から考えられたとするならば、もっと多様性に配慮した計画にトライしたかもしれません。

大野:

私も大規模なオフィスを手掛けた際に、なるべく使い方を限定せず、窓際の心地良い場所や閉じた場所、ガヤガヤした場所や静かな場所など環境の差異を散りばめて、それを選ぶのは各社員というプランを設計しました。こうした新しいデザインを生み出すために最も有効なのは、踏襲されてきた与件を変えることだと思います。与件のチェンジメーカーが新しい空間を生み出すと言っても良いし、与件を変えなければ表面的な変化しか生まれません。トイレの場合はクライアントからの条件で、面積や配置もほぼ決められています。まだまだ開拓の余地のある空間とも言えるので、ゼロからのスタート地点に自分が最初に立ってみたいと思いました。LIXILともコラボレーションして、新しいトイレ空間の革命を起こしたいです。

石原:

お二人の話を伺って、機能の多様性による対応には限界があり、これまでとは全く異なった視点が必要な時期が来たと感じました。今まで蓄積してきた機能やゾーニングなどのノウハウをステップにして、先に進む勇気をもらいました。

上垣内:

私としてはまず、女性トイレの行列の解消をテーマにしたいと思います。いつまでも解消できない要因は男性トイレに女性が入れないことですが、果たして昔からそうだったのか。パブリックトイレのルーツに立ち返り検証する先に、ダイバーシティー社会に対応したトイレのヒントがあるように感じます。

大野:

確かに、既存のニーズに単純に応えるだけの設計ではなく、今考えられるトイレの空間的な正しさを形にして、その可能性や使いこなし方を人々が考えていくことが現代的な解決策だと思います。

LIXIL本社にて

※1 ダイバーシティー
企業や団体において多様な人材を積極的に活用しようという考え方。 性別や人種、障害などの多様性を受け入れて広く人材を活用することで、多様化するマーケットへアプローチできる企業体質を目指した取り組みが活発になっている。そこから広がり、多様化する社会全体を示す言葉としても使われている。
※2 LGBT
レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時に診断された性と、自認する性の不一致)の頭文字をとった総称。(※4参照)
※3 トランスジェンダー
LGBは性的嗜好の要素が強いのに対して、T(トランスジェンダー)は自己の性のあり方である。主に次のようなタイプに別れるが、個人差も大きく一律には区分けできない。Male to FemaleやFemale to Maleの中には、自認する性への性別適合を行う人もいるが、しない人もいる。
Male to Female
男性として生まれ、性自認が女性の人(女性として生きる/生きたい人)
Female to Male
女性として生まれ、性自認が男性の人(男性として生きる/生きたい人)
Female to X
女性として生まれ、どちらでもない性別として生きる/生きたい人。
Male to X
男性として生まれ、どちらでもない性別として生きる/生きたい人。
なお「性同一性障害」は、「生物学的な性と自認する性の不一致があり、性別適合を強く望むことによって起こる障害」を示す医学用語で、現在はトランスジェンダーと区別されることが多い。
※4 ジェンダー
生物学的な性(Sex)に対して、文化的、歴史的、社会的背景から生み出される性として主に使われる言葉。例えば髭を生やした男性は「男らしい」、化粧をしてアクセサリーをつけた女性は「女らしい」といったイメージによって生じる男性、女性の区別をいう。

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公開日:2017年05月31日

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