これからのパブリックのトイレを考える

公共空間における個人の自由を求めて

鈴木謙介(社会学者)| 永山祐子×萬代基介×羽鳥達也(建築家)× 門脇耕三(建築学者、監修)

『新建築』2017年5月号 掲載

提案1:トイレを見直すことで生まれるオフィスの新たな空間
ラバトリーのすゝめ

永山祐子 花摘知祐/永山祐子建築設計

永山祐子(ながやま・ゆうこ)
1975年東京都生まれ/ 1998年昭和女子大学生活科学部卒業/ 1998?2002年青木淳建築計画事務所/ 2002年永山祐子建築設計設立

飛行機のトイレは非常に機能的である。極限まで省スペース化した上で、性別を越えた使い手の多様なニーズに応えることを求められている。飛行機におけるトイレとは、つまり「lavatory(=ラバトリー)」である。その語源はラテン語の「lavare」=「to wash(洗う)」を意味し、トイレよりも多義的な意味を含み、多様な行為を許容する。ラバトリーの考えを応用することで一般的なオフィスのパブリックトイレにおけるダイバーシティに対応できないかを考えた。
一般的なオフィスのトイレの間取りを再構築してみた。これからのオフィスにおけるトイレには、排せつ行為やリフレッシュするための行為以外にも、子どもを連れて出勤したときに世話をするなど、性別を越えた使い方の可能性を求められている。そこで従来のトイレを多機能なユニット化した「ラバトリー」に置き換え、個室においてあらゆる行為を完結できるようにした。一方、本来トイレ内の共有部分にあるはずの洗面スペースや男女別に設けられた通路を省くことができた。
超プライベートな空間をつきつめる事で、逆にオープンなスペースが生まれた。結果的に相反する性質の空間が並び、これまでにないオフィスの関係をつくり出した。

■従来のオフィスにおけるトイレ

ラバトリーを男女共用とすることで洗面 や待合が減り、省スペース化に繋がる

■ラバトリーのすゝめ

(1)個室の機能集中化

手洗器、鏡、ベビーシート、収納などを個室に設け、トイレ内での行為を性別問わず個室内で完結できる。

(2)視線の合いにくい配置

各ブースを縦横交互に配置することで視線を遮り、長手側面から入ることで便器が見えづらくなる。

(3)すれ違いのない動線

出入口はそれぞれ1ヶ所ずつに限定し、動線を一方通行にすることで人のすれ違いを少なくする。

(4)入室システムの導入

入退室をセンサーで管理し、画面で確認することで待合を減らし、内部の人の動きを円滑にする。

■これからのオフィスにおけるトイレ

新たな共有空間「ほっとスペース」が生まれる

■ほっとスペースがトイレ周りを変える

従来のトイレを「ラバトリー」に置き換えることで新たな共有空間である「ほっとスペース」が生まれ、多様な活動を創出する。階段状の設えによるミーティングスペースなど、今までのオフィス空間にはないカジュアルな可能性のある場が生まれる。

■ラバトリーにおける行為の多様化

ラバトリーでは本来の用途のほかに、個室でメイクをする、休憩をするなど、手軽にリフレッシュできる以外にも、オフィスに子供を連れてきたときの世話など、さまざまな場面・行為に対応することができる。

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公開日:2017年12月25日