Reborn-Art Festival 2017「牡鹿ビレッジレストベース」レポート

公共トイレが複数の役割を担い地域を繋げる

藤原徹平(建築家、フジワラテッペイアーキテクツラボ)

『新建築』2017年10月号 掲載

インタビュー:
公共トイレの災害への備え

熊谷力也(LIXIL東北支社 LWTJ営業統括部東北営業部部長)

被災当時のトイレと衛生環境

東日本大震災発災時、私は盛岡市内におりました。私の実家が陸前高田にあるのですが、家は津波で流されてしまいました。幸い両親は助かりましたが、震災当時の街の様子は壮絶なものだったそうです。被災した住民は近くの避難所に集まったのですが、両親のいた避難所は20?30畳ほどの空間に50?100人もの多勢の人たちが避難していました。そこにはトイレが2つしかなく、水道も電気も止まったままの真っ暗なトイレは、次第に糞尿で汚れ大変深刻なことになっていたそうです。たまたまその避難所は汲み取り式トイレだったので、水洗式トイレよりまだましな状態だったようですが、数日もすればトイレは衛生環境が悪くなる一方で、男性は近くの茂みや山へ行って用を足すなど助け合っていたようです。仙台市中心部は震災発生から2?3週間後からライフラインが徐々に復旧していきましたが、被災がひどい地域では2カ月経っても復旧が進まず、当時はどこの避難所に行っても糞尿の始末が追いついてなく衛生環境が改善されるまでに時間がかかっていました。そういった状況を目にしたり、聞いたりして、当たり前のことですが、トイレは大事だと改めて考えさせられました。人間の生活の基本を「衣・食・住」と表現しますが、震災を経験すると、生理的に必要とする排泄場所は切実な問題であり、人間らしく生活していく上では「衣・食・トイレ(住)」であるということを感じました。

衛生課題解決への取り組み

当社では、被災地の避難所・仮設診療所の仮設トイレとして、実証試験中の無水無電源型トイレを設置し、使っていただきました。被災直後のさまざまな混乱状況の中、われわれが初めて現地調査に入ることができたのは震災発生から2?3カ月後で、そこから実際に設置に至るまでには困難も多く、約半年もの時間が経っていました。この無水無電源型トイレは水洗式トイレとは異なり、洗浄水も電気も不要で、かつ尿と便を分ける機構を有しているトイレです。現地のライフラインはまだ機能していない状況だったため、まずは、衛生的で安全なトイレ環境を確保することが求められました。臭い・汚い・危険を解決するトイレとして、少しでも快適に、安心して使用できるトイレ空間の提供が先決だったことを思い起こします。
また当社ではグローバルな衛生課題の解決をコーポレート・レスポンシビリティとして位置付けており、開発途上国向け簡易トイレ「SATO(※)」をアジアやアフリカの国々へ寄付し衛生環境の改善に繋げる「世界の衛生環境を改善しよう!みんなにトイレをプロジェクト」という活動に取り組んだところです。さまざまな国の環境や状況に対し、衛生課題の解決に向け考えて行きたいと思います。

※ 開発途上国向け簡易トイレ「SATO(Safe Toilet)」。2016年から本格的に事業化し、LIXILは2020年までに「1億人の衛生環境を改善する」という目標を掲げて展開している。

公共トイレのBCP対策

都心部のオフィスビルや大きな学校などの公共トイレでは、ほとんどの設備が電化し、洗浄などがセンサーで自動化されています。そのため、現在のトイレは非接触が当たり前となっています。それは、多数の人が使用する公共トイレにおいて、衛生環境を維持するためには直接触れる場所が少ない方がよいからです。しかし、停電で機能が停止した途端、数時間で被災地の状況と変わらないような衛生環境となってしまいます。停電は日本全国どこでも起こり得ますし、ましてや異常気象による災害は、毎年どこかで起こっているわけです。明日、起こるかもしれないことに対して、特にトイレへの備えは遅れていると感じています。そこで、当社は東北大学大学院工学研究科建築学専攻の研究グループと「ゼロ・エネルギー・トイレ(ZET)」に関する共同研究を2014年7月から開始しました。停電時でも、給水によって自己発電し蓄電した電力は、最低限の照明とトイレの起動を賄えます。トイレを使用するたびに小さなエネルギーを少しずつ蓄電し、常時には省エネになり、停電時にも安全に使用できるというものです。近い将来、みなさまのお役に立てる日を夢見て、現在、実証実験を行っています。(2017年9月8日、LIXIL東北支社にて)

「世界の衛生環境を改善しよう!みんなにトイレをプロジェクト」で寄付されている簡易トイレSATO。(提供:LIXIL)
大便器ブースでのZETの実証実験の様子。左が常時、右が非常時にZETの照明システムが稼働した状態。(提供:LIXIL)

写真撮影:新建築社写真部(特記を除く)

LIXILの公共トイレ「NEW PUBLIC TOILET HL」
人にも建築にもフィットするデザイン

トイレ空間イメージ。左はマーベリイナカウンター/シェルフ一体タイプ、右はセンサー一体形ストール小便器。

昨年、LIXILから公共トイレの新商品「NEW PUBLIC TOILET HL」がリリースされた。テーマは「人間の、かたち。」。人体のサイズや使用方法に合せ、人が接する部分には曲線や曲面を多用し、人が近寄りやすい形状としてデザインされている。また、建築に接する部分は直線とし、床や壁にすっきりと調和し建築の一部として違和感なく溶け込めるよう工夫されており、人にも建築にもフィットするデザインを実現した。
便器の表面には高硬度な平滑表面を長期間持続できる独自の技術「ハイパーキラミック」を採用し、キズが付きにくく、汚れも付着しにくくなっている。さらに、チェンジオプションとして、汚れの付着を大幅に削減できる新素材「アクアセラミック」(2016年にグッドデザイン金賞受賞)を選ぶことも可能。人と建築に寄り添ったデザインと、清潔がずっと続く技術が融合することで、公共トイレ空間の進化に寄与している。(編)

左から:パブリック向け壁掛便器、センサー一体形ストール小便器、多機能トイレパック、マーベリイナカウンター/シェルフ一体タイプ。これらはすべてグッドデザイン賞を受賞。多機能トイレパックとマーベリイナカウンター/シェルフ一体タイプは、iFデザイン賞も受賞。

(提供:LIXIL)

雑誌記事転載
『新建築』2017年10月号 掲載
https://shinkenchiku.online/shop/shinkenchiku/sk-201710/

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公開日:2018年05月31日