窓上手のテクニック/Livearthリヴアース 大橋利紀の心地よく自然とふれあう住まいのつくり方
特別取材 ふたりが考える窓のコト、窓設計のコツ
リヴアース代表・大橋利紀 氏×建築家・伊礼智 氏、聞き手:新建新聞社代表・三浦祐成 氏
窓設計の達人リヴアース・大橋さんの最新住宅を探訪
「繊月の家」~高低差1.5mの変形地で豊かに暮らす平屋~[愛知県大府市]
敷地は約80坪の広さと、最大で1.5mの高低差があり、西側道路と北側道路に接する。敷地が下がっている北側に3台分の駐車スペースを確保し、もともとあった南側の庭木を残しつつ約26坪の平屋を計画した。
南側と西側に視線の抜けがあり、より抜けの多い西側をメインに設定。ダイニングには南側の日射熱取得と庭を見るための掃き出し窓を、リビングのコーナーには西・南両方の庭と風景を取り込む高さを抑えたFIX窓を設けた。
耐震等級3×2.13倍の耐震性能、断熱等級6+、一次エネ消費量等級7を備え、冬型結露・夏型内部結露対策済み。
南側と西側に視線の抜けがあり、より抜けの多い西側をメインに設定。ダイニングには南側の日射熱取得と庭を見るための掃き出し窓を、リビングのコーナーには西・南両方の庭と風景を取り込む高さを抑えたFIX窓を設けた。
耐震等級3×2.13倍の耐震性能、断熱等級6+、一次エネ消費量等級7を備え、冬型結露・夏型内部結露対策済み。
“窓上手”で知られるリヴアース・大橋利紀さんの最新住宅を建築家の伊礼智さんと見学。ふたりが窓設計でどんなことを考え、どんなことを大事にしているか話を聞きました。
高さを抑えて「包まれる感じ」を出す
――大橋さんに最新住宅「繊月の家」を案内していただきました。伊礼さんの率直な感想はいかがですか?
伊礼:コモン(公共性のあるスペース)である西側道路に向かってどういう表情をつくるかが大事なんですが、屋根を低く低く抑えているのがすごくうまくいっているなと思いました。あとリビングの窓の高さが1500ぐらいなのもいい寸法ですよね。視線と意識が下の方に向かう。高さを下げることで「包まれる感じ」が出るんです。
大橋:住まい手は、まさにその「包まれる感じ」を求めていたので、開口部比率を少し抑えめにしました。日射熱取得量を増やすためには南側の開口部を大きくした方がいいんですけど、この家の場合はあえて西側を優先させ、風景を見せる窓としてリビングと畳の小部屋の西側にFIX窓を選択しています。
伊礼:永田昌民さんに散々言われたことですが、「壁がまとまっている」っていうのがすごく重要なんです。永田さんは「窓と壁の比率は1:3」だと言っていて、それはさすがに残し過ぎのような気がしますが、この家は開口部比率もちょうどいい具合だと思います。
「気持ちが動くところ」に窓をつける
――おふたり共通の窓の価値観は、やたらと大きくしない、高さを抑える、きちんと壁を取る、いい景色がなければ自分でつくる―といったところだと思います。肝心の「どこに窓をつけるか」についてはどうお考えですか?
伊礼:永田さんは「遠くが見えるところ」と言っていましたね。そういえばこの間、建築家の彦根明さんと窓の話になって、どうやって窓の位置を決めているか尋ねたら、「気持ちが向くところ」だと。すごくいいなと思って、一言でまとめるとまったくそういうことなんですよ。理屈じゃないんです。
大橋:永田さんの「遠くが見えるところ」も大事なキーワードの1つで、僕も太陽の動きとともに当然確認しますが、メインの窓をどこに置くかは伊礼さんや彦根さんと同じように「最後に気持ちが向くところ」で決めていますね。
気持ちが向くって、その家の「主題」が絡んでいるんだろうと思うんです。この家の場合は、西側をメインにしつつ南側も尊重し、1.5mの高低差をどう生かすかが主題です。この主題が決まると、全部がつながってくる感覚があって、窓の位置や大きさも自ずと見えてきます。
気持ちが向くって、その家の「主題」が絡んでいるんだろうと思うんです。この家の場合は、西側をメインにしつつ南側も尊重し、1.5mの高低差をどう生かすかが主題です。この主題が決まると、全部がつながってくる感覚があって、窓の位置や大きさも自ずと見えてきます。
伊礼:あとはより空間的な、立体的な魅力を引き出すために、僕ならトップライトを付けるかな。明るくしたいんじゃなくて、意識を上にも向けたいんです。水平、垂直のいろんな方向の軸を組み合わせて窓を設けると、余計なことをしなくてもすごく気持ちのいい空間になると思います。
窓際を「居場所」にする
――窓って庭や風景を見たり、明るさや風を調整したり、人の意識を向けたり、出入りしたり、いろんな機能がありますけどそれだけじゃない気がします。
伊礼:昔、若い編集者にいきなり「伊礼さんが一番好きな場所どこですか?」って聞かれて反射的に「窓際」と答えたんです。できることならずっと窓際にいたい。それくらい「居場所」としての窓際が好き。僕の設計にはだいたい、窓際にソファも家具も照明もあるから、開口部の近くに居場所をつくるのが多分癖なんでしょうね。でも、それでいいかなと思っています。
性能・意匠・コストのバランスで選ぶ
――窓際を居場所にするとなると窓の性能やデザインが大事になってきます。
大橋:まさにそう思います。僕は基本的に、木製窓とLIXILの「TW」を、建物の主題と予算に応じて使い分けます。この家の場合、木製窓は3つだけで、あとは全部「TW」。先ほども話した和室の西側に設けたFIX窓は「TW」です。
採用理由の1つは、性能と意匠の両立。
僕は「TW」をトップクラスの性能だと認識していて、見付が小さい、すっきりさせられるという点では最良の選択かなと。他の高断熱窓が悪いとは思いませんけど、「TW」のほうが耐久性や寸法安定性における安心感が大きいし、断熱・気密性能もちゃんと確保できる。窓辺が全然寒くならないから雪景色も純粋に楽しめます。性能と意匠の両立がしやすい窓だと実感しています。
採用理由の1つは、性能と意匠の両立。
僕は「TW」をトップクラスの性能だと認識していて、見付が小さい、すっきりさせられるという点では最良の選択かなと。他の高断熱窓が悪いとは思いませんけど、「TW」のほうが耐久性や寸法安定性における安心感が大きいし、断熱・気密性能もちゃんと確保できる。窓辺が全然寒くならないから雪景色も純粋に楽しめます。性能と意匠の両立がしやすい窓だと実感しています。
伊礼:昔は「サーモスL」のような見付がもっと細い窓を選んでいたんですけど、性能と意匠のバランスをとった時にやっぱり「TW」かなって。僕も今は迷わず「TW」を選択していますし、温暖地ならこれで十分じゃないかと思います。
――素人のような質問ですけど、枠の見付ってそんなに気になるものですか?
伊礼:気になります。同じ見付でも木だと全然気にならないのにそれ以外の素材だときれいに見えない。僕らが設計する家と見付の太さが合わないんですよね。
大橋:見付の太い窓はヨーロピアンテイストの家にはいいかもしれませんが、リヴアースの家だと悪目立ちしてしまいますね。その点、「TW」は窓が主張しすぎず、どんなスタイルにも合うし、設計者がしたい表現に応じて工夫しやすいのも特徴です。例えば、框を木で覆ったり、30oの木枠をあえて入れて、そちらに目線を向かせるみたいなこともできます。
伊礼:性能がいいぶん引違い窓で見えてくる枠が少し「サーモスL」より大きいので、自宅の「TW」は召合せ部分に木を入れて、ブラインドもあえて2つに分けて見た目をよくする工夫を僕もしますね。
――そういうことが既製品でできるという価値も大きいのではないでしょうか。
大橋:「TW」って、安価ではないけれど、性能・意匠・コスト・窓種のバランスが非常にいい窓だと思います。住宅全体を今使っている木製窓でやろうと思ったらコストもですが、性能も上げないといけないので現実的にはかなり厳しいんですが、「TW」があるおかげでそれを解決できる。実はこの家も、木製窓の値上がりが激しい時期と重なり、予算の関係で和室の窓を木製ではなく「TW」を選択した経緯があります。
伊礼:そうなんです。僕らの可能性をかなり広げてくれる窓だと思います。
――大橋さんや伊礼さんのような設計をされる方にとっての窓選びのポイント、考え方がよくわかりました。今日はありがとうございました。
記事提供:新建ハウジング(2025年3月30日発行アーキテクトビルダー掲載)