「INAXライブミュージアム」訪問記①

4月には「建物陶器のはじまり館」が新オープン 土とやきものの魅力を伝える『INAXライブミュージアム』

日本六古窯の一つに数えられ、INAX創業の地でもある愛知県常滑市。
古くからやきものの街として知られるこの地で運営されているのが『INAXライブミュージアム』です。
1986年開設の「窯のある広場・資料館」にはじまり、今回オープンした「建物陶器のはじまり館」まで25年余りにわたって“ものづくりの心”を伝え続けるライブミュージアムの魅力を、学芸員の後藤さんに伺いました。

「建築陶器のはじまり館」

ものづくりの心を受け継ぎ伝え続ける場所として

名鉄の常滑駅から車で数分。やきものの散歩道を抜けた先にあるのが『INAXライブミュージアム』。INAXが長年にわたって行ってきた文化活動を、LIXILが受け継ぐ形で運営されています。
「もともとINAXの事業は、文化と切り離すことができません。水まわり、キッチン、お風呂、トイレ…それは単なる商品を提供するのではなく、同時に住文化も提供しなければなりません。つまり会社は経済機関であるとともに、文化機関でなくてはならないということです」と語る後藤さん。
商品を提案するにしても、社員に文化的素養があること、生活を豊かにする製品を提供しているという意識があることが大切。そうした発想がミュージアムをはじめとするLIXILの文化活動にも脈々と息づいています。

『INAXライブミュージアム』

20年以上の時間をかけて進化してきたミュージアム

後藤さんのお話は続きます。「独自で、独創的で、継続する。私たちはこのような文化活動に対する思いを“2DK”と呼んできました。費用は多くかけなくても継続することが文化活動の本質。そうした思いで活動してきたのが私たちの文化活動です」
その言葉通り、INAXでは1981年の銀座を皮切りに、名古屋、大阪で開設したギャラリーや、出版、ブックギャラリーといった文化活動に継続的に取り組んできました。この『INAXライブミュージアム』も1986年の「窯のある広場・資料館」から、1997年の「世界のタイル博物館」、1999年の「陶楽工房」、そして2006年の「土・どろんこ館」と「ものづくり工房」オープンまで、20年という時間をかけてグランドオープンを果たしました。まさに継続という思いの下で進化してきたミュージアムなのです。
そうした歴史を経て、この4月、新たに「建物陶器のはじまり館」がミュージアムにオープンしました。

タイル、テラコッタの歴史を紹介する「建築陶器のはじまり館」

「建物陶器のはじまり館」は、屋内展示エリアと屋外展示エリア(テラコッタパーク)から成ります。パークの入口を入ると、正面に見えるのが横浜松坂屋本館のテラコッタ(伊奈製陶・後のINAX制作)。1.8m×4.5mの大きなそのテラコッタを2010年の解体に際し譲り受けたことが、この「建物陶器のはじまり館」を建築するきっかけになりました。その他にも大正・昭和の建築を飾ったテラコッタが、当時の様子さながらに、壁に取り付けた状態で展示されています。

屋外展示(テラコッタパーク)
(左)横浜松坂屋本館のテラコッタ(1934年竣工・鈴木禎次設計)(右)朝日生命館のテラコッタ(旧常盤生命館、1930年竣工・国枝博設計)
(左)大谷仏教会館のテラコッタ(1933年竣工・竹内緑建築事務所設計)(右)大阪ビル一号館のテラコッタ(1927年竣工・渡辺節建築事務所<村野藤吾>設計)

屋内展示室には、9物件のテラコッタや、伊奈製陶創業の頃から現在のLIXILに至る、いわば近代日本の建築陶器(タイルやテラコッタ)の歴史を追った年表も展示されています。その中心にあるのがフランク・ロイド・ライト設計の「帝国ホテル旧本館(ライト館)」の食堂の柱。そこに使われた煉瓦やテラコッタを制作した「帝国ホテル煉瓦製作所」の技術顧問を勤めていたのが、伊奈製陶株式会社の創業者・伊奈長三郎でした。

大正から昭和初期という短い期間に開花した日本のテラコッタ装飾。実はそこには関東大震災からの復興への思いが込められていました。
後藤さんは言います。「関東大震災で煉瓦造の建物が倒壊した後、耐震・耐火性の高い鉄筋コンクリート造の建物が復興の機運のもと建築されました。その外装に用いられたのがタイルやテラコッタです。復興に向けた元気と勇気を人々に与えたい。そんな思いから多くの百貨店やオフィスビルにテラコッタが装飾材として用いられたのです」

屋内展示

ファサードのテラコッタやタイルは一つひとつ手作業で制作

「建築陶器のはじまり館」のファサードに用いているテラコッタやスクラッチタイルは、「ものづくり工房」で、一つひとつ手作業でつくられたものです。
実際にやきものを制作する技術とノウハウを持っているということも『INAXライブミュージアム』の特徴であり、大きな強みなのです。
この「ものづくり工房」では、やきものの街・常滑で培ってきたものづくりの伝統や技術が資料として紹介されているだけでなく、歴史的建造物の修復協力や、設計者やアーティスト、窯元らとの交流・コラボレートを通じた新たなやきもの作りの取り組みも行われています。

「ものづくり工房」で制作したスクラッチタイルとテラコッタ
「ものづくり工房」

『INAXライブミュージアム』の“ライブ”という名付けには、実際にやきものの魅力を体感・体験できる場所という意味が込められています。単なる博物館ではなく、やきものの技術や伝統を受け継ぎながら、新たなやきものの文化を生み出そうとする気概がそこに息づいています。
展示内容も、2009年には染付古便器の展示を一新、2011年には土管の展示が追加されるなど常にリニューアルが行われ、まさにライブに進化するミュージアムとなっています。

「ものづくり工房」

ミントンのタイル 千変万化の彩り

[現在開催中の企画展]「ミントンのタイル 千変万化の彩り」

7/17(火)まで
INAXライブミュージアム 「世界のタイル博物館」企画展示室

・・・訪問記②へ続く。(「世界のタイル博物館」を予定)

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