海外トイレ取材 5

インフラから考えるトイレ──ケニヤ、ナイバシャ/カロベイエイ

浅子佳英(建築家、タカバンスタジオ)

「海外トイレ取材 5」は2018年4月25日号「海外トイレ取材 4 ナイロビに見る未来を占う存在としてのスラム」に続きケニアのパブリック・トイレのレポートである。

「海外トイレ取材 4」でも触れたように、ケニアでは、首都のナイロビですら中心部以外は上下水道のインフラが整備されていない場所がまだ多く残っている。とくにスラム(近年は「インフォーマル・セトルメント」が正式名称になりつつある)では穴を掘っただけで汲み取りもされていないトイレも多く、感染症などの原因にもなっている。

上下水道というインフラは、日本にいるとあまりに当たり前すぎて意識することは少ないが、ゼロからつくるとなると、実際にはそう簡単には整備することのできない超巨大なインフラである。下水処理施設と浄水場という巨大な施設を必用とするだけでなく、これらの施設から各世帯まで上水と下水の配管を道路の下や脇などに水勾配をきちんととった上で敷設しなければならない。もちろん、これには莫大なコストがかかる。また、インフォーマル・セトルメントなどのようにすでに多くの人々が住んでいる地域の場合には、一度は彼らに立ち退きしてもらわなければ整備することは困難だが、いまだナイロビのインフォーマル・セトルメントへの人口流入は止まっておらず、これもインフラ整備が遅れている原因にもなっている。

このようにきわめて困難な状況のなか、少しでも快適で清潔なトイレを安価に普及させようという試みが前回紹介したSATOだとすると、今回紹介するグリーントイレシステムは上下水道というインフラを使わずに排泄物を処理し、さらに再資源化するという画期的な試みである。

ナイバシャ

グリーントイレシステムのひとつは、ナイロビから車で北西に2時間ほど走った先にあるナイバシャという街に設置されている。ナイバシャにはナイバシャ湖という湖があって、湖の周囲には多くの野生動物が棲息し、これらの動物や自然を求めてやってくる観光客のための観光業と、湖の水を利用した花卉園芸が主な産業になっている。

ナイバシャ湖

ナイバシャ湖。周辺は湿地になっており多くの野生動物が暮らす。中央右手に浮かぶ黒い影はカバ
以下、写真はすべて筆者撮影

そして、今回取材したのも花卉園芸を営んでいる農家の社員住宅である。花農家の周囲には道路に沿ってビニールハウスが延々と並んでおり、車を走らせているとその一部を欠きとるようなかたちで設けられた、公園のような開けたスペースが見えてくる。その広大なスペースが社員住宅の敷地だ。各住宅は切妻の平屋。隣棟間隔をたっぷりととってあるので、明るく気持ちのよい場所である。建物同士の隙間はそれぞれ運動場や体育館や集会所、さらに洗濯場や物干スペースや畑などに使われており、パブリックとプライベートのちょうど中間のような雰囲気をもっていた。

住宅同士の間は菜園や物干場として利用されている

住宅同士のあいだは菜園や物干場として利用されている

さて、肝心のグリーントイレシステムは、この社員住宅の住人たちが使用する共同の(この企画で呼ぶところの)パブリック・トイレである。グリーントイレはもともとあった共同トイレの脇に併設するかたちで設置されている。トイレのブースそのものは波板で覆われた簡易なものだが(とはいえ即物的かつ機能的ながら適度にラフに組み立てられており、それはそれでわれわれの眼には魅力的に映ったりもするのだけれど)、その中身の機能はシンプルながらとてもよくできていた。

グリーントイレ外観

グリーントイレ外観

波板を切って曲げただけの換気窓

波板を切って曲げただけの換気窓

グリーントイレシステム

グリーントイレシステムは上述したように、排泄物を処理し再資源化する循環システムだ。具体的には、尿を液体肥料に、便を堆肥に変えて利用する。しかも処理には水も電気も基本的には使用しない。そのために重要なのは、まず、尿と便を分けることである。2つが混ざると臭いの原因にもなるし、処理も困難になるからだ。便器の穴は中で2つに分かれていて、尿は前方の穴に、便は後方の穴に落ちる仕組みになっている。尿の穴はそのままトイレブースのすぐ脇に置いてあるポリタンクに配管されているので、ポリタンクごと容易に回収できる。

ブース内部

ブース内部。日本と違い、壁を背にして座るので写真手前が尿用の穴、後方が便用の穴。右手にオガクズが見える

便のほうのつくりはもう少し複雑だ。便の穴に接続された配管は便器を跨ぐようなかたちで便器を中心に左右に伸びている。左側の配管は15cmほど先で上部に穴が空いており、さらに15cmほど先で途切れてレバーが付いている。右側の配管はそのまま尿と同様に脇にあるタンクに配管されていて、しかも試験品なので配管は透明で中が見えるようになっている。

透明の配管

透明の配管

ブースのすぐ隣に設置されたポリタンクに集めて回収する

ブースのすぐ隣に設置されたポリタンクに集めて回収する

ただ、利用するのは簡単で、用を足した後にまず、便用の穴にオガクズを放り込む。そしてレバーを引く。基本的にはこれだけだ。レバーを引くと配管の中にあるスクリューが回転し、便が配管の中でオガクズと混ざり合いながら外部のタンクに向かって移動するようになっており(ビスを想像してもらえばいい)それ自身が臭いに対するトラップの役割も果たすので、ほぼ匂わないし、見た目もこの時点ですでにいわゆる便の形はしていない。これがじつはとても重要で、臭いや見た目が便のままだと、いくらよい取り組みだと頭では理解していても参加するハードルを上げてしまうのだ。

このようなシステムを実際にうまく回すためには、プロダクトのデザインだけでは解決しない。いくらモノとしてはよくできていたとしても、それが機能するかどうかは人々に協力してもらえるかどうかにかかっている。ここでは住人を複数のチームに分け、清掃状態や回収できた尿や便の量を点数化し互いに競わせることで、ゲームのようにある種楽しみながら回収する仕組みづくりを行なっていた。便や尿も、それらを堆肥や肥料だと思うのか、たんなる排泄物だと思うのかでは感じ方はまったく違う。まだ試行錯誤しているそうだが、眼から鱗が落ちる思いだった。

その日の当番が書かれた紙

その日の掃除当番が書かれた紙

尿と便のどちらをしたかの記録が採ってある

尿と便のどちらをしたかの記録が採ってある

その後、すぐ近くにある処理施設のほうも見学。施設といっても、建物としては壁と屋根だけでできた屋外倉庫のようなとても簡易なものである。

便処理施設と尿処理施設

奥が便処理施設、手前が尿処理施設

尿処理と便処理は分棟で、尿処理施設のほうは、巨大なポリタンクが互いに接続された状態で複数台並べられている。タンクの中には微生物が混ぜられていて、彼らの働きで発酵、分解される。尿はリンや窒素を多く含んでいるため、処理した後は植物の肥料として利用することができる。処理の過程で実際にはポンプに少量の電気を使用するが、ナイバシャでは隣のバイオガス発電所の電気を分けてもらい、後に紹介するカロベイエイでは屋根に取り付けられた太陽光発電でまかなっている。

尿処理の工程
尿処理の工程

尿処理の工程

便処理施設のほうはさらに簡易で、内部はコンクリートでできた高さ1.5mほどの壁でいくつかのコの字型のブースに仕切られているだけである。各ブースの中には集められてきた便とオガクズの合成物が処理の段階順に積まれていて、ここでさらに、農業ゴミと堆肥を混ぜ、便中の微生物と堆肥中の微生物で発酵させる。発酵中は高温になるので、熱くなりすぎると混ぜて冷ましたり、発酵が促進されるように温度管理がされている。建物自体や運営する方法は簡易な手法が用いられている一方で、農業ゴミの種類や配合する量、また温度管理などは研究によって得られた知識を元に適切な手法が用いられている。ローテクとハイテクを融合したような、現実的かつ現代的なやり方だと感じた。

便処理の工程
便処理の工程

便処理の工程

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