国内トイレ・サーベイ 7

「保つ」トイレのアーキテクチャ

ツバメアーキテクツ(建築家ユニット)

これまで、トイレを「開く」こと、そして「動かす」ことについて述べてきた。今回は、トイレの最も基本的な質のひとつである、清潔さを「保つ」ことについて考えてみようと思う。

本企画第1回目の対談「清潔なトイレ、パブリックなトイレ」(青木淳+中山英之)でも、「清潔さ」について議論されている。

この対談ではトイレにおける清潔さには、「衛生学的に清潔」という意味と「感覚として清潔」という意味の二重の意味が重なっていることや、「清潔さ」と合わせて「パブリック」というものを考える必要性があることについて述べられている。
中山英之氏設計による小豆島の公衆トイレ《石の島の石》では、掃除道具やシンクが隠されずにきれいに並べられている。道具を並べることで、利用者がトイレを汚してしまった時には、自ら掃除ができるし、あるいはそこまででなくても、つねに「誰かが掃除をしている」ことに対して利用者自身が想像力を働かせるきっかけとなる。これは、美しいトイレのデザインというよりは、たんなる公衆トイレを真のパブリック・トイレへと昇華させる構築、つまりパブリック・マインドの醸成と言える。

《石の島の石》(中山英之建築設計事務所)出入り口の様子

中山英之建築設計事務所《石の島の石》出入り口の様子。(提供=中山英之建築設計事務所)

さて本稿では、建築家による一点もののトイレ、というよりは、もう少し都市空間ならではの「量」に対応するような、パブリック・トイレの可能性について考えてみようと思う。

ローレンス・レッシグ『code──インターネットの合法・違法・プライバシー』

ローレンス・レッシグ『code──インターネットの合法・違法・プライバシー』

アメリカの法学者ローレンス・レッシグが著書『CODE──インターネットの合法・違法・プライバシー』(翔泳社、2001)のなかで、人々のふるまいに対する規制を法・規範・市場・アーキテクチャに整理したことを思い出した。不特定多数の人々が使うトイレを、いかに簡単に清潔さを保ち、そしてもっとたくさん用意できるか。すなわちそれは、ある種の規制の攻略であり、アーキテクチャ(=建築)を巡る問いなのである。

ここでは、そういった観点から、パブリック・トイレについて考察してみよう。

「コンビニのトイレ」──規範に訴え、市場につなげる

コンビニのトイレは、街じゅうどこにでもあり公衆トイレよりもきれいだ。都市の生活者ならほぼ毎日使うといっても過言ではない。

2017年現在、東京都内のコンビニは7,000店舗ほどのようだ★1。この数字が多いのか少ないのか、よくわからない。ただ、2017年11月現在、ウェブで検索可能な東京都内の公衆便所はほぼ同じ、7,445件とある★2。民間企業が、公共のトイレとほぼ同じ規模でパブリック・トイレを用意できたと思えば、それはひとつの成果だと言える。

そしてコンビニでは公衆トイレや駅ビルのトイレと異なる次のような独特の利用フローがある。

1.使うときに店員にお声がけする。
2.トイレを使った後に、お礼の意味を込めて買い物(ガムなど=100円程度)をする。

これらの規範(マナー)に訴えることでコンビニのトイレの清潔さは保たれる。
誰が掃除しているか利用者のなかで想像力が及ぶからだ(あるいは汚した時に、特定されてしまうから?)。家の近くにあるコンビニで店員と顔なじみであるならなおさらだ。
さらに、お礼の買い物があるので、コンビニ自体の売り上げも上がる。市場にも寄与するので、コンビニにはトイレを必ず設置しようというループが生まれる。

では、筆者はコンビニ礼賛かというと、そうではない。福祉の観点からいくと、通常のコンビニのトイレは、「パブリック」さには欠ける。バリアフリー法(正式名称「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」)では、車椅子使用者用の便房とオストメイト対応の水栓器具の設置が義務づけられるが、小規模のコンビニは対象にならない。在庫商品をかき分けてアプローチすることも多いし、水回りを床上げして、トイレを設けることも多いために、致命的な段差がトイレ入り口でできてしまう。

そこに目をつけたのが、ロハスを売りにしたナチュラル・ローソンだ。ここでは、通路の拡幅とバリアフリートイレがコンセプトシートに盛り込まれている(参考:「コンセプト|ナチュラルローソン」)。
たんなるバリアフリーだと言えばそれまでだが、固定化されたアーキテクチャ(障壁、コンビニの仕様)をバージョンアップさせ、新たな市場(コンセプト、ブランド)につなげるというトライアルは興味深い。

「有料トイレ」──利用者を制限するアーキテクチャ

清潔さを維持するために公衆トイレを有料化すれば、より直接的なアーキテクチャとして働くのではないか。そう思いこのレポートを書くにあたって新宿駅を歩き回ったが、どこにも見当たらない。私が高校生の頃に新宿駅東口コンコースあたりに有料トイレ(一使用につき100円)があったが、今は店舗になってしまっているようだ。当時は、清潔なだけでなく、温水洗浄便座など設備の充実が売りだったわけだが、今となってはコンビニのトイレにおいても通常のスペックである。だとすると、100円を払うくらいならコンビニへ行くという判断が働くかもしれない。

トイレについて書かれたブログなどを見て回ると、10年頃前にはあった京都二条駅前の有料トイレも有名らしい。上述したようなコンビニのように、規制力同士が別の力へと向かうフローを生み出さないと、数は増えず、都市には残らない。

ただ、このような大都市や観光地の有料トイレを、インバウンド需要に対応した、さまざまな国籍、宗教へも配慮したつくりにし、復活させるということは考えられる。その場合は、トイレ機能に加えて、案内所や換金所の機能を取り入れてもいいかもしれない。規範の違いに対応し、市場につなげるということだ。利用者を制限していた有料トイレが、さまざまな多様性のためにかえって開かれるならば生き残るだろう。

「メダル式トイレ」──利用者をゆるく制限するアーキテクチャ

有料トイレとは似て非なるものとしてメダル式トイレがある。たとえば、飲食店で食事をしている人のみに利用を制限するもので、カウンターでメダルを受け取り、使う。トイレの鍵を借りるのとは異なり、万が一メダルを失くしても問題はない。

京王フレンテ、トイレのメダル

TOHOシネマズ新宿1階飲食街部分にあるトイレのメダル。

新宿駅付近では、歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿1階の飲食街と、新宿三丁目駅へつながる京王フレンテ新宿3丁目の飲食店街の2カ所で見つけることができた。これは飲食店のトイレが、繁華街・シネコンや交通機関と直結していることで、不特定多数の人々に荒っぽく使われないように編み出した策であろう。利用者目線で言えば、通行人を尻目にメダルを持っている自分だけがトイレに入っていく優越感もある。メダルを握りしめていく感じがRPGのようだ。トイレを清潔に使ってやろうという気分が醸成される。あるいは同じ店で食べている客や店員同士、清潔に使おうじゃないか、という仲間意識も生まれてくる。

京王フレンテ 飲食店街のメダル式トイレ
京王フレンテ 飲食店街のメダル式トイレ

京王フレンテ新宿3丁目のメダル式トイレ。

歌舞伎町TOHOシネマズ1階飲食街部分にあるトイレのメダル

京王フレンテ新宿3丁目、トイレのメダル。
(以上、特記なきものは筆者撮影)

パブリック・マインドが公衆トイレをパブリック・トイレにする

ここまでくると清潔なパブリック・トイレを実現するには、定期的に掃除をすれば解決する、という問題でもないことはわかってきた。

都市にあるたくさんのトイレの清潔さを持続させるポイントは、たんに公衆便所としての機能を不特定多数に提供するという一方向的なものではなく、法(罰則、バリアフリー法など)、規範(マナー、国籍、宗教など)、市場(コンビニ、インバウンドなど)、そしてアーキテクチャ(建築、障壁、仕組みなど)を相乗的に組み合わせることだ。

さらに利用者のなかで自然とパブリック・マインドが醸成されると、そのトイレは、パブリック・トイレに格上げされていくのかもしれない。
(山道拓人)


★1──『月刊コンビニ』2017年11月号(商業界)
★2──NAVITIMEで、東京都の公衆トイレ検索

参考文献
日本トイレ協会編『トイレ学大事典』(柏書房、2015)
ローレンス・レッシグ『CODE──インターネットの合法・違法・プライバシー』(翔泳社、2001)

ツバメアーキテクツ

2013年に山道拓人、千葉元生、西川日満里によって設立された建築家ユニット。2015年に石榑督和が参画。空間の設計をする「デザイン」部門と、研究開発やリサーチを行なう「ラボ」部門で活動をしている。2016年度「グッドデザイン賞」受賞。主なプロジェクト=《阿蘇草原情報館》(2015)、《八潮の保育所》(2017)、《ツルガソネ保育所・特養通り抜けプロジェクト》(2017)ほか。主な編著=『シェア空間の設計手法』(共編著、学芸出版、2016)ほか。