瀬戸内国際芸術祭アートトイレプロジェクト「石の島の石」レポート

パブリックトイレを表舞台に出す ── 衛生陶器をLIXILがサポート

中山英之(建築家)

『新建築』2016年11月号 掲載

インタビュー:
意識を変える仕掛け

地域に愛されるトイレ

塩田幸雄(小豆島町長)

「アートトイレ」プロジェクトの第1弾は瀬戸内国際芸術祭2013の島田陽さん設計の「おおきな曲面のある小屋」です。小豆島にパブリックトイレが不足していること、それにアート性も足すことで一石二鳥の効果があるという提案を京都造形芸術大学教授の椿昇さんからいただきました。しかも若手建築家に設計をしてもらうことで、若手建築家にもプラスになるし、将来その建築家が大成したとき作品が小豆島にあることも地域おこしになり、いろいろな面から見て一石三鳥か四鳥だと思います。島田さんの作品の評判が高かったので、今回の中山英之さんの「石の島の石」も同様に進められたと思います。ちょうど、公共トイレをつくってほしいという要望が以前からありましたので時期が合いました。島田さんの作品も地域の人が協力してくれましたが、今回の中山さんの作品は、ワークショップという形で地域の参加にウェイトが置かれています。地域に愛されるトイレでなければならないという中山さんの考え方がより強く反映されています。
ワークショップでは、高齢者からお子さんまで、いろいろな方に集まってもらい、大きな成果があったと思います。私もワークショップに参加しましが、コンクリートを斫ることがいかに難しいことなのか、職人さんの技術も改めて知ることができました。

町にとっての瀬戸内国際芸術祭とは

瀬戸内国際芸術祭というのは何のためにあるのかということを考えたとき、アーティストや鑑賞者にとって意味のあることは当然ですが、地元にとってアートだけではダメだと私は思っています。地元の人がどう変わるか。地元に対する愛着や、地域を変えていくのは自分たちだと思ってもらわないと意味がありません。地域に対する自信を取り戻し、変えていくことが不可欠で、地域との交流のないアートは、少なくとも小豆島町では受け入れられないと思っています。
小豆島は自然豊かでいろいろなものに恵まれた島で、かつてはみなさん自信を持っていたのですが、ここ10~20年で自信を失いつつありました。それを瀬戸内国際芸術祭が取り戻したような気がします。今、島は変わりつつあると思います。
中山さんの地元の石を使うことや地元の工務店で施工するという妥協しない決断力は、地元の人にも影響を与えましたし、作家にとっても自信になっていると思います。

(2016年9月11日、「石の島の石」にて)

インタビュー:
観光との相乗効果

大川新也(小豆島町議会副議長)

小豆島町議会でも草壁港にパブリックトイレが必要ですと訴えてきましたので、それが実現できたことは素晴らしいことです。
瀬戸内国際芸術祭は今回で3回目ですが、今まで草壁地区近辺ではこのイベントがありませんでした。ですから、地区の人の興味や関心は薄かったのですが、今回は草壁でもいろいろと展開しますというお話を芸術祭の方からいただきましたので、地域の方に協力のお願いをしました。ワークショップにこれだけのたくさんの方が集まっていただいので、みなさんの注目度も高かったと改めて思いました。
この地区には 寒霞渓 かんかけい という紅葉が美しい渓谷があり、人気の観光スポットなので、瀬戸内国際芸術祭のアートトイレやジェラートショップとの相乗効果が生まれればと思っていますし、地域の盛り上がりも感じています。

(2016年9月11日、「石の島の石」にて)

インタビュー:
町おこしのきっかけに

肥田高成(草壁本町自治会総代)

草壁港にパブリックトイレができる、しかも「アートトイレ」ということで、ワークショップに参加したい、協力しなければと思いました。今日は、地域の敬老会が行われていて、その場でみなさんにお声がけしたことで参加数が増えたのだと思います。お子さんも、子ども会の代表の方が動いてくれました。
本来は先週行われる予定で、ワークショップ以外にも「草壁みなとまつり」と題してバザーなども計画していたのですが、台風の影響で1週間延びてしまいました。「草壁みなとまつり」は中止になりましたが、ワークショップだけで,これだけ多くの人が参加してよかったと思います。
今回の瀬戸内国際芸術祭では草壁地区にもいろいろできたので、地元の関心も高くなったと思います。こういうイベントが地域のまとまりや起爆剤になったらと思います。

(2016年9月11日、「石の島の石」にて)


インタビュー:

少数精鋭による はつ り工事

牧幸一(壷井工務店)

「石の島の石」の施工を担当しました。施工は苦労しましたが、設計者との度重なる打合せで小豆島の石へのこだわりと熱意を強く感じ、請負者側でできること、できないことを明確に伝えつつ、実現できる方法を模索しました。
対策としては、島でもっとも優れた型枠職人にリーダーになってもらうこと,斫り仕上げの型枠は通常再利用のコンパネを使うのですが、コンクリートの流動性や寸法精度を向上させるため新品を使用したことなどがあります。
また、コンクリートの斫り仕上げについては、多くの石工職人を投入して工期短縮を計画していたのですが、石工職人の個性や癖が仕上げに表れるため、事前に試験を行いおのおのが斫りパターンを共有しながらムラのないように、少数精鋭で行いました。

(2016年9月11日、「石の島の石」にて)

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公開日:2017年06月30日