パッシブファーストの住まいづくり(第5回)

Z世代向け コンセプト住宅づくりワークショップ
LIXIL、学生や工務店とパッシブファーストを考える

「体験できる付加価値」が求められる時代、今後は気軽に設計に参加できるような住宅づくりを楽しむプロセスが求められつつあります。一方、「住宅が心地よい空間であってほしい」というニーズを満足させるために、パッシブファーストの考え方を更に広げていくことも必要です。これからの購買層であるZ世代と一緒にパッシブファーストを考えた家づくりをするワークショップの模様をご紹介します。

学生の自由な発想とプロの設計士の考えに学ぶ(株)LIXIL TH統括部 對馬さん。

ワークショップに満足した建築学生サークル「フラット」の皆さん。

学生とプロの設計手法の違いを学ぶ

2022年9月2日、Z世代の考え方を踏襲した住宅商品の開発に向けて、LIXILと中四国エリアの工務店7社、関東圏を中心とした建築学生サークル「フラット」の10名による「コンセプト住宅づくりワークショップ」を、オンラインにて開催しました。
「住宅性能の向上」をテーマにしたグループディスカッションでは、「授業で木造住宅の設計を行った際、家族を意識し日当たりの良い住宅をつくろうとした」と話す学生に対し、プロの設計士より「住宅という空間に入ったときにどのように感じるかが大切。空間づくりにマニュアルはなく、人の五感に訴えかける設計をすることが大きなテーマである」と返す場面も。

加えて、「料理は味を知らないとつくれない。食べて身につけるものである。建築も見て体験して、このようなものをつくりたいと考えていくことが、具体的に良い設計をする方法である。 ①気持ち良さの提供、②気持ち良さの数値化、③安心の担保、という三本の柱がある」と、学生にプロの設計手法を丁寧に教える言葉が印象的でした。

良いデザインとは何か

学生から、建築に対する価値観の一例として「デザインを考える際、雑誌やインスタグラムなどのSNSから情報を得ることが多い。そのため派手、特異的、写真映えするものに惹かれる」といった意見が寄せられました。
「パッシブデザイン」をテーマにした議論では、設計士よりこうした傾向について「若い頃は奇抜なモノをつくりたくなる。しかし、奇抜なモノはもって1年。50年後に行ったときにもやはり気持ちがいいと思われる建築、多くの人が心地いいと思える空間やモノが、良いデザインだと思う」と説明し、学生は大いに納得しました。
「学生と一緒にパッシブファーストを考えた家づくりについて、じっくり話し合うことができ、Z世代への提案のヒントを得る機会となった。オンラインでのセッションだったが、リアルと同じくらい良い体験ができた」と設計士は話す。この日行われたセッションの内容は参加者全員と共有し、参加した工務店にとって、Z世代の多様な考えを学ぶ機会となりました。

パッシブデザインをテーマに即日設計

9月15、16日、仙台にて対面での「即日設計ワークショップ」を開催しました。このワークショップには、LIXILに加え、東北地方の工務店で活躍する15人の設計士と、仙台市周辺で建築・都市・デザイン・土木を学ぶ有志の学生団体である仙台建築都市学生会議のメンバーら10人に参加いただきました。
まず行ったのは、パッシブデザインを取り入れた住宅設計についてのセミナーです。Z世代の特徴は、デジタルネイティブで情報収集力の高さ、社会問題や環境問題への関心の高さ、多様性への意識の高さなどが挙げられます。だが、デジタル化が進むからこそ、人や自然とのつながりが重要になり、住まいが担う役割も衣食住だけでなく、仕事や健康、運動、癒しなど複数の要素が加わることを紹介し、Z世代の価値観の共有を行いました。

LIXILからパッシブデザインを取り入れたプランを紹介。即日設計するプランのベースを作る。

続いて行われたのは、1階平面図、2階平面図、南面の立面図の即日設計です。学生、プロの設計者、LIXILのチューターが4~7名で1グループとなり、雑談を交えながらも、「取り入れたいパッシブ機能」や「どんな住宅にしたいか」等を自由な発想で各々が意見を出し合い、メンバーの中でパッシブファーストの家が少しずつ形になってきました。
施主条件は、30代前半の夫婦と子供が2人の4人家族。その他、いくつかの諸条件・要望をもとにプランを検討。学生の自由な発想とプロの設計者のアウトプット力で、アイディアがその場で図面に反映されていく。途中、煮詰まりながらも意見を交わし、何度も検討を繰り返して一日目は終了しました。

暮らしに多様性を与える家に

二日目、ギリギリまで図面を仕上げ、いよいよ成果の発表に。各グループ、それぞれパッシブの要素を各所に織り混ぜながらも、吹き抜けや大きな窓を設けた開放的なLDKが特徴的なプランや、土間での多様な過ごし方を提案したプラン、住宅内外のつながりを意識し庭の池や芝まで考えたプランなど、特色の異なる住宅を完成させました。設計士より「日頃は自分ならどんな住宅にしたいか考えて設計しているが、今回は若い彼らが住みたい住宅にするためのアイデアをたくさん詰め込むことができた」と学生と一緒に考えたプランに自信をみせる場面もありました。
発表後の質問では、自分のイチ押し空間を紹介する場面も。「コロナ禍で家での時間が増え、オンとオフの切り替えができる場所が欲しかった。家の中でもスーツを着て、靴を履いて出勤できる空間として土間をつくった」と語る学生や、「リビングに吹き抜けを設けることで風の通り道にしただけでなく、大きな壁に映画を映して鑑賞したい」と語る学生もいて、その家に住むことをイメージしながらプランを検討したことが窺えました。
「いつも教えてもらう立場だったが、今回はプロと同じ目線に立って対等に議論できたと感じた」と、仙台建築都市学生会議代表の秋葉さん。工務店側からも、「学生の意見を聞くという機会は普段なく、良い経験だった。今後の仕事にも活かしていきたい」、「若い世代とは考え方やその順序に違いがあった」、「学生の考え方を取り入れながら検討できて勉強になった」などの声が挙がった。また、「学生と過ごす時間が楽しかった。次回もお願いします」と次に期待する声もあり、互いに良い刺激を享受し合う時間となりました。

仙台で行われたグループディスカッション。参加者全員で理想の住宅を検討する。

設計士が見守る中「即日設計」を行う。慣れない手書きでの設計に挑戦する建築学生。

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公開日:2022年12月21日