カシマサッカースタジアム×LIXIL

地域創生を担うこれからのスタジアムのあり方

鈴木秀樹(株式会社 鹿島アントラーズFC取締役 マーケティングダイレクター)

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カシマサッカースタジアムでインタビューに応じる鈴木氏

人口約6万7千人の茨城県鹿嶋市に本拠地を置く鹿島アントラーズFCは、ホームスタジアムの茨城県立カシマサッカースタジアム(以下、カシマサッカースタジアム)の指定管理者でもあります。スタジアムを単なるサッカー競技場としてではなく、地域を活性化するプロフィットセンターと位置づけ、「鹿島アントラーズ」というブランドを軸とした多角的な運営で、売上高70億円(2019年度)に上る成長を遂げています。さらなる発展を目指し、次世代型のスタジアム改革を推進する中、2019年8月にはLIXILと協働して先進的なトイレ空間「REST and」をプロデュース。今回は、同クラブのマーケティングを手掛ける鹿島アントラーズFCの鈴木秀樹氏に、新しいスタジアムのあるべき姿についてお話を伺いました。

スポーツ施設をプロフィットセンターとして活躍させる

鹿嶋アントラーズFC 取締役・マーケティングダイレクター
鈴木秀樹氏

全国の競技場などの公共施設は、国民体育大会(国体)を軸に発足し、それから約50年経っています。各所で建て替えの時期が迫っている中、公共施設を扱う行政側の財政が潤沢かというと、そうでもない。もう一方で、日本全体を見ると高齢化が進んできて、地方が疲弊してきている。「地方創生」という言葉は少しハードルが高いので、「地域創生」と表現していますが、その中で地域が元気になるために、今までの競技場や体育館のままでよいのかが問われています。今、スポーツ施設に何が求められているかを考えると、単なるコストセンターからプロフィットセンターに変えて、お金を稼げる施設にすること。公共財としての財政支出を減らしていくという発想が大切です。民間でプロスポーツのチームを運営して利益を得ることで、地域の活力にしていくという方向に大きく舵を振ったんですね。それが、国の推進する「スタジアム・アリーナ改革」です。スタジアムとは、アリーナとは何か。一つの競技に頼るのではなくて、多目的に市民が集い、プロスポーツでもきちんと活用できる箱にしていくという考えが、全国的な傾向です。そして、鹿島アントラーズFC(以下、鹿島アントラーズ)もそれに倣いました。カシマサッカースタジアムは県立ですが、2006年から指定管理者として、県の財産を管理しています。今まで、すごくお金が掛かっていたものを鹿島アントラーズが関わって、県の支出を減らすことが指定管理者の役目です。だから、その分自由度を持たせてもらい運営できています。


カシマサッカースタジアム全景。屋根付きの二層式スタンドで、収容人数は約4万人。鹿嶋市の下津・平井海岸からも近い(提供:鹿島アントラーズ)

スタジアムのポテンシャルを高めて施設の価値を上げていく

人気のフードコート。ガス管を通して本格的な料理を提供できるようにした。地元の名物が味わえるとあって、観客は入場すると真っ先にお目当ての売店へと向かう。写真下は毎年夏にイベントとして開催しているビアガーデンのようす。大勢の人でにぎわっている(提供:鹿島アントラーズ)

鹿島アントラーズはプロスポーツのフットボールクラブとして鹿嶋市で30年ほど、スタジアムの管理は15年ほどやってきています。指定管理者としての視点に立つと、施設のポテンシャルが高くないと満足度が上がってこないというのが見えてきました。スタジアムの約半分は、東京からのお客様です。非常に長い時間とお金を掛けて来場いただいている。そういう方々に、きちんとスタジアムの心地よさを提供しなくてはいけないということで、まず着手したのが“食”です。今まで電気しか使えなかったフードコートの売店にガスの配管を通し、煮たり焼いたりできるようにして、顧客サービスを向上させました。
次に問題だったのはトイレ。「公共施設のトイレってこんなもの」から脱却しないと、顧客満足度は上がってこないですよね。去年までの実績でいえば、鹿島アントラーズの観客はJリーグの中で一番女性比率が高い。女性サポーターの満足度を高めないとリピート率が下ってしまいますから、なんとかしなくてはいけない。当初からトイレ数は沢山ありましたが、和式がほとんどでした。国際大会では、和式トイレはスタジアムのスペックにカウントされません。そのことにより、約50年経過している日本のスタジアムの多くはスペックの評価が下がってしまいます。そこで2020年夏に向けてLIXILと我々で、和式トイレから洋式トイレに変える改修を順次行い、2019年、全てのトイレが洋式になりました。その中で、行政やお客様に対して、我々が目指しているスタジアムのあるべき姿をお見せしたくて、単なるトイレ改修ではなくクオリティーも改善したスタジアム専用トイレ「REST and」を完成させました。着手して半年位はいろいろな議論を重ねて、やっと去年(2019年8月)、足掛け5年で想いが形になった。もちろん「REST and」だけでなく、授乳室や託児施設など、もっとやらなければならないので、今まさにLIXILと協働している最中です。お客様の利便性を高めて観戦価値を上げることも目的の一つですが、「スタジアムとはこうあるべき」を表現したかったということが、一番ベースにありましたね。


写真左:LIXILと協働した女性トイレ「REST and」。トイレ待ちで並んでいる間も試合が見られるように、入口付近にモニターを設置した
写真右:小さな子ども連れに配慮してオムツ替えスペースも女性トイレに隣接して設けた。独立したスペースで男女問わず利用できる

将来に向けてカシマサッカースタジアムのマネタイズ化をどう進めていくか

今、県と市と次世代のスタジアムの在り方について話し合いをしているところです。カシマサッカースタジアムは2002年にワールドカップのために改築したので、そろそろ各所に手を加えていかなくてはならない時期にきています。元々1993年に竣工したスタジアムに2階席をのせていて、ベースの躯体はその当時のものです。ですから、見かけはそれ程でもありませんが、老朽化が進み、補修のコストもどんどん上がってきているのも事実です。わずか6万7千人しか住んでいない鹿嶋市で、2002年、2020年と国際大会を開催することは通常考えられない。つまり、今後そんなことが起きる可能性は低いということです。だとしたら、国際基準は必要ないので、鹿島アントラーズにとってベストなスペックであるべきです。適正キャパシティはどのくらいか、収益の構造はどうしたらいいかをきちんと考えると、収容3万人以下でなおかつ高収益が取れる、エグゼクティブが大勢入れるホスピタリティブースを多く設けるべきなのです。
世界的にみると、プロスポーツではキャパシティの2割のお客様が8割のお客様を支えるという構造になっています。日本は公共施設の延長上であるために、お金を高く取れる席数が少ないですね。民間がつくった東京ドームはエグゼクティブルームで埋まっていますが、カシマサッカースタジアムにはメインスタンドにエグゼクティブルームが4部屋しかない。これをスタジアム1周に設ければ50部屋位になって、高い料金で販売できます。そのことで、一般サポーターの料金をもっと下げられることに繋がってきます。今年、発表したヘリコプター観戦プランは、東京から25分で飛んできて、エグゼクティブルームで観戦して帰って一人約300万円という内容です。これに応えてくれるお客様がいることは分かっている。スポーツに対する投資は10年前よりポジティブになっていて、マネタイズ(収益化)できる見込みが国内のモデルでも出てきています。カシマサッカースタジアムも鹿島アントラーズが稼げるようにして、地域貢献していくことができると思うので、そういったイメージを提案しています。


鹿島アントラーズのサポーターが熱い声援を送るメインスタンド(提供:鹿島アントラーズ)

スタジアムにおけるノンフットボールビジネスの大きな可能性


スタジアムでのキャンプイベント。ピッチ(芝生)上に張られたテントで宿泊体験できるほか、パブリックビューイング、サッカー教室、星空観察など、さまざまな体験型プログラムが楽しめる。ノンフットボールビジネスにより、サッカー試合以外でもスタジアムの集客を図る(提供:鹿島アントラーズ)

カシマサッカースタジアムでのホーム試合数は多くて年間30試合です。サッカー専用競技場として、芝生などの管理コストが年間30億円程度掛かっています。それをペイできるかといったら全くできない。ならば多機能複合施設として運営していこうとなった。フットボールビジネスでサッカー好きな人たちに楽しんでもらう一方で、ノンフットボールビジネスでサッカーをやっていない時にどう集客をして施設を動かすか。その二つのことにチャレンジしてきました。

鹿島アントラーズのチームドクターによる医療施設・アントラーズスポーツクリニック
フィットネスクラブ・カシマウェルネスプラザ内には温泉湯治施設・Antlers TŌJIが2019年オープンした

新しいビジネスとして、バックスタンド側に医療施設、ミュージアム、スポーツジム、温浴施設などを展開していますが、半径20km圏内からお客様がいらしてくださっています。これは、鹿島アントラーズのブランド力とスタジアム併設という特殊性ですね。フィットネス業界の通常より広いマーケットでビジネスが成り立つことが分かったので、それをどんどん進化させています。他にスタジアムの芝生でテントを張ったキャンプなど、さまざまなイベントもしている。目指しているのは、スタジアムを鹿島アントラーズの試合だけではなくて、さまざまな用途でホームタウンの方々にもっと利用してもらうことです。
一方で、スポンサー企業にはスタジアムをラボ(研究所)として社会実験してもらう。スタジアムは4万人がフルに入った試合を二日間続けられるインフラが整っています。発電機、水、浄化槽、何でも国際基準ですから。それらを活かすとラボとして使えるものが沢山あります。LIXILをはじめ、パートナー企業に対してフットボールの場合、ノンフットボールの場合、ラボとしてどうやって活用していただけるか提案する。そういったことも次世代型のスタジアムのあり方の一つだと思います。その点で今回、LIXILと協働した女性トイレ「REST and」の改修が成功しましたが、まだまだやりたいことがあります。例えば、スタジアムの駐車場に宿泊体験できるモデルハウスを建てないかと提案しています。一泊して試合を観戦してもらう、あるいは観戦後にホームパーティしながらビデオを観て一泊してもらう。これを住空間の中で提供できたら面白い試みだと思っています。

テクノロジーで魅力ある環境をつくり交流人口を増やす

全国の地方自治体に言えることですが、少子高齢化とともに税収が下がり自治体が疲弊してくると、移住・定住、子育て環境の改善に力を入れます。しかし、そういった施策は、他にもっといい地域があったら移ってしまう。むしろ交流人口を増やすべきではないでしょうか。交流人口を増やして、経済的に疲弊しているものを支えていく方が、地域づくりとしては正しいと思っています。その一翼を担うのがテクノロジーです。
Jリーグが発足して30年近くなりますが、最初、我々がこのスタジアムに求めたことは非日常でした。日常生活とかけ離れた空間に来て、サッカーを観戦する。実際に当初、皆さん、とても驚いてくださいました。その後、お客様が定着してきて何をしたかといえば、楽しめる空間に変えていった。それは、食であり、インフラ(環境)の整備です。そして今、高齢化社会に向かって各地域の課題解決をどうするか、10年後のライフスタイルをスタジアムでどう体験させるか、という考え方に変わってきています。
すでに、去年からキャッシュレス化を進め、2017年には4万人以上が利用してもストレスがない高密度Wi-Fiの導入などを実施している。同時に、お客様のデータ収集にも取り組んでいます。今年4年目になりますが、国立研究開発法人 産業技術総合研究所と包括協定を結び、いろいろな研究をしている中で、人流解析を毎年継続して行っています。試合毎に、人がどういう流れをこのスタジアムで起こしているのか、どういう位置関係から来場するのか、自家用車・バス・電車と交通手段の違いで帰宅はどうなるのかなど、お客様の行動からデータを収集しています。例えば、鹿児島からLCCで成田まで飛んできて、試合が終わったら成田に戻って日帰りするお客様がいることが分かったので、成田空港・カシマサッカースタジアム発着のバスを我々とバス会社で運行することにしました。収益が出て軌道に乗れば、事業をバス会社に引き渡します。今回「REST and」ができたことで、人の流れがどう変わったかもデータを蓄積してすぐに追いかけられると思います。こうした人流解析の結果から新しい発想が沸いてきて、すごく面白いですね。
これからチケットレスや食のデリバリーなどもデジタルで可能になります。近い将来は、チケットなしの顔認証で決済が行われる仕組みになっていく。通信手段である5Gなど、最新のテクノロジーを導入し、地域とともにスタジアムが将来を見据えた社会実験の場になりますよ。

「アントラーズモデル」で全国の地方を元気にする

私自身、元は住友金属工業蹴球団でサッカーやっていて経営に移りました。今年で60歳になりますが、鹿島アントラーズになって移動した時は30歳前ですから、約30年間プロフットボールのマーケティング一筋でやってきています。
Jリーグのマーケティング委員長を長年務めて、Jリーグ全体と一クラブとして、両方の視点からいうと、プロスポーツと地域との関係を良くしていくことが目標です。Jリーグ、Bリーグ、野球の独立リーグなど、全国のプロスポーツの数は100を超え、必ずしも都会のチームばかりではなく地方にもあります。地域にとってスポーツが果たす役割は何か。スポーツを使って地域や住民が元気になるようなことが、本当にできると信じていて、鹿島アントラーズが、そのバイブルのようなモデルケースになるべきだと思っています。今でも、野球、バスケットやバレーボールも含めいろんな地方のスポーツ関係者が視察に来て、鹿島アントラーズと地域の関係を学んでいってくださる。我々はここまで来るのに30年かかったけれど、鹿島アントラーズがこれまで積み上げてきたノウハウを全部教えるので、それを10年でやってほしいと伝えています。そうすればまだまだ間に合う。地域経済が深刻になる前に、いろんな手が打てるのではないかということはずっと言い続けています。だから、地域創生や地域の教育現場に「アントラーズモデル」を確立させたい。そのことを強く思っています。


一つの競技場としてでなく、多様な事業に活用できるスタジアムは、地域創生の大きな可能性を秘めている

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公開日:2020年04月30日

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