関東大震災から100年を経て

地震から家族を守る木造住宅性能について考える

佐藤 実(株式会社M's構造設計)

M's 構造設計事務所でインタビューに応じる佐藤氏

2023年9月1日で関東大震災から100年が経とうとしています。地震大国に暮らす私たちは、常日頃、災害に対して備える必要があり、地震に強い木造住宅の構造が大事な役割を果たします。地震から家族を守るためにも構造による耐震性能の向上は、真剣に取り組まなければならない課題です。
前回に続き、地震の力に耐え、被害を最小限に抑えることを可能とする木造住宅の耐震性能強化の重要性についてM‘s構造設計の佐藤 実氏に、LIXILの保坂修一と立原 裕がお話を伺いました。

地震から構造の重要さを痛感

保坂:

今年、関東大震災から100年を迎えます。佐藤先生がこの業界に入るきっかけとして、実際に阪神淡路大震災の被害状況を見られたとお伺いしました。地震がどういうインパクトを我々にもたらすのかお話くださいますか。

1995年の阪神淡路大震災で倒壊した灘区の木造住宅(写真提供:神戸市)

佐藤氏:

地震の被害を意識したのは、1978年の宮城県沖地震です。僕は新潟出身で小学生の頃でしたが、テレビでブロック塀が倒壊して人が亡くなったと報道されていて、「地震は怖い」というイメージを持つようになりました。
社会人になり新潟にある実家の工務店に入りました。構造に関しては壁量計算レベルでしたが、木造住宅を子どもの頃から見ていたので「かなり丈夫だろう」くらいの認識でした。そうしたら1995年に阪神淡路大震災が起きた。宮城県沖地震以来の大きな地震だったこともあり、被害状況を自分の目で確かめようと神戸に向かいました。現地の状況は想像以上に酷く、木造住宅も相当倒れていた。「ここに人がいたら生きていられない」という位の潰れ方で、木造といえども人力では何一つ動かせず、これだけ重いものが崩れくる家はとても危険なものだと感じました。それと同時に、古い家だけでなく4号特例によって壁量計算をしていない家もあり、それらが相まってあのような倒壊被害が出たのだと思いました。

立原:

当時、耐震性能の確認はやることにはなっていたのに、されていない住宅が多かったのでしょうか?

佐藤氏:

今の壁量計算の基準は1981年にできましたが、1984年に4号特例が始まった時点で壁量計算の提出義務がなくなったため、やらなくていいと勘違いしてしまった業者の方もいらっしゃったのでしょう。阪神淡路大震災はそこから10年以上経っていたので壁量計算していない住宅はたくさんあったと思います。このままだと「地震被害はずっと繰り返されて倒壊する木造住宅はなくならない」と直感しました。

株式会社M's構造設計 代表取締役
佐藤 実氏

立原:

地震では旧耐震基準の古い住宅が倒壊していると言われていますが、実はそうではないと。

佐藤氏:

そうですね、旧耐震基準の古い建物はより多く倒れていますが、2016年の熊本地震の時には新耐震基準で建てられた1981年から2000年の建物も2割は無被害なものの、8割が被害を受けています。
阪神淡路大震災で「構造を真剣にやらないと木造住宅はまずい」となって考えたのがM's構造設計の理念である「日本中の木造住宅を地震で倒壊させない!」ということ。やるべきことは構造計算で、実家の工務店を辞め構造計算がメインの構造事務所を設立しました。社員も増えていきましたが、それだけでは全国的に浸透していかないと感じて、普及活動の必要性から始めたのが「構造塾」です。

重心の位置を下げて転倒モーメントを最小に

保坂:

今年が関東大震災から100年ということで、以降、伊勢湾台風、宮城県沖地震といった災害があって、建築の基準が変わってきた。前回のコラムでも関東大震災当時の木造住宅について重い土葺き屋根で起きた被害などのお話を佐藤先生に伺いましたが、改めてお尋ねしたいと思います。

佐藤氏:

そのためには地震力について紐解いていかないといけません。分かりやすく言えば、体重50kgと100kgの人がいたら受ける地震力は同じではなくて、体重100kgの人は50kgの人よりも2倍の力で体を押されている。体重に比例して地震力は増えますが、太った人の方が先に倒れるかといえばそうではなくて、強い足腰があれば倒れない。これが基本的な考え方です。
今の構造計算もそうだし、令第46条の壁量計算も軽い屋根と重い屋根の建物は壁の量が違い、体重の重い人は強い足腰、いわゆる耐力壁をたくさん設けるような設計基準になっています。だから、瓦屋根と金属屋根、どちらが地震に強いかというと耐震性能は一緒です。ところが、昔の家は体重が100kgなのに足腰の弱った人のような状態だったので、鉛直荷重に対しては耐えられますが、横に揺れる力では倒れざるを得なかった。
もうひとつ、地震の力が働く時、重心を押す力に対する高さに対して、曲げモーメントが働いて倒れます。これが“転倒モーメント”です。タンスや本棚など、重いものを下に置くと倒れにくくなりますね。それは同じ重さでも重心の位置を下げると、押す力は一緒なのに、力×距離の転倒モーメントが小さくなるからです。下の方に重いものがあると安定し、重いものが上にあるほど、力は一緒でも力×距離の回転する力が増えるから倒れやすくなります。

地震に強い伝統工法は剛構造

佐藤氏:

昔の住宅は元々耐震性能が低いうえに、柱、梁だけで筋交いがないということは、押した時に変形しやすい。変形は木造住宅にとってマイナスでしかなくて、よく「柔構造で地震の力を受け流す」と言いますが、そんなことはありません。木造住宅の柔構造というのは、柱と梁の接合部が90度よりも鋭角・鈍角になってどんなに変形しても絶対に抜けない構造にしないといけない。実際、木造住宅を揺らしたら、接合部が壊れて外れてしまい、傾いたら固定していない柱が抜けてしまうため、耐震性能が高いはずがありません。そもそも木造住宅の柔構造というものは存在しないので、勘違いしている人は多いですね。
だから伝統工法は柔構造ではなく、当時の木組みによる剛構造です。木を細かく組んでいき、硬くつくっている。よく柱に穴を掘って横架材を入れて楔(くさび)を打って固めますね。もし、柔構造で柔らかく受け流そうとすると、そうせずに動かせるようにしないといけない。楔を留めるということは動かさないで硬くしようとしている。でも、多少は変形します。その時は木の接地面が大きいので木と木が変形した時ぶつかり合って、そこにめり込んで地震力を吸収する制振装置としての効果があります。耐震であり、変形したら制震効果が働くというのが伝統工法です。
また、イメージで伝統工法の石場建てを免振機能があるように言う方もいますが、実際は、摩擦係数が大きく免振装置として十分な機能があるとは言えません。

保坂:

基本的に伝統工法は柔構造ではなく剛構造ということですね。

木造住宅の耐震性能についてインタビューしているようす。右から佐藤氏、保坂、立原

木造住宅は硬くするほど強くなる

佐藤氏:

戦後、木造住宅が全国各地で広く普及していった時に伝統工法ほどの贅沢なつくりはできず、現在の在来工法に近いものができてきて、梁や柱を細くする方向に変わっていきました。そうなると“剛”となる木組みやめり込みも減ってくるので、その分、筋交いを入れて補強する必要があります。補強を十分に行わず、屋根は瓦で土葺きのトップヘビーのままだと、体重は変わらないのに、骨や筋肉を減らすような状態になり、耐震性能が下がってしまいます。

保坂:

柱、梁が徐々に細くなっていったということですが、今のスタンダードは三寸五分柱や四寸柱です。それは流通から来ているのか、構造的な合理性なのか、いつ頃からどう決まっていったのでしょうか。

佐藤氏:

詳細は分かりませんが、戦後と言われています。その頃から三寸五分柱のような柱などが出始めて在来工法らしきものができてきた。伝統工法の延長上のようなことを言われていますが、実は全くつながっていなくて、それらしく真似をしていますが別工法ですね。

株式会社LIXIL
LIXIL housing technology
ZEH推進事業部 ZEH推進営業部
保坂修一

保坂:

その別工法が地震を経た中で、強化されてきたということでしょうか。

佐藤氏:

少しずつ強化はされています、今でも在来工法と伝統工法をそれらしく紐づけていることも多い。建物の耐震性能を上げないといけないので、接合部を壊れないようすると硬くするしかありません。熊本地震でも築年数が浅い建物で倒壊しているのは筋交いの建物で耐力面材の建物は壊れていない。硬くすればするほど強くなるのですが、「硬いものは、ぽきっと折れるので地震に弱い」「足元を留めると地震力が伝わるから建物は壊れる」というイメージで、「地震を受け流す柔構造の伝統工法を採用すべき」と構造的に勘違いされている方もいます。そこで、伝統工法はお金も掛るため、在来工法の華奢な接合部に対して変形させてぐらぐら揺らして地震力を受け流す方法を考える方がいますが、それは本当に危険な行為で、この場合は柔らかくしては駄目なのです。

品確法と耐震等級の意義

保坂:

阪神淡路大震災の後、2000年に壁のバランスや柱脚の強化がされると同時に住宅品質確保促進法(以下、品確法)の性能表示制度が整いました。改めてみると住宅取得者にとって耐震性能を表示する共通ルールがなく、柳のように地震力を受け流すということを信じて買ってしまう方もいた。一方で住宅供給側も知らずに、そういった住宅をつくってしまっている方もいた。耐震性能のある家ということに対して、正確な理解を普及するという点で、品確法や耐震等級1、2、3ができたというのは、とても大事なポイントではないかと思います。

佐藤氏:

それはとても重要なことで、品確法ができたことは大きいですね。ですが、残念ながら品確法、性能表示制度は義務化でないので、大手のハウスメーカはこれを上手く活用して性能の明確化をしていますが、一般工務店まで普及していません。

保坂:

そういう制度ができた中で、熊本地震があって、今の基準で建てた家も結構、壊れてしまった。

株式会社LIXIL
LIXIL housing technology
ZEH推進事業部 ZEH推進営業部
立原 裕

佐藤氏:

熊本地震の結果は簡単にとらえない方がいいと考えています。2000年以降の建築基準法の改正は有効だとみる人は多いですが、益城町では7棟倒壊、12棟全壊している。6%の割合ですから100棟建てたうち6棟が倒壊・全壊しているというのは大きいことです。基準法が改正されたことはよかったのですが、4号特例が残ったことで、四分割法や壁量計算に対応しようとした業者がほぼいなかったと推測されます。
それならなぜ、耐震性能が上がったかといえば、プレカット業者の影響が大きいと思っています。2000年以降、プレカット業者が自分たちで勉強して、壁量計算やN値計算をやり始め、柱頭、柱脚に金物をつけるようになり、面材耐力壁を提案し、根太レス工法(剛床工法)を普及させた。建築業者がプレカット業者から提案されたことで、結果、建物が強くなっていると考えています。

立原:

プレカット業者の動きが耐震性能を良くする流れをつくったということなんですね。

佐藤氏:

法改正はある意味で有効だと言えますが、面材耐力壁をつけるつけないは法律に関係なく、筋交いでも耐力壁でも問題ないので、このような流れをつくったのはプレカット業者だったいうことです。結果 耐震性能がよくなればいいと思います。

耐震性能を高めるLIXILの取り組み

保坂:

LIXILのSSバリューは、家づくりをされる方に耐震等級3をベースに耐震補償付きサービスを提供しています。プランによって安全検証が必要な部位に許容応力度計算も使い、佐藤先生のご指導、アドバスを受けながら耐震等級3をベースに地震に負けない家づくりをしています。今後、法制度などは時代とともに変わっていくのでしょうが、変化に対応しながらも、「家族と財産を地震から守る」というコンセプトは変えずに提供しつづけていきたいと考えています。

立原:

先ほど、家の重心を下げるお話がありましたが、通常、瓦屋根で約50kg/㎡に対して、LIXILの屋根材「T・ルーフ」は非常に軽くて7kg/㎡ほどです。基本的には屋根が軽いからといって耐震性能が上がる訳ではありませんが、間違いなく重心が下がりますから軽いことに越したことはない。有効な屋根材だと思います。

佐藤氏:

軽くなって地震力が減るだけではなく、押される位置が下がるので倒れにくくなりますね。

立原:

その点については、今回のお話は大変勉強になりました。屋根を軽くすることは、間違いなく耐震力アップになると感じました。

佐藤氏:

屋根を軽くすれば、同じ建物であれば耐震性能は上がります。

立原:

転倒モーメントとしても間違いなく有利なことですね。私が「T・ルーフ」の担当になって6年、ちょうど熊本地震の時でした。あの頃に「屋根は軽い方がいい」という風潮になって軽い屋根が流行り、相当、増えました。
ここ最近は、数年おきに大きな地震や台風が起こっている。LIXILの「T・ルーフ」は軽量かつ強風にも強い屋根材なので、きちんとお勧めしていきたいと思っています。

佐藤氏:

言い方がいろいろあって、例えば耐震性能については、単純に瓦屋根よりも耐震性能がアップするかというとそれは間違いになる。既存住宅の屋根を瓦から「T・ルーフ」に変えれば足腰が強いまま地震力が減る。体重が軽くなる分、耐震性能は上がります。
建物の耐震性能に対しての設計は軽い屋根でも瓦屋根でも、屋根の重さに応じた耐震設計をすれば、当然、地震には強くなります。だけれども、「T・ルーフ」の有利な点は2つあって、ひとつは体重が軽くなる分、同じ耐震等級3にしても耐力壁が少なくできコストを下げられる。また重心の位置が、瓦屋根の場合は上に行きがちにですが、屋根が軽いと下がるので、安定すると言えます。

立原:

もちろん、瓦は昔からある日本の伝統的な屋根で、非常に耐久性も高く、すごくいいものだと思います。実際、瓦と「T・ルーフ」の両方を扱っていただいている業者さんも多くいらっしゃいます。

佐藤氏:

限定する必要はありませんよね。屋根工事をする業者であれば、バリエーションとして取り入れるといいと思います。

保坂:

正しくお伝えして、選択肢を増やしていくということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

取材・文/フォンテルノ 撮影/シヲバラタク

【構造塾サイト】
https://www.ms-structure.co.jp/structure-course/

【SSバリュー サイト】
https://mpage.biz-lixil.com/LH220617_seminarTYM.html

【T・ルーフ サイト】
https://www.lixil.co.jp/lineup/solar_roof_outerwall/t-roof/

【T・ルーフ 動画サイト】
https://www.biz-lixil.com/tv/play.php?id=5217988778001

公開日:2023年08月28日