麻布台ヒルズ×LIXIL

麻布台ヒルズ 新しい街の空間をタイルで彩る

森ビル株式会社:増沢 唯 株式会社日本設計:加藤 弘治・宇喜多 昌秀・市原 慎太郎

──外壁のデザインやタイルの仕様は、どのように決められたのでしょうか。

従前「麻布郵便局(旧逓信省貯金局庁舎)」の日本郵政グループ飯倉ビル
従前「麻布郵便局(旧逓信省貯金局庁舎)」の日本郵政グループ飯倉ビル
日本郵政グループ飯倉ビルのタイル
ブリティッシュ・スクール・イン 東京の外壁に麻布郵便局(旧逓信省貯金局庁舎)の記憶として継承された日本郵政グループ飯倉ビルのタイル
実際に信楽の生産現場でタイルの仕上がりを確認した
実際に信楽の生産現場でタイルの仕上がりを確認した

増沢氏:森JPタワーの敷地には従前「麻布郵便局(旧逓信省貯金局庁舎)」の日本郵政グループ飯倉ビルが存在し、この記憶を継承するために外壁色や縦基調の要素を取り入れました。また、旧郵便局の外壁タイル1枚を記憶として残し張っています。さらに高層の森JPタワーや低層建物と同じく、建物のコーナー部をアール形状とすることでデザインの一体感を創出しています。
外壁のタイルは、LIXILにサンプル作成を何度も試行錯誤いただき候補を絞りました。最後はヘザウィック・スタジオ、日本設計と共に滋賀県甲賀市信楽町の工場「近江化学陶器株式会社」へ赴き、現地で確認した上で決定しました。旧麻布郵便局の外壁の色味に似た黄と橙色の2色、幅サイズは3種、自然な風合いに感じられるようタイル割付をデザイナーがパターン化し、2色の配置や割合バランスにもこだわりスタディされています。遠目には解り難いですが、出隅から入隅にかけて濃い橙色を多めにグラデーション状に配置することで奥行きが出て、より立体的に感じられる視覚効果を生んでいます。

森JPタワーもインターナショナルスクールの建物もコーナー部をアール形状とすることでデザインの一体感を創出している
森JPタワーもインターナショナルスクールの建物もコーナー部をアール形状とすることでデザインの一体感を創出している

ヘザウィック・スタジオは、日本の美意識や伝統技術、特に職人の手仕事に敬意を払うスタジオです。トーマス氏は「日本には、不完全なものを美しいとする“侘び寂び”の心があります。その感性が、芸術作品のなかだけでなく、都市においても表現されることで、人間味のある、魂のこもった建物を創ることができると私たちは思っています」さらに「子どもの頃、職人がつくった小さなものに宿る魂に心を躍らせていました」と話されています。ワークショップやミーティングでも、直線や直角は「soulless(魂がない)」と敬遠し、柔らかな曲線デザインや手触りに配慮されていて、テクスチャーや形状へこだわる姿勢を強く感じました。
一方、法規制や機能性能、技法、予算などさまざまな制約があり、デザイナーの要望が叶わなかった点もありましたが、トーマス氏は「相互に話し合うことが大切」と我々の意見を尊重し、複数の解決案を考えていただき、話し合いを重ね合理的な解決ができました。
完成後、インターナショナルスクールの外装についてトーマス氏は「Great!」と満足されていました。他にも麻布台ヒルズをご案内した皆さんからは「とても良いよね」、「インターナショナルスクールのファサードが好き」といったポジティブなコメントを多く頂いています。

出隅から入隅にかけて濃い橙色のタイルをグラデーション状に多めに配置
出隅から入隅にかけて濃い橙色のタイルをグラデーション状に多めに配置することで奥行きが出て、より立体的に感じられる
建物は酸化焼成の総タイル張り
建物は酸化焼成の総タイル張り
建物は酸化焼成の総タイル張り。オレンジ味、白味などが発生する部位や程度は、特殊原料を釉薬中に添加し、部分的に還元反応を起こさせた。一枚のタイルの中に自然な色合のバラツキを発生させ、焼き物らしい自然な佇まいを醸し出している

ガラスモザイクで表現した空間づくり<森JPタワー・オフィスエントランス>

──ガラスモザイクの壁面はヤブ・プッシェルバーグ によるデザインですが、なぜ彼らがオフィスエントランスをデザインすることになったのでしょうか。

森JPタワー オフィスエントランスに広がる美しいガラスモザイクの壁面を背景に立つ増沢氏
森JPタワー オフィスエントランスに広がるさざ波模様が描かれたガラスモザイクの壁面を背景に立つ増沢氏

増沢氏:繰り返しになりますが、麻布台ヒルズのコンセプトは“Modern Urban Village〜緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街”です。オフィスエントランス前に約6,000m2もの緑豊かで広大なスペースをもつロケーションは数少ないと思います。麻布台ヒルズの象徴でもある「中央広場」と調和しつつ、シンプルな中に強さと品格を兼ね備えた、日本一の高さとなるオフィスビルのエントランスに相応しいデザインを目指しました。ヤブ・プッシェルバーグはアマンレジデンス東京のインテリアも手掛けており、彼らの提案は日本建築の内と外を曖昧につなぐような「人と自然の境界をぼかす空間」でした。コンセプトに沿った空間が創出できると考え依頼しました。

──砂浜に打ち寄せる波を表現されているそうですが、ガラスモザイクを素材として用いたことで点描画のような趣があります。エントランス壁面を一つの作品として完成させるために、こだわった点、また挑戦されたことなどを教えてください。

増沢氏:自然の美しさを表現したアート作品のような壁を目指しました。採用したガラスモザイクは、石や普通のガラスと違い“雲や水のような光の反射が美しい”素材感があります。汐風により砂浜に打ち寄せる“さざ波”の自然な光景を大きな壁面にぼんやりと表現することで、静かだけれども奥行や深みのある綺麗な壁が表現できると考えました。
採用したガラスモザイクは、ガラスを微粉砕した原料をプレス成形した後に焼成することで、微妙なうねりのある透明なガラスピースつくり、さらにガラス越しにきらきらと微細に光るよう裏面から特注色の釉薬を焼成しています。この2度の焼成により、透明感があり美しく反射するガラスモザイクとなりました。
7色15.4mm角、全 123万粒(約330m2)のガラスモザイクをデザイナーの原画をベースにした割付図に基づき 1 粒ずつ手作業で配置し模様にしています。制作側は、膨大な数量のピースを割付図通りに配列し、327mm角シートを作成、ナンバー管理したシートを間違いのないよう何度もチェックした上で施工いただいたと伺っています。その結果、自然の光景を表現する壁は、人と自然の境界をぼかす一つのアイテムとなりました。

ヤブ・プッシェルバーグがデザインしたオフィスエントランス
ヤブ・プッシェルバーグがデザインしたオフィスエントランス
ヤブ・プッシェルバーグがデザインしたオフィスエントランス。落ち着いた色合いのガラスモザイクが光に反射し美しい空間を演出している
ガラスモザイク
ガラスモザイク
ガラスモザイク
ガラスモザイクの“さざ波”は、Warmer toneのグラデーション全7色で表現。ガラスを微粉砕した原料をプレス成形、焼成することで微妙なうねりのあるガラスピースを再現した。透明感あるガラスモザイクを実現させるため、透明ガラスピースの裏面から特注色の釉薬、さらに躯体の接着剤がガラスピース表面に透けないように隠蔽性のある白色釉薬を施して焼成している

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公開日:2024年05月15日