日本生命浜松町クレアタワー×LIXIL

焼き物が可能にした時を繋ぐ和の空間デザイン

こだわりのものづくりから生まれた共用部空間


“江戸の和”を意識した間接照明。西洋スタイルにならないよう照明器具を見せないことを意識して、光源が分からない照明デザインにしている。手仕事感、ランダム感を陰影でどうやって出すかというところで、最終的な光量や色などを決めた。テラコッタルーバーはアッパー照明で壁面から天井を繋ぐように照らし、表情のある美しい空間を演出した

──今回、オフィス共用部に取り入れたクラフト感は最近のトレンドなのでしょうか。

【三沢氏】エントランスや共用部をデザインするうえで、事業主の企業理念を考えつつ、建物が立つ地域性のようなものをどう表現するかが重要だと考えています。本建物はテナントビルですが、共存共栄、地域を大切にする、寄与するといった企業理念も踏まえながら、企業と地域が持つポテンシャルを重ね、より良い環境となる共用空間にしたいと思っていました。日本の外と内を遮らない、自然と外と繋がっていく空間構成というものが、パブリック空間、共用部としての見せ方であり、トレンドというか、流れなのかなと思っています。その中で、内装素材だけに限定せず、外部でも使用できる石やルーバーなどの素材を上手く取り入れる試みもトレンドの一つだと思います。ここだけが異なった空間ということではなく、建物全体、地域の持つ雰囲気みたいなものが自然と繋がっていけるような空間のあり方が共用部として本来あるべき姿だと思っています。今回、エントランスの素材としては外部でも使用できる固いものを多用し、力強さを表現していますが、一方で、事業主より「温かみがほしい」というご要望もいただき、少し暖色系が入った色合いの素材を選定しました。また、照明の色温度も暖色系にすることによりさらに柔らかな印象を空間に与えています。そういったさまざまな配慮もあって、緊張感のあるエントランス空間の中に、何か居心地の良さみたいなものも実現できていると思っています。

【小松氏】働き方が改革されていて、家でも働ける時代にあえて「オフィスに来る」という体験をどうさせるかがキーワードだと思いながらデザインしています。日本生命浜松町クレアタワーついては、戻る場所として「帰ってきた感」を空間として演出できている。

【橋口氏】特にオフィスの滞在時間は長いので、そこで働く人が見栄を張れる、「こんないいところにいるんだよ」「ここにいると居心地が良いね」というようなことを考えてあげるべきですね。自分の家で安っぽいものを使いたくないように、オフィスでも本物に触れる。そういう視点で材料も沢山のいいものを使うことが、居心地の良い空間に繋がると考えています。商業が一過性の楽しさみたいな視認性の空間だとしたら、ジワッとくるありがたみという感じがオフィスではないかという気がしています。そうところに愛着を持つという感覚を素材感や空間で表現していくこともあるのかな。

【佐藤氏】先程、クラフトマンシップの表現を求められた話をしましたが、やはりエントランスですので、オフィスもしくはテナントの顔として、ある程度、緊張感をつくることと、その中にも照明や素材感で落ち着ける部分、その両方の性格を持たせるのがオフィスの共用部だろうと。緊張感というのは品格に繋がる要素であり、落ち着けるという点ではクラフト感がその要素の一つと感じています。今回、完成した建物を見て、そういう空間が出来たという印象です。

【橋口氏】テラコッタルーバーとタイルについては、通常と逆の製作を行いましたね。大体は、綺麗に均一につくるんですが、わざとランダムで不調和というか、自然な感じというのを操作してつくる。それがいかに難しいか。綺麗に揃えて、ちょっと違うものを撥ねるというのは比較的簡単にできますが、その逆のことやっているというのが、かなりいばらの道でした。

【三沢氏】製品製作上のイレギュラーを逆に狙って、それを使うことで日本の伝統が持っている手仕事感、クラフト感を表現しようというのをトライしていった空間デザインでした。

【橋口氏】焼き物については、我々は素人ですから、どういう状態の窯で焼いたらこうなるというのは感覚の世界だと思います。設計側が「何とかこうしたい」という要望に対し、「こうしたらできるのではないか」と製作側より提案を返してもらうトライ&エラーを繰り返しました。本当に製作側と設計側の思いを共有できました。

【武内氏】製作側も含めて一緒にやった本当に貴重な瞬間ですよね。製作側のものをつくる力が今回の実物を生み出したんだろうと思います。みんなで知恵を出し合いながらつくり上げていったものですね。

写真左はLIXILのテラコッタルーバーとタイルで構成されたエントランス。奥の出入口のガラス越しに外壁が見える。写真右上はエントランス入口前、写真右下は地下鉄接続口前。外と内を繋ぐ場所にあり、エントランスと同じテクスチュアを用いて“繋ぐデザイン”とした。外壁のGRCタイルの素地部分はテラコッタのラフ面をゴム型で押して転写している。その型をつくるために、LIXILが専用のテラコッタタイルを焼いて提供
地下1階車寄せにもエントランスと同じLIXILのタイルが使われている。天井も縞を表現し、横強調の統一したデザインになっている

──LIXILの製造現場から

【タイル】

製作した湿式押出成形の特注タイルは、長尺約300mm・短辺約70mmの特殊ブリック形状で、厚さが17mmと25mmの2種類の形状MIXでした。形(土・成形)では、表面のスマートな仕上がりを確保するための複雑な裏足、成形型の断面内での粗密さと長尺による反りのバランス確保に大変苦労しました。品質を規格内に収めたとしても少しの歪が発生します。官能的な外観を追究するため「方向を統一した施工」を、施工業者の方々にもご協力を頂きました。表情(釉・施釉:炎・焼成)では、黒燻し釉の二種の表情を馴染ませる仕上げが大きな課題でした。色のばらつきと二種が交差した時のバランス、さらに、厚さ違いの奥行に対しても仕上げ面に釉を施し、表面との違和感がないように製作工程を重ねました。初期製作品の立会検査で、施主・設計・建設会社・工事店の皆様から建築への熱い想いも伝えられ、工場総力を挙げての製作活動となりました。

写真左:コーナーを綺麗に収めるためにつくった出隅専用のL字タイル。写真右:LIXILの工場では実物のタイルを使って乾式工法の施工試作も行なった(写真提供:LIXIL)

株式会社LIXILタイル事業部 タイル製造部
近江化学陶器株式会社 一同

【テラコッタルーバー】

テラコッタルーバーの意匠、質感は「梨の表層のような質感の白色梨地で、一部のみ温かみのある黄味に窯変させる」、面状は「フラット面・ラフ面・クラッチ面の3種類」で、細部にわたり狙いが明確でした。要望を再現する時に迷いなく調合試験、焼成試験を繰り返してテラコッタルーバーの製造設計に展開・生産できました。また、初回生産品の製品検査の際、色合い、質感を確認する中で、窯変部分の光沢や範囲の限度を共有させていただき、面状+窯変の製作割合など明細まで提示くださいました。間接照明によるライトアップの陰影感、色彩のバランスを考慮して、テラコッタルーバー1本毎の番地図を作成し施工するなど、デザイン空間を構築させるための手間を惜しまない姿勢は、モノづくりをする者として大変勉強になりました。

製品検査の様子(写真提供:LIXIL)

株式会社LIXIL 常滑東工場 一同
タイル事業部 タイル製造部 常滑東工場 技術課

■日本生命浜松町クレアタワー データ

所在地 東京都港区浜松町二丁目3番1
施工事業主 日本生命保険相互会社、株式会社大林組
設計 株式会社日建設計(デザインアーキテクト・基本設計・技術コンサル)、株式会社大林組一級建築士事務所(実施設計)
インテリアデザイン 株式会社日建設計・株式会社日建スペースデザイン
施工 大林・大末・太啓・岩田地崎 建設共同企業体
階数 地上29階、塔屋1階、地下3階
高さ 最高部155.04m
敷地面積 7,646.56m2(事業区域面積)、7,373.12m2(敷地面積)
延床面積 99,251.27m2
構造 鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造
用途 事務所、飲食店舗、物販店舗、集会場、サービス業を営む店舗、診療所、自動車車庫、自転車駐車場
竣工 2018年8月
LIXIL使用商品 テラコッタルーバー/特注、タイル/特注

取材・文/フォンテルノ 撮影/エスエス企画

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公開日:2019年03月27日