完成させない空間づくり

リノベーションにおけるオフィスのトイレデザイン

元木大輔(DDAA)

『商店建築』2020年4月号 掲載

オフィスやパブリックスペースにおけるコミュニケーションの形が多様化する中で、その空間づくりもさまざまな在り方を見せている。商業空間を始め、建築からインテリア、プロダクトまで幅広いデザインを手掛けるDDAAの元木大輔氏に、多様化し変容していくワークスペースに向けた空間づくりのポイントと、そこに寄り添うトイレ空間の考え方を聞いた。

MISTLETOE OF TOKYO

元木氏が設計を手掛けたインキュベーションオフィス「MISTLETOE OF TOKYO」(撮影/長谷川健太)

元木大輔

元木大輔

DDAA / DDAA LAB代表。1981年埼玉県生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、スキーマ建築計画勤務。2010年、建築、都市、ランドスケープ、インテリア、プロダクト、ブランディング、コンセプトメイクあるいはそれらの多分野にまたがるプロジェクトを建築的な思考を軸に活動するデザインスタジオDaisuke Motogi Architecture(現DDAA)設立

元木氏が設計に携わった「MISTLETOE OFTOKYO」は、先進的な企業に対する出資や研究開発、スタートアップとの共同創業などを展開するMistletoe Japan合同会社が運営するインキュベーションオフィス。設計にあたり一般的なワークスペースとは異なる空間づくりが必要であったと元木氏は語る。

「この会社は、社会課題を解決しようと試みるスタートアップへの投資などを行っているため、同社のスタッフはずっとデスクに座って仕事をするよりも、さまざま場所へ出向き、多くの人とコミュニケーションすることが業務の軸になっています。同オフィスの周辺には他のコワーキングスペースが点在しているため、作業するだけのスペースであれば、このオフィスをつくる必要性はあまりなかった。したがって、通常のオフィスの形態が必要かどうかの検証も含めて空間を計画していきました」

一方で、この空間では執務やミーティングといったオフィスとしての機能以外に、セミナーやトークショー、パーティーなど、人が集う場所としての役割が求められたという。これらの与件に対して元木氏が提案したのは「完成しないオフィス」。会社の事業や取り組みの内容が多岐に渡り、変化していくことを見据え、さまざまな用途に対応しながら、成長していくような空間が目指された。

「同社とそこに関わる企業や人のコミュニティにおけるセレンディピティーが生まれる場所として、常にアップデートを続けて、変化し続けるβ版と言える空間にしたいと考えました。ユーザーが使いながら検証し、必要になった時に手を加えていく。それによって竣工というものを無くし、設計した私もそのアップデートに付き合っていくという試みです」

内装の仕上げは、空間の変化やさまざまな要素が入り交じる“ノイズ”を受け入れるシンプルなものとしながら、建具や造作の接合部にはボルトを始めとする金具によって、解体可能なディテールを取り込んでいる。また、一部の電気設備や配管はスケルトンでむき出しとなっているが、これらはラフなスタイルの表現ではなく、空間が次の形態に変化していく時に対応しやすいよう考慮したものだ。

「変化を受け入れることができ、動きのある空間は、働き方が多様化する現代において重要な要素になると思います。一方で、人は自然と楽をしたいと考えるため、その気持ちに合わせて家具の位置や置かれ方が変わり雑然としてしまう可能性がある。そこで、家具は適当に並べても美しく、スッキリと見えるデザインとしました」

例えば、円や半円、方形のテーブル天板は、透明な素材でストライプ状の木枠を挟んでいる。壁際に重ねて立て掛けた時に枠が重なり、幾何学的な模様に見えるようになっている。これらの造作のように、ユーザーや用途の変化を受け入れながらも、空間全体としてのデザインの統一感が保たれる仕組みが随所に表現されている。

既存のスケルトンの中に、乾式の仕上げによる設えで、可変する“完成しないオフィス空間”が立ち上がっている(撮影/長谷川健太)

また、ワークスペースが可変的である一方、トイレを始めとする設備が伴う場所では、カスタマイズできる余白と、デザインの要点を際立たせる空間の整理がポイントだと元木氏は話す。

「この施設の利用者には、持ち運びできる浄水設備など、インフラをハードから切り離すシステムを開発しているスタートアップもいます。トイレのような一般的にイメージが固定化されている空間であっても、将来的に可変的な場所になっていくかもしれない。ただトイレをつくって終わりではなく、音楽を取り入れたり、ちょっとした金具を変えたり、ユーザーが使いながらカスタマイズでき、快適性を高めていけると面白いですね。また一方で、カスタマイズを受け入れ、なおかつ空間の見え方を整理しやすくなるベースがあることも重要です。トイレに必ず付いているタンクやホースなどをシンプルにまとめることで、サインや造作といった要素を際立たせることができるでしょう。ラフな雰囲気のトイレをつくるにしても、背景となる空間において、残すべき要素を整理し、不要な“ノイズ”を無くすことが、より使いやすく自由な空間づくりを可能にしてくれると思います」

タンクを始めとする設備をスマートにまとめたトイレが、使い手の創造性を刺激する空間づくりにつながることに期待を寄せた。

パブリック向けクイックタンク式壁掛便器

床置タイプ

床置タイプ

パブリック向けクイックタンク式壁掛便器
https://www.lixil.co.jp/lineup/toilet/quick_tank_wall_mounted_toilet/

使いやすさとメンテナンス性に優れた壁掛便器に、クイックタンクを搭載したINAX「パブリック向けクイックタンク式壁掛便器」が登場。給水接続口径は従来のタンク式と同様の15 Aでありながら、洗浄間隔は従来のタンク式の半分の約20秒を実現。フラッシュバルブ式便器のように連続洗浄が可能。薄型タンクの採用で、配管スペースをしっかり確保。専用ライニングの高さは900㎜から対応することができる。便器交換だけでトイレ改修できるコンパクトな床置便器タイプも用意。小規模ビルなどのトイレ空間のリフォームに最適。

雑誌記事転載
『商店建築』2020年4月号 掲載
https://shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=359