INTERVIEW 025 | SATIS

自分が建築になって、環境を掴む。

設計:長谷川豪/長谷川豪建築設計事務所|建主:Mさま

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これは、北海道ニセコに作られた、化粧品ブランドのお店兼カフェ、そしてオーナーの住宅です。オーナーのMさんの趣味の良さ、暮らしへの美意識が建築と重なり、ここを訪れる人に、透き通るような空気感を感じさせてくれるのです。

この建物はニセコの街のはずれを通る主要な国道沿いに建っています。誰にも目の留まる場所です。静かなニセコですが、国道沿いともあって、交通量はそこそこあります。騒音のことを考え、国道からの距離をとりたいと考えたこと、また国道と反対側にある小さな川(第二カシュンベツ川)に接する敷地の条件を考慮して、そのせせらぎに望むように、また敷地の等高線に合わせてつくられています。訪れた人が、国道の喧騒から離れて、同時に川や自然を見ながら、そしてせせらぎの音のロッジア(張り出した屋根の下の空間)への響きを聞きながら、自然への没入感を作り出したかったそうです。さらに、透明感、開放感のある、壁のない建築を作りたかったとも。そして中に入ると細長い空間と、Vの字の柱と柱の間に入ったときに感じる囲まれた感じも大事にしたそうです。この長い庇は、音を反射するレフ板でもあり、さらに光の色が一日の中で変化していくことを感じられるような環境を映し込むスクリーンなのだそうです。
また建物と川の仕切りは透明なガラスになっていて、そこの斜めのガラスがこの建物を特別なものにしています。垂直の壁に比べて、境界をやさしくしているのです。この斜めへの興味も長谷川さんの処女作(森のなかの住宅)以来のテーマでもあり、水平垂直だけでない優しさや環境との調和を図る上で、重要な要素になっているようです。

配置図

配置図(クリックで拡大)

平面図

平面図(クリックで拡大)

断面図

断面図(クリックで拡大)

細長い空間

幅1.9mの室内に、倍の長さの屋根があり、長さは52mという、細長い平屋の建築です。長谷川さんの建築には、4層分もある建具(ドア)とか、家の真ん中にある異様に大きな床のようなテーブルとか、その対象が持っている意味を打ち壊すように、違ったスケールにすることで、違う意味へと、その対象を変化させてきたような印象があります。今回の建物も確かに、長く低く、そして蛇のようにうねった建物には、そうしたスケールの操作というものを感じます。しかし取材を進めるにつれて、少し違う印象を持ち始めました。

玄関から入ってカフェギャラリー側を見る。

玄関から入ってカフェギャラリー側を見る。窓面から川のせせらぎが見える。床が緩いスロープになっていて、入口側ではカウンターに、奥に行くとベンチになっている。

玄関前の看板や、ちょっとしたディスプレイ
玄関前の看板や、ちょっとしたディスプレイ
玄関前の看板や、ちょっとしたディスプレイ
玄関前の看板や、ちょっとしたディスプレイ
玄関前の看板や、ちょっとしたディスプレイ
玄関前の看板や、ちょっとしたディスプレイ

玄関前の看板や、ちょっとしたディスプレイにオーナーの自然感が表れている。
ガラス越しに見える風景とガラスに反射する映像が重なる。

ニセコの自然観

長谷川さんはニセコの自然観は、北海道一般とは違うように感じています。北海道には地平線まで続く様な雄大な風景のイメージがあるのに対して、ここニセコでは起伏があり、見下ろす、見上げる風景が特徴的です。また天気も変わりやすく、四季というより、一つの季節がさらに分かれるほどの、変化に富んだ景色を生み出していると感じるそうです。

うねった長い建物。川の形に沿っている。

うねった長い建物。川の形に沿っている。

北側の景観、奥に見えるのは羊蹄山、国道からできるだけ離れた場所に配置されている。手前には円形の庭と、その右側は桜の木の庭がある。

北側の景観、奥に見えるのは羊蹄山、国道からできるだけ離れた場所に配置されている。手前には円形の庭と、その右側は桜の木の庭がある。

桜の庭からの眺め

桜の庭からの眺め

自分が建築になる(建築の大きさで環境を捕まえる)

長谷川さんは、「自分が建築になって環境を捕まえる」という表現をしました。大きな軒庇は、まるで川の音や、光を反射するためについているかのようです。さながらそれは、大きな耳や、特殊な波長を感じる目のようです。見たこともないようなこの建築という生き物が、この環境の中で、呼吸し、動いているような感覚です。
機能が建築を作るというより、自分が建築になって、その場の環境と対峙することで、自分の大きさや形を作り出していくのでしょう。ですので、そこには、住宅とかお店とか、さらには公共建築や商業施設であれ、プロジェクト規模とは無関係に、建築を通して作り出す、自分の身体感覚で感じる、スケールや形というものがありそうです。その形や空間に機能をおさめていくのです。長谷川さんは、今後も非住宅であっても、この方法の延長でどのような規模のものでも作れると言います。

川からの見上げ、川のせせらぎが、清涼感を感じさせる。

川からの見上げ、川のせせらぎが、清涼感を感じさせる。

建物の前には、雑草の庭が施されている。季節ごとに違った表情を見せている。

建物の前には、雑草の庭が施されている。季節ごとに違った表情を見せている。

施工の段階は設計途中。

現場が始まると、長谷川さんは何度も現場に行きます。そしてできあがるまでの途中の状態を見て、デザインの方向を再調整することも度々とか。それは自分が建築になったときに感じる感じ方が、実際に出来始めるとより鮮明になってくるからなのかもしれません。その意味では今回はニセコという遠距離での仕事、一番の課題は自分自身が頻繁に現場に行けないことが課題だったとのこと。このことは建築になって環境を感じるという言葉が、その場に過ごして、長い時間いることで感じたり対話したりという経験の重要性も示唆していたのですが、今回は時空を超えて、東京のオフィスの中にいながらもニセコの環境を自分が建築となって感じているかのようでした。この現場との距離も、むずかしさと同時に、新たなチャレンジへの一歩であり、意識の中の環境という、実際の現場での感覚とは少し違った一歩引いた新たな環境を感じるアプローチなのかもしれません。
実際にこの建物で感じる、自然との対話は、確かにここを訪れるたびに、新鮮な気づきを与えてくれているのです。この新たな建築との向き合い方は、今後の長谷川さんにとって大きな転機になるようにも思います。

建物の真ん中にあるトイレ

トイレが隠れた場所にあるのではなく、建物の真ん中にあえて出ていること。一番気持ちの良いロッジアの延長上にトイレを配置し、入り口周りが素敵に演出されています。この気持ちの良い場所にトイレを置くのは、とてもチャレンジングなことです。トイレも隠さずに建築と一体にしていることもこの建築の特徴と言えそうです。

トイレ詳細図

トイレ詳細図(クリックで拡大)

トイレ
トイレ
トイレ

トイレの前からも川を見ることができる。隠すのでなく、気持ちの良い場所にトイレを配置している。

住居側のトイレは従業員も使います。コンパクトで清潔感を保つ様なトイレです。元々住宅を作ることを考えていなかったのですが、この素晴らしいロケーションに魅了されたオーナーが途中で、ここに住みたいと言ったことで、この住宅とカフェとの間に、その双方をつなぐ、設備類が入ったのです。出来るだけ個性を出さないようにニュートラルな空間にする上にも、この白いサティスは一役買っているようです。

オーナー及び従業員トイレ

サティス Sタイプ/ピュアホワイト

取材・文: 土谷貞雄
photo: 森崎健一 ※特記なき写真全て
(2022年8月26日 ZOOM、撮影は8月2日ニセコにて)

長谷川 豪(はせがわ ごう)
1977年 埼玉県生まれ
1996年 埼玉県立大宮高等学校卒業
2000年 東京工業大学工学部卒業
2002年 東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了(塚本由晴研究室)
2002年から2005年まで、西沢大良建築設計事務所勤務
2005年 長谷川豪建築設計事務所設立
2009年? 東京工業大学、東京理科大学、法政大学非常勤講師
2012年? 2014年 メンドリジオ建築アカデミー(スイス)客員教授
2014年 オスロ建築大学(ノルウェー)客員教授
2015年 東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻博士課程修了、博士(工学)
2016年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(アメリカ)客員教授
2017年, 2019年 ハーバード大学デザイン大学院(アメリカ)客員教授

受賞
2005年 SD Review 2005 鹿島賞
2007年 第9回東京ガス住空間デザインコンペティショングランプリ
2007年 東京建築士会住宅建築賞金賞
2007年 第28回INAXデザインコンテスト金賞
2008年 第24回新建築賞
2014年 AR Design Vanguard 2014

著書
「考えること、建築すること、生きること」、2011年、INAX出版
「Go Hasegawa Works 長谷川豪作品集」、2012年、TOTO出版
「石巻の鐘楼 ふたたび建てる建築」、2012年、誠文堂新光社
「カンバセーションズ -ヨーロッパ建築家と考える現在と歴史」、2017、a+u
「a+u 556 Go Hasegawa」、2015、LIXIL出版
「El Croquis 191: Go Hasegawa 2005-2017」、2017、El Croquis

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公開日:2022年09月27日

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