INAXライブミュージアム10周年特別展「つくるガウディ」<Vol.1>

未完のガウディ建築─コロニア・グエル教会を読み解く

日置拓人(建築家、南の島工房)

『コンフォルト』2016 December No.153 掲載

ガウディの独創性に迫る

展示設計を担当する日置さんに話を聞いてみよう。「地下聖堂は名建築だと実感しました」。開口一番、日置さんは目を輝かせる。「ガウディ自身が建築に向きあって、これをつくりたいんだと思いを込める姿勢が、より純粋に伝わってくるんです」。その姿勢が建築の独創性を生み出しているという。
「ガウディが生きた20世紀初頭は鉄骨造のように新しい技術が出てきた時代ですが、それを使わず、伝統的な技術や材料で、どこにもない新しい建築を追い求めたのです」。1898年に設計依頼を受けてから10年間、ガウディは逆さ吊り構造実験を行い、それをもとにコロニア・グエル教会をデザインした。
組積 そせき 造で上に伸びるドームのカーブを、ガウディは逆さ吊り実験によって追求したんです。本来、ドームは効率よく大きな内部空間をつくるために、横に広げていこうとするのが普通です。でもガウディは広さよりも上昇を求め、独創的なかたちで精神性を表そうとしました。ほかにそんな建築家はいないでしょう」現存する地下聖堂は薄いレンガを用いたカタルニア・ヴォールトと呼ばれる伝統工法と手加工の石柱で支えられた空間である。装飾という視点からは、左官や素朴な味の破砕タイルだけでなく、組積煉瓦で構造と同時に豊かな装飾を意図していると日置さんはいう。また、材料の扱い方などを見ていくと、構造実験をもとにしながらも、ガウディが現場で職人たちと対話しながらつくりあげていることもわかってくる。
日置さんの役割は、展示のフォルムの設計、さらに下地づくりまで及んでいる。下図のように企画展示室の天井高さいっぱいの約5メートルまで、アーチを描くフレームを鉄筋で立ち上げ、細かい目の金網を張って3次曲面をつくっている。これが一筋縄ではいかないむずかしさ。日置さん自身が現場スタッフと一緒に張っているのだ。これから左官の土と、タイルでどのようなセッションが繰り広げられるか、おおいに楽しみたい。

日置拓人 Takuto Hiki
1969年神奈川県生まれ。早稲田大学工学研究科修士課程修了。左官・久住章氏のもとで、自然素材を活かした有機的な設計を行う。INAXライブミュージアムでは「土・どろんこ館」「建築陶器のはじまり館」「テラコッタパーク」を設計。
南の島工房一級建築士事務所 http://hikitakuto.world.coocan.jp/home/
人物と模型撮影/梶原敏英

コロニア・グエル教会の展示用作図と模型

左上/展示用フレームの平面図。左下/これまでの研究者の成果資料を参照 して地上部の高さを設定し、地下聖堂の平面図に対応させたフレームの立面。右/「つくるガウディ」展示制作の ためのフレーム模型。形状は左図の一部と地下を省略し、エントランスを付加したもの。一番高い塔の上部は会場 の天井付近でカットされる。周囲の足場は丸太組み。展示スケールは4分の1。以上3点制作:日置拓人

取材・文/清水 潤

INAXライブミュージアム10周年特別展

会期/11月5日(土)~2017年3月31日(金) ※展覧会終了

つくるガウディ──塗る、張る、飾る!

第1会場「土・どろんこ館」企画展示室

建築家日置拓人がコロニア・グエル教会に着想を得て空間を設計、左官の久住有生とタイル職人の白石普が、会期中、公開制作で装飾を施していく。制作は主に週末に実施する。日時や詳細は下記WEBサイトやFacebookページなどで告知の予定。

つくるガウディ──実測で読み解く

第2会場「世界のタイル博物館」企画展示室

田中裕也が、約40年にわたり実測し制作してきた、ガウディ建築の手描き図面を展示。徹底した実測から見えてくるガウディ建築の秘密とは。

INAXライブミュージアム(PART OF LIXIL)
愛知県常滑市奥栄町1-130_tel 0569-34-8282
開館/10:00?17:00(入館?16:30)
休館日/第3水曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始
共通入館料/一般600、高・大学生400、小・中学生200
https://livingculture.lixil.com/ilm/

雑誌記事転載
『コンフォルト』2016 December No.153掲載
https://www.kskpub.com/book/b479876.html

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公開日:2017年07月31日