トイレで環境を考える?!――藝大生がつくった上野トイレミュージアムオープン

『コンフォルト』2020 October No.175掲載

うんちタイルを〝ものづくり工房〟で

腰壁のタイルを排泄物からデザインしたのは工芸科で陶芸を専攻する田中泉さんと大槻莉子りこさん、保坂朱音あかねさん。当初建築サイドでは本物の排泄物を粘土に混ぜるといった案を持っていたが、焼くと焼失することがわかり断念。壁を覆うには合理的な量産も必要だ。仕切り直して愛知県常滑とこなめ市にあるINAXライブミュージアム内の「LIXILものづくり工房」で製造することにした。陶芸の3人が動物のうんちタイルの色のイメージを求めて常滑を訪ね、ものづくり工房が古くから持っている見本資料から使いたい色、テクスチャーを選んだ。「陶芸の勉強をされているだけに、味わいがあり、僕たちにとっては調整が難しいものばかりをチョイスされました」と笑うのは工房の芦澤忠さん。素地色、焼成温度、酸化還元の有無などがそれぞれに異なるタイル種を、同一条件で焼成してテクスチャーを再現するために、釉薬ゆうやくのレシピに調整をかけた。複雑な表情を出すために、一つずつ筆で施釉したものもある。工房の見本資料はデータを長年蓄積してきたもので、「僕たちにとっては大切な財産ですね」と芦澤さんは言う。再現の技術も培われている。当初の原形デザインが途中で変更されたときも、釉薬の流れ方などを考慮して微妙にレシピを変えた。進化した形状を見たとき、学生たちが幾何学的な本来のタイルの世界に踏み込んだことを、芦澤さんは実感したという。
曲面のブース内は動物の野生の生活環境が描かれ、便座に腰掛けると目の前のドア面にほぼ等身大の臀部を見せた後ろ姿に対面する。ぐるりと巡る腰壁には排泄物の形やテクスチャーからデザインしたタイルが張られ、L字型の手摺りは真鍮の鋳物で、モチーフは動物たちの獲物や食物。擬音装置からは再現した鳴き声と背景音が流れる。やってきた人たちがこの空間で用を足しながら、どんなことを感じてくれるのか、その反響をプロジェクトに関わった学生たちは胸震わせて待っている。

LIXILものづくり工房を訪ね、タイルを学ぶ

昨年8月、陶芸の3人はINAXライブミュージアム(LIXILの文化施設)内の「LIXILものづくり工房」を訪れた。歴史的な装飾タイルを見学し、その表現の豊かさに引き込まれた。(*)

ものづくり工房のタイルの見本資料から動物のイメージに合った色、テクスチャーを選ぶ。「何色と特定できない自然の色に近づけたいと思い、こだわった質感や複雑な色を選びました」と田中泉さん。(*)

ものづくり工房の芦澤忠さんが持っているのは、3人が見本資料から選んだタイルを、同一条件で焼成して色、テクスチャーを再現できるよう、釉薬などを調整し、焼成試験をしたサンプル。(**)

焼成試験の結果を当初のデザインに反映し、焼成試験。

焼成試験の結果を当初のデザインに反映し、焼成試験。

11月にデザイン変更。進化した形状で再度の焼成試験、その後、釉薬や施釉法を微調整し、生産工程へ。

写真提供:東京藝術大学(*)、LIXILものづくり工房(**)

ものづくり工房

LIXILものづくり工房

愛知県常滑市奥栄町1-130
tel 0569-34-8710
https://livingculture.lixil.com/ilm/ceramicslab/

ファサードデザインにも注目!

エントランスでは、内部から外に向けて建築専攻がデザインした唇のようなスチールプレートの両袖が設けられ、デザイン科によるサインが、来訪者を招いている。改修前は左右の壁面にルーバーが設けられていたが、撤去してスチールプレートに。通風、採光を兼ね、うんちタイルの形状をアレンジし打ち抜いた。正面の壁画はデザイン科が手掛けた。動物たち・ヒトと消化器官のシルエット。デザイン科のメンバーが科内で仲間を集め、ワークショップで仕上げた。

上野トイレミュージアム ファサードデザイン

DATA

上野トイレミュージアム

所在地/東京都台東区上野公園
改修/2020年8月
施主/東京都
設計・監理/東京藝術大学美術研究科建築専攻 中山英之研究室
施工/東海建設
建築面積/49.95㎡
制作/東京藝術大学 美術研究科絵画専攻油画+壁画、美術研究科デザイン専攻、音楽研究科+音楽学部、美術研究科工芸専攻鋳金+美術学部工芸科陶芸
タイル制作協力/LIXILものづくり工房
オープン/2020年9月7日

自然循環を体感! 動物たちとのトイレタイム!

パンダブース

パンダブース

竹林の中で後ろを振り返り、何かを気にしている様子のパンダ。竹は食べ物であり、竹の繊維がいっぱいの排泄物をデザインしたうんちタイルが腰壁に張り詰められている。手摺りも竹の形の真鍮鋳物。右手のボタンを押すと鳴き声と背景音が流れる。これらの構成は各ブース共通。ベビーチェアは男女のパンダブースに設けられている。

キリンブース

キリンブース

草原には高い木の枝に首を伸ばす姿も描かれている。

ライオンブース

ライオンブース

迫力ある臀部。シマウマの群れは狩猟のターゲット。

トリのモザイク壁画、仕上げ中

トリのモザイク壁画、仕上げ中

小便器の壁面では、トリのモザイク画の最終仕上げ。モルタルでピースを貼り込む。トリはハト、スズメ、ハクセキレイ。植物はボタン、スイセン、ツバキなど。

ペンギンブース

ペンギンブース

群れで泳ぐ。海中には好物のカタクチイワシなどが。

パンダブース

パンダブース

男女のブースで表現が異なる。

取材・文/清水 潤
撮影/淺川 敏(特記をのぞく)

雑誌記事転載
『コンフォルト』2020 October No.175
https://confortmag.net/no-175/

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公開日:2021年06月23日