清潔でよりくつろげる空間へ

LIXILトイレ進化論

井戸田育哉(LIXIL)

『コンフォルト』2017 October No.158 掲載

真下からのシャワーはゆるがない基本機能

国産化で苦労したのは、日本人に最適なノズルの位置と角度をどうやって決めるかだった。当時、ノズルは便座でなく便器側にセットされており、一定の位置でぴたりと止まるようになっていた。肛門の位置に関するデータは医療機関にもなく、最適な位置を割り出すためには、社員に協力を仰ぐしか方法はなかった。
臀部の粘土型をとり、モックアップをつくり、実験しながら検討したという。「このときに採用したのが、おしりのほぼ真下から水を当てて、汚れをしっかり落とすという考え方です。これはわが社のシャワートイレの基本機能で、現在も変わりません」と井戸田さんは言い切る。垂直に近く、洗浄した水がノズルにかからない約75度の角度を割り出した。シャワートイレの目的をはっきりと見据え、清潔でありたいと望むユーザーの気持ちを捉えるものだった。

レディスノズルからは女性に目を向けた開発へ

井戸田 育哉 Ikuya Idota
1957年生まれ。学生時代は電気工学を専攻。入社時に、サニタリーナの仕事をしてみないかと誘われ現場に配属された。「おもしろそうだな」と思ったという。シャワートイレの製造、メンテナンス、マーケティング、販売など、なんでも行ってきた。90年代以降は合弁会社のディレクター、海外工場の立ち上げなど、世界を駆け回る。シャワートイレ第一人者として、常に新しいことに挑戦し続けている。

井戸田さんが入社した76年には、普及を図るために、コストが抑えられるシートタイプ「サニタリーナF1」も発売された。既存の便器の便座を交換するだけで、シャワートイレにできる製品だ。
「開発当初、シャワートイレは1台ずつ完全な手づくりでした。モーターや送水ポンプ、ヒーター、サーモスタットやファンなどの部品を調達し、常滑の本社工場の片隅で自分たちで配線し、組み立てていました。生産台数は年間で数百台ほどでしたからラインを組むには及びませんが、お客さまは全国にいらっしゃいます。当時は故障も多く、全国から修理の依頼が入りました」。電気系統に不具合が起きると、しばしば井戸田さんたちは作業服をスーツに着替えて顧客を訪ねた。「修理が終わると、お客さまがいろいろなことを話してくださる。それが次の開発、改良にたいへん役に立ちました」。
なかでも大きかったのは、女性がビデの機能を望んでいるとわかったことだった。シャワー洗浄をビデとして利用している女性も多かった。そこで、81年発売の「サニタリーナC1」では「チャーム洗浄」という付加機能を初めて実現。レバー操作でシャワー洗浄ノズルを移動させ、ビデとしても使うというものだった。これが「おしりとビデは洗う部分も違うし、洗い方も違うでしょう」という女性たちの声によって、さらに進化していった。88年の「シャワートイレ500シリーズ」で女性専用の「レディスノズル」が誕生し、2本のノズルが装備されたのである。
「レディスノズル」は大きなターニングポイントだったと井戸田さんは振り返る。「ここでシャワートイレは完全に女性に目を向けた製品になりました」。これをきっかけに女性の立場に立ったシャワートイレをつくる方向へ開発がシフトしていった。
「いまは男女を問いませんが、当時はトイレを掃除するのは女性のかたが多く、清潔に、掃除をしやすくという強い思いがありました」。井戸田さんが修理のために便器本体からシャワートイレを外すと、「そこの隙間をずっと掃除したかったんです」と訴えるような声がかかるのを何度となく経験した。「女性の視線がやがて、2000年代のお掃除リフトアップ機能や、継ぎ目のないキレイ便座につながっていきました」。
 90年代の便蓋・便座が自動開閉する「フルオート便座」や、「フルオート便器洗浄」も、ユーザーの声に耳を傾けて生まれたものだった。

LIXILの技術を各国のデザインと融合、世界に清潔さと快適性を

いま、シャワートイレは新たな局面を迎えている。「ヨーロッパから輸入し、50年かけて熟成させた良さをあらためて世界の国々に知ってもらいたい」と井戸田さんは言う。「そのためには、われわれが進化させてきた技術を、各国の暮らしやデザインと融合させ、その国に合わせた製品にして受け入れてもらうことが大切です」。それはちょうど、50年前にクロス・オ・マット61を日本人に合わせて国産化した記憶とも重なる。
すでにLIXILのグループ企業のグローエやアメリカンスタンダードの衛生陶器にシャワートイレの技術が活かされ、海外市場で高い評価を得ている。「この快適さはまちがいなく世界に広まると思います。まだ、知られていない快適機能も開発されます。ぜひ期待してください!」。井戸田さんの一言で、シャワートイレの未来ががぜん楽しみになった。

やきもののテクノロジーと高度な生産技術

常滑・榎戸工場では、サティスなどやきものの衛生陶器を、24時間体制で焼成している。知多工場ではシャワートイレの部品の生産、組み立て、出荷が一貫して行われ、高品質、最先端の製品を送り出している。

シャワートイレが世界に広がる

今年3月にドイツ、フランクフルトで開かれた世界規模の水まわり展示会ISH 2017(注3)では、LIXILが50年にわたり培ったトイレ開発の技術力と、グループ会社であるGROHE(グローエ)の洗練されたデザイン力を融合し、共同開発したシャワートイレSensia Arena(センシア アリーナ)を出展。多くの来場者に注目され、高い評価を得た。アクアセラミックの便器と独自の水流、シャワーノズルによる洗浄機能、エアシールド脱臭など、清潔さを保ち快適な空間をつくる先進の機能を搭載している。
注3 International Sanitary and Heating 2017

50年磨きぬいた清潔さと快適性が現代の美と融合。技術は世界へ

SATIS Gタイプ(2016年?)
おしりとビデの洗浄機能、清潔さ、掃除のしやすい機能、快適機能などの先進技術を搭載したタンクレストイレ。シャワートイレの美しい進化形が空間を演出する。
SATISスペシャルサイト_URL: https://www.lixil.co.jp/lineup/toiletroom/s/satis/

取材・文/清水 潤 撮影/梶原敏英(*)

LIXIL SQUARE
時代を先取りしたシャワートイレの誕生
URL: https://www.lixil.co.jp/madeby/history/sanitarina_61/

LIXILのデザイン&テクノロジー
URL: https://www.biz-lixil.com/column/technology_design/

LIXIL
URL: https://www.lixil.co.jp/
お問合せ: tel. 0570-017-173
受付時間: 平日 9:00?18:00 土・日・祝日 9:00?17:00
(ゴールデンウィーク、夏期休暇、年末年始などをのぞく)

雑誌記事転載
『コンフォルト』2017 October No.158掲載
https://www.kskpub.com/book/b479881.html

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公開日:2018年04月30日