海外トイレ取材 3

ラグジュアリー・ホテルから学ぶこと

浅子佳英(建築家、タカバンスタジオ)

今回は趣向を変えてホテルのトイレ空間(バスルーム)のデザインについてレポートしてみたい。というのも、この企画では、これまでさまざまな文化的、社会的背景からパブリック・トイレについて語ってきたが、トイレ空間のデザインそのものについては詳細に触れる機会が多くはなかったため、近年ロンドンとニューヨークにオープンした(そしてトイレ空間のデザイン・レベルがとても高い)2つのホテルについてレポートしようと思う。

ホテル・カフェ・ロイヤル(Hotel Café Royal/デイヴィッド・チッパーフィールド設計、2012)

ひとつは、ロンドンに2012年にオープンしたデイヴィッド・チッパーフィールド設計による《ホテル・カフェ・ロイヤル》。もうひとつがニューヨークに昨年(2017)オープンしたばかりのヘルツォーク&ド・ムーロン設計による《パブリック》である。ともに都市の中心部に建つ大型のホテルだが、《ホテル・カフェ・ロイヤル》はピカデリー・サーカスのすぐそばにある歴史的建築物のリノベーション、《パブリック》はマンハッタン南東部に新築でつくられた建物と、その立地や背景が違うだけではなく、空間もずいぶんと異なる。そしてその違いは水まわりの設計によく表われていた。

まずは《ホテル・カフェ・ロイヤル》から見ていこう。立地は前述のようにロンドンの中心部のひとつであるピカデリー・サーカスの目の前。社交場としても有名な場所だった「Café Royal」を含む3つの歴史的建築物をリノベーションしたホテルである。外部は基本的にそのままだが、内部は当時の意匠を残しつつも現代的なデザインと巧みに融合させている。エレベーターホール、ロビー、カフェ、階段など見所が多いが、面白かったのは廊下である。敷地の形状に沿って蛇行し、その奥には鋭角の三叉路が現われるので、延々に終わりが見えず不思議な感覚をもたらしている。多くの場合、誰もが使うのにもかかわらずもっともつまらない空間になってしまうホテルの廊下を特別な空間にしているところは見事だ。

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》外観
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》エントランス
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》階段
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》カフェ
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》廊下

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》
外観(上左)、エントランス(上右)
階段(中)
カフェ(下左)、廊下(下右) 蛇行する三叉路。騙し絵のような不思議な光景。床はカーペット、壁と天井は木製パネル、所々に見える穴が客室への入り口。

部屋の内部は、窓以外は基本的にすべて新しくつくり替えているので、なにかを残しているというわけではないが、現代的でありながらクラシックな雰囲気を穏やかに醸し出すデザインになっている。

さて、ようやく水まわりだが、プランは玄関+クローゼットの先にベッドルーム、さらにその先にバスルームというように、最も奥にバスルームが置いてあるタイプ。内部はトイレとシャワーブースが洗面+脱衣所に並列に並んでいる。外壁面に面しているので明るく爽やかなイメージである。最奥に水まわりを持ってくるというプランは、バスルームに窓を設けるという機能上の要請からきていると思われる。また、洗面スペースからはトイレとシャワーブース内の器具は見えないようにすることで、同サイズの2つのアルコーブとして扱われている。

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》寝室
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》洗面
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》洗面より寝室を見る
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》シャワー
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》トイレ

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》
寝室(上左)、洗面より寝室を見る(上右)
シャワー(中左)、トイレ(中右)
洗面(下) 左手に窓、右奥にシャワー、右手前にトイレ。

仕上げは床と壁は石張りで、天井はプラスター仕上げ。色はともに白色ながら素材感を感じるものが選ばれており、そこにブロンズが差し色で入る。とくに壁は、四周を45度に面取りした(板チョコレートのような)ビアンコカララが使われており、これが重厚かつ軽やかな独特の雰囲気をつくりだしている。ディテールはわずかな線一本まで消し去り、ある意味ではミニマルで完璧に納めきっているが、水洗金物や窓など要所要所にクラシックなモノとしてのデザインをあえて使用し、それらが総体となって現代的かつクラシックな雰囲気をつくっている。筆者がとくにうまいと思ったのは、拡大鏡が埋め込まれたパネル部分で、このパネルに受話器、照明のコントローラー、コンセントといった現代的なモノをまとめて配置してある。これらはとくに線を消していくと目立ってくるのでうまいやり方だ。ダウンライトも特注。リムを真鍮にして厚みを消し、金色に光る穴に見えるように工夫してある。排水溝は大理石。

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》壁に埋め込まれた拡大鏡
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》壁に埋め込まれた拡大鏡
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》ダウンライト
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》排水口

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》
壁に埋め込まれた拡大鏡(上左右)
ダウンライト(下左)、排水口(下右)

ベッドルーム内部のデザインもとてもよくできていて、ヘッドボードやコンソール、サイドテーブル、クローゼットに至るまで、家具も含め、なにかを借りてくることなく、きっちりとデザインしつくしている。いまや完全に巨匠といった雰囲気のデイヴィッド・チッパーフィールドだが、かつてはKENZOなどのブティックを手掛けていることもあって、インテリアや家具、さらに素材や色彩の使い方もうまい。なにより色気がありながら品がある。このあたりは日本人とは違う感覚だ。

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》 ベッドルーム

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》 ベッドルーム 照明が取り付けられたパネルにスイッチとコンセントをまとめて配置している。

また、共有部にあるトイレは通常の男女に分かれているタイプで、内部は客室内部のデザインと基本的に同じ。濡れた手を乾かすのは紙やハンドドライヤーではなく(高級ホテルによくある)タオルが積んである。このあたりはいつか変わるのか、それとも変わらないのか気になるところだ(そもそもどれくらいの歴史があるのだろう)。こちらのトイレもプラン上は最奥にありながら外部に面しているために自然光が入ってくる。細かい部分だが、建築家の思想がよく表われている。

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》共用トイレ入り口
デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》共用トイレ洗面

デイヴィッド・チッパーフィールド《ホテル・カフェ・ロイヤル》
共用トイレ入り口(上)
共用トイレ洗面(左) 洗面カウンターの背面に大きな窓が2つ付いている。

パブリック(PUBLIC/ヘルツォーク&ド・ムーロン設計、2017)

《パブリック》が建つのは、マンハッタンのロワー・イーストサイド。数軒隣にはSANAA設計による《ニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート》が建っている。マンハッタンの南西側のエリアは、ハイラインがオープンしたこともあって、再開発真っ只中のハドソンヤードを含め、かなり観光地化しているが、このあたりはまだ雑多な雰囲気が残っているエリアだ。

上述のように建築設計はヘルツォーク&ド・ムーロン。ただ、オーナーがフィリップ・スタルクとともに数々のデザインホテルを生みだしてきたイアン・シュレーガーなので、両者のタッグと捉えるべきだろう。

《パブリック》のコンセプトは「Luxury for all.」。世界中でもっとも宿泊費の高いマンハッタンにおいて150$で最高のサービスを受けられるホテルをつくろうというものだ(日によっても違うので筆者が宿泊した時は倍ほどの価格だったが、それでもニューヨークでは安い)。もちろん、それを実現するために無駄だと思えるようなものは徹底的に削ぎ落としている。フロントにドアマンはいないし、レセプションもなし。チェックインはiPadで、ルームサービスもなし。そのかわり、高速のWi-Fiがホテル内のどこでも使え、客室はどの部屋にも大きな窓が付き、広さも十分。さらには、1階のカフェ、2階のレストラン、B1階のアートスペース、屋上のルーフトップ・バーなど、街に開かれたスペースをいくつも用意している。削れるものは削る一方で、必要だと思えるものにはコストを惜しまない設計になっている。そしてそれは建築においても同様だ。

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》外観
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》エントランス
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》エスカレーター
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》カフェカウンター

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》
外観(上左) エントランス(上右) 入口の回転ドアを開けると正面にエスカレータが鎮座している。
エスカレーター内部(下左) 全面銅板張りでいわゆるインスタ映えする空間。
エスカレーターの裏にある巨大なカフェカウンター(下右) 食材の並ぶ活気のある場所。

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》ショップ
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》ラウンジ2階
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》ラウンジ2階

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》
ショップ(上)
2階ラウンジ(中、下) 昼間はホテルのロビーといった雰囲気だが、夜になるとクラブ状態になっていた。

その肝心の客室だが、《ホテル・カフェ・ロイヤル》とは対照的で、トイレとシャワーブースはミラーガラス張りの箱の中に収まっており(脱衣はトイレ部分で行なう)、洗面はベッドルームの玄関側の通路部分に設けてあるタイプ。構成としては、玄関+洗面スペースの隣にトイレ+シャワーブースがあり、洗面スペースの先にベッドルームというプランになっている。バスルームに窓はなし。ただ、全面開口なので部屋の奥まで光は入ってくる。シンプルなスケルトンの躯体の中に、水まわりのボックス、ベッドのボックス、洗面カウンターを含む什器がオブジェのように置かれているだけで、天井などはコンクリートのスラブのまま。このあたりも割り切るところは割り切ってあり、それが現代的な心地よさを生んでいる。

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》水まわりのボックス
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》トイレ
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》シャワー

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》
水まわりのボックス(上)
トイレ(下左)、シャワー(下右)

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》ベッドルーム
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》洗面
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》コンクリートむき出しの天井

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》
ベッドルーム(上左)、洗面(上右) 寝室側にあるのでミニバーとしても使用できる。
コンクリートのままの天井(下) 水回りの上部だけは一段下げられており、そこに自動火災報知設備、スプリンクラー、空調などをまとめて配置してある。水回りの配管もここに納めていると予想される。

共用部のトイレは地下と屋上の2カ所あり、どちらも凝ったつくりになっていた。まず、地下のトイレにはエントランスが2つあり、男性用と女性用かと思いきや、なかでは繋がっており、中央に巨大なシンクが鎮座している。その両側から男女が使うかたちだ。さらにその奥に男性用と女性用のドアがあり、そこに個室が並ぶという構成である。シンクの前に鏡はなく、背面に丸い鏡が並び、小さなカウンターが取り付けられている。以前に取り上げた《クレーラー・ミュラー美術館》(「海外トイレ取材 1 ヨーロッパの美術館のトイレについて」)と同様のタイプだが、《パブリック》では男女共通の部屋にして中央にシンクを設けてあるために、中央に仕切りをつけたくないということもあったのだろう。プラン上でも工夫が見られ面白い。また、イアン・シュレーガーといくつものホテルを手掛けたフィリップ・スタルクのトイレのデザインは有名で、それまでの暗く見せたくない場所からデザインする場所へと変えたという意味で、スタルクの果たした役割はとても大きい。今回のこのプランは昨今のジェンダー問題へのひとつの解答だと捉えることもできるので、ここでも、その思想が引き継がれているように思えた。

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》地下共用部トイレの男女共用シンク
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》男女共用シンクの水洗金物
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》小便器

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》
地下共有部トイレの男女共用シンク(上) 奥に見える黒いドアは男性用(写真では見切れているが女性用は右側にある)。このドアの中に小便器×2と大便器×2個のブースが収まっている。
男女共有シンクの水洗金物(下左) ハンドソープもペーパーホルダーも艶消しの黒。
小便器(下右) 床はコンクリート、壁はモザイクタイル張り。

もうひとつの屋上のトイレは、ルーフトップ・バー用のもの。こちらの洗面スペースは全面ガラス張りで、トイレからマンハッタンが眺められるようになっている。SO – ILも紹介していたハイラインにある「スタンダード・ホテル」(「建築家メール・アンケート 3 SO – IL」)はブース内がガラス張りで、用を足しながら眺望が楽しめるというものなので、こちらに比べれば可愛いものだが、それでも初めて訪れた時には驚かされた(トイレ内部はあまりの大渋滞だったため撮影できず)。

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》屋上のルーフトップ・バー
ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》屋上のルーフトップ・バー

ヘルツォーク&ド・ムーロン《パブリック》
屋上のルーフトップ・バー(上、下) 夜は歩けないほどの大盛況。(すべて筆者撮影)

今回は、近年ロンドンとニューヨークにできた2つのホテルを見てきたが、どちらもラグジュアリーなホテルではあるが、その思想の違いがとてもよく表われていた。片方は歴史を現代的なかたちで解釈するもので、片方は歴史を改革するためのいわば実験であり、それが《パブリック》という名称にも繋がっている。ただ、「パブリック」といいながら、最低限のものにするのではなく、ラグジュアリーを目指していることは興味深い。そして、このことは、「パブリック・トイレのゆくえ」というこのコラム企画を考える際にも示唆を与えてくれる。

また、「パブリック・トイレのゆくえ」という企画でありながら、今回なぜホテルの水まわりを扱ったのかと言えば、いわゆる公衆トイレだけでなく、商業施設などのトイレも公共のトイレとみなされるようになってきている傾向についてはこれまでも何度か述べた通りだが、現在はきわめて閉鎖的な集合住宅(とくにタワーマンション)が今後街に対して開放的になっていくなら、ホテルがその参照元になると思われるからである。現在でもそうだが、ホテルは宿泊客だけの非常に閉じられたつくりのものが多い。そうした状況のなか、イアン・シュレーガーをはじめとする先人たちの挑戦によって街に開かれたホテルも生まれてきた。そして、もし集合住宅を街に対して開放するなら、そこにはトイレが必用になるだろう。それはホテルのトイレと近いものになるのではないか。そして、スタルクがトイレを特別な場所として設計した背景には、ホテルを街に開くという状況から要請されたとも言えるのではないだろうか──開くといっても公衆トイレと同じというわけにはいかないのだから。もちろん、セキュリティやプライバシーなど解決しなければならない問題も多い。ただそれも、iPadでチェックインをしていた《パブリック》のように、iPhone+バーコードで個別にセキュリティをかけて(飛行機のように)チェックインするなど、テクノロジーで解決できる部分もある。なにより、《パブリック》は1階+B1階+2階の地上レベルとともに屋上を開放しており、そして本当にたくさんの人で賑わっていた。都市である以上タワーが建つのは重要である。ただそれが、閉鎖的なのか開放的なのかによって街に与える影響は大きく違う。田中元子による『マイパブリックとグランドレベル──今日からはじめるまちづくり』(晶文社、2017)にあったように、地上レベルを開放することがまずは重要だろう(個人的には屋上も開放できるとより嬉しいが……)。今後の東京の再開発でも取り入れてほしいと、切に願う。

浅子佳英(あさこ・よしひで)

1972年生まれ。建築家、デザイナー。2010年東浩紀とともにコンテクスチュアズ設立、2012年退社。作品=《gray》(2015)、「八戸市新美術館設計案」(共同設計=西澤徹夫)ほか。著書=『TOKYOインテリアツアー』(共著、LIXIL出版、2016)、『B面がA面にかわるとき[増補版]』(共著、鹿島出版会、2016)ほか。