INAX TILE PREVIEW 2018 記念講演会
建築家、谷尻誠氏 講演レポート

「はじまりについて」

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「不便さ」が、思考を成長させる 〜生まれ育った環境から〜

出身は広島県三次(みよし)市です。生まれ育った家は長屋で、玄関から台所や中庭を通り、靴を脱いで居間に上がる。ご飯は靴をはいて台所に行き、寝るときはまた靴を履いて自分の部屋に行く。風呂は五右衛門風呂で、家族に声をかけてお湯の温度を上げてもらう。子どもの頃はこの家が使いにくくていやで、とにかくいちいち考えて生活をしていました。今は、その「不便さ」に思考を成長させる要素があったのではないかと思います。不便だからこそ、使いこなした時に愛着もわく。便利な家とは、人が考えなくてもいい状況をつくるとも言えます。そこに、住宅をつくるキーワードがあるのではないか。あの不便さのおかげで、僕は今、設計ができているのではと思うことがあります。

中高時代で誇れるものは部活でのバスケットボール。スリーポイントラインからのシュートを毎日居残りで練習し、成功率を上げました。でも、試合では当然ディフェンスに阻まれ、せっかくの練習の成果が出ない。その時、気づきました。僕がスリーポイントラインに立つことは、今からシュートすると相手に伝えるサインになっていると。そこでラインから1m離れた場所に、僕だけが見えるラインを想定し、また毎日シュートの練習をしました。そうすると相手はディフェンスできない。さらに範囲が1m広がったことで人口密度が変わり、僕が外からシュートを決めるほどに、味方選手がプレーをしやすくなった。ゴールから1m離れるという、不利なコンディションにすることで、圧倒的優位性を手に入れるという経験をしました。建築の仕事を始めた時、優秀な人が多くいる状況で、誰かと比べるのではなく、バスケットの時のように、建築の常識から「1m」、離れて考えてみたらどうかと思うようになりました。

建築家、谷尻誠氏 講演

いつも意識していること 〜「逆サイド」や「間(あいだ)」が魅力的〜

基本的に性格がひねくれているので、肥沃な土地で野菜を育てるよりも、砂漠で育てる方法を考える方が、成功すれば褒められ度が高い。優秀な人の後を追いかけるよりも、自分らしい走り方をするために敢えて逆サイドのことをやってみることが、新しい価値を見つけられるのでないかと思いました。「間(あいだ)」というスタンスも好きです。道路はパブリック、住宅はプライベート。でも、家の前に置かれている植物はプライベートな所有物でありながら、パブリックな場所にあっても許される。建築物は敷地境界線を出てはいけませんが、実際は、町に個人のものが滲み出すことで風景をつくっていて、そこを考えることに建築の魅力があると思っています。「間」は、組織とアトリエにも当てはまります。アトリエは面白い仕事はあるが給料は安い。組織に行くと安定しますがしたくない仕事もさせられる。なぜ、アトリエで組織のような在り方ができないのか。建築とインテリアが分けられていることも不思議です。インテリアデザインもコンセプチュアルな建築空間も、両方獲得することができるのではないか。そういう「間」を混ぜ合わせて、ものをつくることを考えています。

プロジェクトから学んだ教訓 〜コンペティションの裏側〜

■宮島展望台(広島県廿日市市)「透明とは何か? から考えてみた」

©SUPPOSE DESIGN OFFICE©SUPPOSE DESIGN OFFICE

広島県から宮島展望台をつくるというコンペティション。建設予定地の山に登ると、すでに展望はできていて、展望台は要らないと思いました。でもそれではコンペに勝てません。要綱には、古い建物が多い宮島の町並みに調和する和風の展望台とある。展望台の存在自体がどうかと思っている僕にはしっくりこない。悩んでいた時に、透明な展望台が成立すれば、要らない派の僕と、調和させたい派の行政の考えが一緒に解けるのではと思いました。ガラスやアクリルでは構造やコストの問題がある。そこで「そもそも透明とはなんだろう」と考えました。たとえばきれいなせせらぎの川。もしここに水がなければ誰も透明とは言わないでしょう。それまで僕は、透明とはなにもないことを意味すると理解していたのですが、透明とは、なにかが透きとおって見える状態を示している。そう気づいた時、透明な建築物が設計できる確信に変わりました。

提案したのはエキスパンドメタルで柱や梁の役割を果たす構造体を形成し、遠目には存在感が消えて風景が顕在化し、近づくと構造が見えてきて建築の姿になるという、距離によって建築の現れ方が変わる展望台でした。負けました。勝ったのは和風の展望台。その時に僕が学んだことは、要綱は守りなさい、ということでした(笑)。でも、要綱通りで勝つ方がいいのか。違和感のあるまま提案をつくるのは性格上、許せない。学びつつ、今も迷いながら設計をしています。

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