2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第11回)

省エネ基準に適合させるためのカンタンテクニック![外皮性能基準編]
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

今後、皆さんは、実物件での外皮計算が必要になります。外皮平均熱貫流率 UAと冷房期の平均日射熱取得率 ηACの基準に適合しなかった場合に、どうすれば適合にすることができるのでしょうか。さらに、より高い断熱性能の住宅を目指すにはどうすれば良いのでしょうか。

今回は、断熱材の厚さを変更したり、高性能断熱材に変更することなく、外皮平均熱貫流率 UAと冷房期の平均日射熱取得率 ηACを向上させる簡単テクニックを具体的な事例(モデル住宅)を使って説明します。

モデル住宅

モデル住宅は自立循環型住宅モデルを使います。自立循環型住宅モデルとは、自立循環型住宅の設計ガイドラインのケーススタディモデルで、省エネ効果を検証する際に用いられます。

平面図

自立循環型住宅モデルは木造軸組工法の2階建て住宅で、諸元は以下の表のとおりです。

建設地 東京都千代田区
工法(階数) 木造軸組工法(2階建て)
屋根 切妻屋根(4.5寸勾配)
床面積 1階:67.91㎡ + 2階:52.17㎡ = 合計:120.08㎡
一次エネルギー消費用計算用床面積 主たる居室:29.81㎡、その他居室:51.34㎡、非居室:38.93㎡
合計:120.08㎡

各部位の断熱仕様は、省エネルギー基準の仕様規定を参考に以下の表のように設定しました。
なお、サッシはサーモスⅡ-H、ガラスはLow-E複層とします。冬期の日射取得熱を期待するために、南面は日射取得型(クリア)、その他の面は夏期の日射遮蔽を考慮して日射遮蔽型(グリーン)としました。
ガラスの種類と選定方法の考え方は、第5回コラム第6回コラムをご確認ください。

各部位の断熱仕様

部位 仕様 厚さ
天井 敷き込み断熱:高性能グラスウール断熱材
(HG 16-38 熱伝導率λ=0.038W/(m・K))
155㎜
外壁 充填断熱:高性能グラスウール断熱材
(HG 16-38 熱伝導率λ=0.038W/(m・K))
100㎜
根太レス床 大引間断熱:押出法ポリスチレンフォーム断熱材
(3種bA 熱伝導率λ=0.028W/(m・K))
60㎜
基礎 玄関は無断熱
浴室と洗面所は内断熱:押出法ポリスチレンフォーム断熱材
(3種bA 熱伝導率λ=0.028W/(m・K))
30㎜
サッシ サーモスⅡ-H ガラスはLow-E複層
南面が日射取得型(クリア)、その他の面は日射遮蔽型(グリーン)
ドア ES玄関ドアK4仕様

外皮平均熱貫流率 UA、冷房期の平均日射熱取得率 ηACの計算

UA、ηACは「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」を用いて計算します。このアプリケーションには、自立循環型住宅モデルの建物諸元データが登録されているため、外皮面積や窓寸法等の計算や入力が不要となります。そのため、初期提案時にカンタンに省エネ計算をすることが出来て便利です。

計算方法は、外皮面積の拾い出しが不要な「簡易計算ルート」と、拾い出しが必要な「簡易計算ルート」があります。
「簡易計算ルート」は標準計算ルートよりも断熱性能がやや安全側になりますが、外皮面積の拾い出しが必要ないため、UA、ηACをすぐに計算できるメリットがあります。初めて省エネ計算される場合や短時間で計算したい場合にはこのルートを用いてください。
いっぽう、「標準計算ルート」は、合理的な断熱性能にできる一方で、外皮面積をあらかじめ拾い出しする必要があるため、UA、ηACを計算するまでに手間と時間がかかります。

計算ルートの違いによる外皮計算結果の違いを確認するために、それぞれの計算を行ってみます。

① 簡易計算ルート(外皮面積を拾い出ししない方法)の計算結果

計算の結果、外皮平均熱貫流率 UAは適合しましたが、冷房期の平均日射熱取得率 ηACは不適合でした。

計算項目 省エネ基準値(6地域) 設計値 適合判定
外皮平均熱貫流率 UA(W/(㎡・K)) 0.87 0.72 適合
冷房期の平均日射熱取得率 ηAC 2.8 3.2 不適合

理由は2つ考えられます。
まず1つ目として、「簡易計算ルート」はさまざまな形状・外皮面積の住宅に対応できるように安全側に計算されるため、UA・ηACが不利側の計算結果になる傾向があります。

2つ目は、サッシの方位別の日射熱取得率の違いが反映されていないことです。「簡易計算ルート」では、窓の熱貫流率と日射熱取得率 ηが複数存在する場合は、最も高い(悪い)値で計算するルールになっています。
ガラスは、南面が日射取得型(クリア)、その他の面は日射遮蔽型(グリーン)としていましたが、グリーンよりもクリアの方が日射熱取得率 ηが高い(悪い)ため、全てのガラスをクリアとして計算することになったことが冷房期の平均日射熱取得率 ηACが不適合になった理由です。

LIXIL省エネ住宅シミュレーションソフト(簡易計算法)の窓設定の例

LIXIL省エネ住宅シミュレーションソフト(簡易計算法)の窓設定の例

これは、外壁、天井(屋根)、床、基礎についても同様で、同じ部位で複数の熱貫流率がある場合は、最も高い値(最も悪い熱貫流率)を使って計算することになります。
外皮面積の拾い出しが不要な「簡易計算ルート」は計算はカンタンですが、断熱性能や日射遮蔽対策の仕様を細かく設定した計画を行っても、その結果が反映されないデメリットがあります。

②-1 標準計算ルート(外皮面積を拾い出しする方法)の計算結果(その1)

断熱仕様やガラスの仕様は変えずに、自立循環型住宅モデルの外皮面積の値を使って計算した結果、外皮平均熱貫流率 UAと冷房期の平均日射熱取得率 ηACが適合しました。

計算項目 省エネ基準値(6地域) 設計値 適合判定
外皮平均熱貫流率 UA(W/(㎡・K)) 0.87 0.62 適合
冷房期の平均日射熱取得率 ηAC 2.8 2.2 適合

また、UAは「簡易計算ルート」での計算結果の0.72から、0.62(W/(㎡・K))と0.1(W/(㎡・K)も小さくなりました。これは外皮面積の違いによるものです。
さらに、ηACは「簡易計算ルート」での計算結果は3.2で不適合でしたが、2.2で適合になりました。これは、南面以外のガラスを日射遮蔽型(グリーン)にした仕様が、計算結果に反映されているためです。
このように「簡易計算ルート」で基準を満たさなかった場合でも、同一仕様で「標準計算ルート」で計算すれば省エネ基準に適合する場合があります。

②-2 標準計算ルート(外皮面積を計算する方法)の計算結果(その2)

次に、各部位の断熱仕様やサッシの仕様は変えないで、さらに外皮平均熱貫流率 UAを向上させる方法を考えてみましょう。それは、サッシの熱貫流率に精緻な値を使う方法です。
これまでの計算に使ったサッシの熱貫流率は「建具とガラスの組み合わせ」です。(建具とガラスの組み合わせについては、第4回コラム参照) このほかに「代表試験体・自己適合宣言値」による熱貫流率があります。

「建具とガラスの組み合わせ」は、サッシの枠の材料(樹脂・ハイブリッドなど)とガラスの仕様(Low-E複層ガラス 空気層10㎜ など)から熱貫流率が決めらています。つまり、メーカーや商品が異なっても枠の材料とガラスの仕様が同じ場合には同一性能となります。
一方で「代表試験体・自己適合宣言値」は、サッシの実性能を考慮して熱貫流率が決めらています。そのため、同じ商品シリーズの窓でも品種(引違い窓、装飾窓など)ごとに熱貫流率が異なります。また、一般的に「建具とガラスの組み合わせ」よりも熱貫流率が低くなり有利です。

ただし、「代表試験体・自己適合宣言値」の熱貫流率を使うためには、以下の仕様から熱貫流率を調べるため必要があります。

  • サッシのシリーズ・品種
  • ガラスの種類(一般複層ガラス or Low-Eクリア or グリーン)
  • ガラスの厚さと種類(透明 or 型)・中空層の厚さ

「代表試験体・自己適合宣言値」の熱貫流率の調べる手順について、サーモスⅡ-H 縦すべり出し窓(カムラッチ)Low-E複層 透明ガラス3-A10-3(中空層は乾燥空気10㎜)を例に説明します。

結果、「代表試験体・自己適合宣言値」の熱貫流率は1.95W/(㎡・K)となり、「建具とガラスの組み合わせ」の2.33W/(㎡・K)に対して約16%も性能が高い値になりますので計算上たいへん有利になります。
しかし、住宅1棟すべてのサッシの熱貫流率をこのような手順で調べる作業はかなり大変です。そのため、一般的には「建具とガラスの組み合わせ」の熱貫流率が多く用いられています。

なお、「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」を使えば、LIXILすべてのサッシの「代表試験体・自己適合宣言値」があらかじめ登録されているので、上記の面倒な作業は不要です。窓の性能区分で「代表試験体・自己適合宣言値」をクリックするだけで、自動的に熱貫流率の値が表示されるので手間がかかりませんのでぜひ使ってみましょう。

「LIXIL省エネシミュレーションソフト」窓の性能区分の選択画面

「LIXIL省エネシミュレーションソフト」窓の性能区分の選択画面

「代表試験体・自己適合宣言書」を選択するだけで、面倒な作業は一切不要

「代表試験体・自己適合宣言値」の熱貫流率を採用して計算した結果、外皮平均熱貫流率 UAは0.62から0.60W/(㎡・K)と、さらに小さくすることができ、ZEH基準にも適合することができました。

計算項目 設計値 省エネ基準値(6地域) 適合判定
ZEH基準値(6地域)
外皮平均熱貫流率 UA(W/(㎡・K)) 0.60 0.87 適合
0.60 適合
冷房期の平均日射熱取得率 ηAC 2.4 2.8 適合
2.8 適合

さらに、サッシを断熱性能の高いサーモスX(複層)に変更して、「代表試験体・自己適合宣言値」の熱貫流率を採用して計算した結果、UAが0.56W/(㎡・K)になり、HEAT20 G1のUA基準値の0.56W/(㎡・K)も満たすことができました。
このように「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」は、サッシの有利な性能値で外皮性能計算をすることができるため、省エネ住宅の最適な設計ツールとなるのです。

※ZEHやHEAT20については、第2回コラムネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)についてをご確認ください。

まとめ

今回の事例より、住宅の断熱仕様やサッシの仕様を変えなくても、計算方法を変更したり、サッシの熱貫流率に有利な性能値を採用することで、外皮性能を向上できることがご理解頂けたと思います。
特に、外皮の部位の中で逃げる熱が最も大きいのはサッシです。また、サッシの性能を良くすると快適性も向上することから、お施主様に喜ばれる省エネ住宅づくりにはサッシの性能に注目して設計を進めることがポイントになるのです。

この連載コラムを読んで実践して頂ければ、「住宅の省エネ性能の説明義務化」の準備は万全!ぜひ、この連載コラムを通して、今から2021年に向けた省エネ住宅づくりの準備を始めていきましょう。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

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LIXIL省エネ住宅シミュレーション

https://www.biz-lixil.com/service/proptool/shoene/

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公開日:2020年07月14日