住宅所有意向/住みたい家とインテリア(第4回)

20代30代の住みたい家のインテリア志向(インタビュー編)

小原隆(日経BP総研 上席研究員)

「第3回 20代、30代の住みたい家のインテリア志向」では、調査結果のデータに基づいて解説をしたが、今回は、調査結果を受けて、最近の20代、30代の自宅のインテリアへのこだわりと重視点について、第2回に続いて、『日経ホームビルダー』『ケンプラッツ』編集長を歴任し、建築、住宅事情に精通した日経BP 総合研究所の上席研究員である小原氏に話を聞いた。

20代、30代のインテリアのこだわり

日経BP 総合研究所 上席研究員
小原隆氏

インテリアは「シンプルですっきり」「使いやすさと機能性」を重視

今回の調査結果において、若い人がインテリアに重視する点として、「シンプルですっきり」「使いやすさと機能性」が上位となっています。これは、若い人はセンスがよくおしゃれなインテリアを、部屋全体の統一感とか、シンプルですっきりしていることと捉える傾向があることからも言えると思います。シンプルですっきりしたインテリアにすることによって、使いやすさと機能性の向上も図れると考えられるかもしれません。

室内にたくさん物を置くことは、使いやすさと機能性という面においてマイナスとなります。室内の物を少なくするという観点から、収納スペースを活用することで、シンプルですっきりした室内/インテリアを実現することも可能です。

「シンプルですっきりしている」ことと収納の関係性

日本の住宅は、それほど広い住居とは言えません。用途に応じた収納家具を各部屋に置こうとしても、狭い部屋の中に家具をたくさん置くのは無理な部分も出てきます。そのような状況で、家具の機能を代替するものとして、クローゼットや納戸を造り付けるニーズが出てきました。

また、日本では地震が多いこともあり、家具に対しての恐怖感があるかもしれません。特に阪神淡路大震災以降、置き家具を減らす傾向がみられます。地震で家具が転倒することへの不安から、防災という点でも実用性があるウォークインクローゼットなどをしっかり造ろうというプランが増えています。部屋の中にできるだけ家具を置かないようにする、モノを見えないようにすることで、シンプルですっきりした室内空間を好む傾向も強くなってきていると思います。

「シンプルですっきり」を選ぶ日本的な感覚

今回の好みのリビングイメージ調査の上位を見ても、シンプルですっきりした空間が選ばれています。1位の明るい木調の床と白い壁の組み合わせのリビングからは、MUJI的な空間が連想されます。

建築で何がデザイン性に優れているか、整っているかというときに、よく言われるのは縦横のラインが美しく揃っているということです。縦のラインと横のラインが揃っていて、寸法モジュールが一定にデザインされているというのが論理的にも優れているデザインといえます。その点において、尺貫法が身近な日本人は生まれ持った素養があると思います。日本で古くからある格子や障子の組子のデザインとMUJIの製品を並べた様子は、縦横のラインが揃って、モジュールがしっかりしているという点で共通しています。このようなシンプルなデザインは日本でも好まれていますが、海外でも欧米諸国にはない日本的な感覚として広く受け入れられてきています。

リビングへのこだわりは、暮らし方へのこだわり

インテリアに最もこだわりたい空間として「リビング」が選択される理由には、家で一番長く過ごす空間というのもあるでしょうし、来客との共有空間としての位置づけもあるかと思います。若い人の間では、リビングルームのパブリック性の考え方も変わってきています。リビングルームは、客間・応接間のように、来客を意識した空間づくりというよりも、住宅、リビングへの思いとして、そこに日々生活する自分たちの暮らしやすさ、快適さを重視するようになりつつあるのではないでしょうか。

今はリビングで過ごすといっても、家族みんなで団らんするのではなく、お互いの存在を感じながらそれぞれ別のことをする場面が増えています。広さが取れない住宅では、”プライベート空間が欲しいと望んでも、なかなか叶えるのが難しい”という理由もあるのかもしれません。そういう場所の代替として、ダイニングやキッチンの一部を、子どもの勉強用のスペースやワーキングスペースにあてることがよくあります。最近では階段の踊り場を書斎にするプランなども出てきています。踊り場を大きめにして、吹き抜けに面した心地よい空間を作るというのもあります。このような完全なプライバシーにこだわらない工夫した設計も目にするようになってきました。

建主が思い描くインテリアをどう実現するか

思い描く家を実現するための情報収集

インテリアの情報を入手する手段として、住宅雑誌やネット上の写真データベースの活用が挙げられます。家を建てたいと思っている人が、自分たちの理想の空間に近い住宅の写真を住宅雑誌から探し出し、該当ページに付箋を貼って設計事務所や工務店などに持参していく、というのはよく聞きます。また、最近ですと「Houzz」などのような、多数ある住宅関連の写真データベースから興味のある事例をピックアップすることも多くなっています。

建主からすると、雑誌や写真データベースに掲載されている、自分好みの空間を創った工務店や建築家は、センスを共有できる相手といえます。そのため、こうしたデータベースは思い描く家・空間を実現してくれる工務店や建築家を探す場にもなっています。このような場で建主に選ばれるには、独自のセンスをアピールする必要があります。

建主と建築家を結び付けるマッチングサービス

また、建築家などが自身をアピールする場として、自身がデザイン設計した事例・作品を登録して施主とマッチングさせるサービスもあります。例えば、「ザ・ハウス」、「ASJ(ARCHITECTS STUDIO JAPAN)」など。このようなサービスを経由して、建築家、インテリアデザイナーが、建主の求める形を実現することも可能となっています。

家づくりと同じくインテリア・内装に関しても、プロが建主を誘導しガイドする際に提案力が必要になります。建主の思いに対し、例えば、「この色ではなくてこう組み合わせるとよいですよ」などと提案できる力があるか。そのためには、プロとしてしっかりしたポリシーを持ち、建主からの要望に対しても、「それであればこのようにしましょう」ということをきちんと提案する。建主から言われたままに動くのではなく、要望をくみ入れつつプロとしての提案に昇華させることも大切ではないかと思います。

インテリア・内装提供のバリエーション

これからのインテリア・内装を提供する形の例として、(1)スケルトン部は工務店が受注し、インフィルは別の建築家が行う、(2)建売住宅で1部屋だけ施主が自由にできる、(3)建売住宅に建築家がデザイナーとしてかかわるといったような例が挙げられます。

(1)の「スケルトン部のみは工務店が受注しインフィルは別の建築家が行う」タイプは、まだ一般的ではありませんが、今後は多くなると考えます。性能を重視する流れのなかで、耐震性、省エネ性、耐久性などが高まっていることから、工務店ではスケルトン部分をしっかり造る点が重要視されています。これは、責任範囲で防水、断熱、耐震など建物に本来備わるべきところは、瑕疵保証の面からも工務店側の責任で供給しなくてはならないケースが多く、また、民法が改正されることで、工務店としての責任が更に強まることも背景にあります。工務店がスケルトン部分に注力し、インフィルはインテリア・内装の得意な別の建築家にまかせよう、という方法です。

(2)の「建売住宅で1部屋だけ施主が自由にできる」タイプもあります。建売住宅や分譲マンションで、間仕切りや内装、設備などを一定の範囲内で選べる住宅は従来からありますが、1部屋だけ、施主が自由にできる部屋を残すような形です。賃貸で壁紙を選べるのと同じような感覚で、多様な建主のニーズに応えようとする動きの1つとして挙げられます。その方法としては、建主の要望を聞いて仕上げて引き渡す、一部を未完成の状態で引き渡し内装は建主側で自由にDIYする、など様々なやり方があると思います。

(3)の「建売住宅に建築家がデザイナーとしてかかわる」といった、建築家などプロとしてしっかりとデザインができる人が建売住宅に関わるタイプも出てきています。例えば「〇〇という建築家が造った建売住宅です」という売り方をしたりすることもあります。

このような3つのタイプは、今後も様々なバリエーションが登場してくるように思います。

パートナーとの協業で相乗効果を目指す

建主が望む住宅インテリア空間を創る際に、自社で設計・施工ができればいいのですが、社内で設計ができる人を育てることが難しいところでは、外部の設計事務所と組むケースがあります。著名な建築家に基本設計を依頼し、後は自社の設計・施工とすることで、自社ではできないデザイン性の家ができます。建主に対してはいい宣伝になりますし、自社の設計者にとっては外部との協業により力が付いてくるなどの効果が生まれます。

最近では、大手企業においても、社内で全てを完結させるのではなく、自社の弱い分野については、よりその分野に強い企業、知見を保有している企業と協業して、相乗効果を生み、新しい付加価値をつくるということがなされています。

自社のカラーを打ち出し、不得意分野は他社に任せる

私たちがよく言うのは、得意でない分野は、無理に自力じゃなくて他力本願になった方がいいということです。自社だけで完結しないで、他社と協業することで不得意分野をカバーした新しい提案が生まれます。顧客の様々なニーズにこたえるために提案力を上げるには、社外との協力体制をつくることも有効でしょう。

設計事務所は、施工者を選ぶ際に相見積もりを取ることが多いですが、最近では、都度パートナーを選定するのではなく、組むパートナーの工務店をあらかじめ決めているケースも増えています。組む相手を毎回毎回、相見積もりを行って選択するのは手間もかかりますし、意思疎通するのに時間もかかります。できる設計事務所は、できる工務店と組むというのが最近の動きです。

このような協業をする場合に、パートナーとして選ばれる工務店でないと、相見積もりでコスト競争になってしまい、安定した事業を展開できなくなります。自社の得意分野を持ち、その部分を気に入ってもらったうえで協業したいと思われる工務店になれば、継続的に事業を行っていくことができるのではないでしょうか。

小原隆(おばら・たかし)

日経BP 総合研究所 上席研究員
専門分野 建築、住宅、マンション、まちづくり、省エネ、建材・設備、木材
神戸大学工学部建築学科卒業後、建設会社で大手ディベロッパーのマンションやオフィスビルなどの設計を担当。1996年日経BP社に入社。『日経アーキテクチュア』『日経コンストラクション』編集記者、『日経ホームビルダー』「ケンプラッツ』編集長を経て、2016年4月から現職。

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公開日:2020年03月25日