文化活動を賑わいとしてまちに映し出す高崎芸術劇場

境静也、多々良邦弘(佐藤総合計画)

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薄暮に浮かび上がる高崎芸術劇場(撮影:新建築社写真部)

2019年9月20日、再開発で変貌を遂げつつあるJR高崎駅東口に、市民が待ちに待った「高崎芸術劇場」がオープンした。
群馬県高崎市が「音楽のある街 高崎」と言われる所以は、地方管弦楽団の草分け的存在「群馬交響楽団」が地元実業家の尽力で1945年に創設されたことに始まる。その音楽活動の拠点となった「群馬音楽センター」は、1961年、市民の寄付金を基に建設された。アントニン・レーモンドの設計で広く知られ、折板構造の特徴的なデザインは高崎を代表する文化施設として長く市民に愛されてきた。建設から59年が経ち老朽化したことで、新たな音楽・文化活動の拠点が求められていたのである。
新しい音楽ホールは、2010年に同市が発表した「高崎市都市集客施設基本計画」において計画され、公募型プロポーザルが行われた。最優秀に選ばれたのが佐藤総合計画案で、賑わいの創出、高崎らしさの提案、隣接する再開発事業との繋がり、などが高く評価された。
今回は、佐藤総合計画で建築設計を担当された境静也氏と多々良邦弘氏に、設計に込めた思いと、LIXILの特注品で施設を特徴づけている栗梅色のテラコッタタイルを中心にお話を伺った。

境静也氏(佐藤総合計画 取締役 本プロジェクト設計総括)
多々良邦弘氏(佐藤総合計画 東京第1オフィス チーフアーキテクト)

賑わいを映し出すスクリーンとなる建築

——建物全体のコンセプトをお聞かせください。

境氏:「高崎市都市集客施設基本計画」では、栄えているJR高崎駅の西口に対して、東口を再整備して活性化することが求められたので、まちのロケーションについて少しお話します。
JR高崎駅の西口は現市街地で、市庁舎、図書館、美術館、群馬音楽センター、商店街、宿泊施設などが集積しています。特に、群馬音楽センターはレーモンドの設計として有名で、群馬交響楽団の本拠地でもあります。約2000人がワンフロアで収容できるホールがあり、ホワイエは公園に大きく開いていて、薄暮にホワイエの鮮やかな壁画と人々が都市に浮かびあがる景観は大変美しく、長く高崎の文化芸術を牽引してきた建物です。ところが老朽化と舞台の狭さなどの点で、新たな文化創造の場が待望されていました。
一方の東口は、駅と関越自動車道・高崎玉村スマートインターチェンジをつなぐ都市の主動線上で、これから発展が期待される新市街地エリアです。そこで高崎市は、東口に文化、オフィス、商業、宿泊などの都市機能を集約し、それらの相乗効果によって都市の発展をねらう「高崎市都市集客施設基本計画」を策定しました。その音楽ゾーンに位置するのが高崎芸術劇場です。この劇場は、文化の力で都市力を高め、賑わいを作り出す役割を担っていると考え、提案をまとめました。
今回の提案で一番大切に考えたことは、施設内の活動を全部まちに映し出すスクリーンとすることでした。大劇場だけでなく、ホワイエやロビー、ラウンジ、エントランス側に開かれた練習室で、市民の方々が練習している光景が通りから見えることによって、それが文化発信となり、市民活動がどんどん活発になっていくというストーリーで組み立てました。


JR高崎駅周辺の主な施設(提供:佐藤総合計画)

施設内の活動が全部まちに映し出されるスクリーンとなるような建物を目指した。館内の活動が見えることで、文化発信となり、まちの賑わいにつながる(撮影:新建築社写真部)

ペデストリアンデッキからつながる高崎芸術劇場2階のエントランススクエア。回廊に沿って配置されたスタジオ群がガラス越しに見通せることで、建物内部でも市民活動を伺うことができる(撮影:新建築社写真部)

——施設構成と設計のポイントとなったテラコッタタイルの大壁面についてお聞かせください。

多々良氏:高崎芸術劇場は、大劇場、音楽ホール、スタジオシアターの3つの主要なホールと、プロから市民の方々までさまざまな形で利用できるスタジオ群で構成されています。これらを、アプローチや静粛性などに配慮しながら、エントランススクエアの吹き抜けに水平、垂直方向に配置しています。特に、大劇場の内部は高揚感を高める赤色で統一し、その外側となる壁の色彩も連動させて、高さ14m、総間口60mにおよぶ栗梅色のテラコッタタイルの大壁面を作りました。栗梅とは「栗色の梅染」が略されたもので、江戸時代から使われていた色彩です。この高崎の伝統的な草木染を由来とする栗梅の色彩は、時代に左右されない普遍性も感じられ、文化芸術の殿堂にふさわしいということで、テラコッタタイルで再現しました。

境氏:テラコッタタイルの壁面は高さがあるので、3つの面に区切られているようにずらして貼るなど、タイルの存在感を出しつつ、単調さを防ぐ工夫をしています。段の分かれ目には金属板が入っているのですが、この出幅なども微妙に変えています。ここではBIM※を使って割付けを検討し、最終的にはモックアップを作り、目地幅や位置を決めました。テラコッタタイルの断面には色がついていないところがあるので、そこは人の目線から見えないように工夫するなど、モックアップを見て確認できたのが良かったと思っています。

※BIM(Building Information Modeling):建物の構成要素と構造を三次元のデジタルモデルとしてデータベース化し、企画・計画・設計・施工・運用・維持管理までの建築生産プロセスを効率化する支援ツール

多々良氏:テラコッタタイルは異なる3種類の波打つ形状の曲面タイルで構成しています。LIXILさんで曲面タイルのサンプルを見たことがありました。焼き物独特の施釉のムラが、曲面の谷に向かって緩やかに色のグラデーションを作っていた。曲面だからこそ単色ではない本物としての味わい深さが出ている。それがすごく心に響いたんですね。ですから曲面の角度は何度も検討し、試作を繰り返しました。
さらに、タイルに艶を持たせることで光の反射効果が加わり、優雅さが生まれました。オペラカーテンのひだのようで、非日常の世界への期待感を高める効果があります。オープンした様子を見ましたが、ねらい通りにうまく効果が出ていたと思いました。


焼き物の存在感に圧倒されるテラコッタタイルの大壁面。動きのある3つの面に見えるよう金属板で区切るなど、壁面の単調さをなくす工夫がなされている

大劇場ホワイエ壁テラコッタタイル展開検討図(提供:佐藤総合計画)

テラコッタタイル3種の断面形状図(提供:佐藤総合計画)
3層吹き抜けのホワイエ空間。オペラカーテンをイメージしたというテラコッタタイルの壁面は、優美さと非日常性を兼ね備え、人々の印象に残る空間になっている

約2000席の大劇場。全体を栗梅色に統一し、劇場独特の高揚感を生み出した。あらゆる演目に対応するため、通常のホールより間口が広くなっている。壁と天井の音の反射面の工夫と、1階から2階への勾配を強くすることで、観やすさと聴きやすさに優れた鑑賞環境を実現している

音楽ホール。木の縦ルーバーの背面に約1mの空気層を作り、響きを調整する残響可変装置を格納。生演奏に特化したホールとなっている。客席413席、車椅子2席(撮影:新建築社写真部)

スタジオシアター。分割昇降床機構によって床面がフルフラットになり、スタンディングで約1,000人まで収容可能。舞台の奥行きも三間、五間、七間と変更できるので、多様な演出に対応できる(撮影:新建築社写真部)

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公開日:2020年07月29日

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