住宅をエレメントから考える

〈塀〉再考──現代において塀は必要か

増田信吾(建築家)×齋藤直紀(慶應義塾大学助教)

『新建築住宅特集』2018年9月号 掲載

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住宅作品における〈塀〉

まず全体を通して、塀という建築要素が建物から切り離されていることが多いからか、または建築として重要とされていないからか、建築写真に写っていないことが多いことに気がつく。それは年代が古いほど顕著で、住宅のファサードとされるものは塀の中からの全景や裏庭からの構図がほとんどで、街並みが分からない事例が大半だった。そのためここで取り上げるべき事例も取りこぼしている可能性は否定できないが、それに比べ後半になるにつれて、街並みからの構図が増え、図面にも塀も含めた周辺環境や敷地境界が細かく記述され、境界や周辺に対する明らかな思考が感じ取れる。都市や現代住宅が個々で成熟しきった現代において、これらは住宅がどこに建つか、そして住宅によってその場所がどう変わるかという、住宅が向かうべき未来への具体的な挑戦の現れともいえよう。
このリサーチを通して概ね6つのアプローチを見つけられた。1枚の壁を出発点としているもの、塀が生んだ住宅地の見慣れた風景を操作しているもの、敷地境界を入り組ませているもの、建物と塀を一体化しているもの、塀の上に建物を乗っけているもの、これも塀なのかと思わせてくれるものである。それらを通してこれからの街並みと住宅の境界にある塀について再考する。

1枚の壁を出発点とする

場所に1枚の壁があるだけで、向こう側とこちら側が生まれ、隔たりと繋がりという関係性の基準ができ、場の構造が一変する。光があれば壁が影を生み、風が吹けば壁は流れを変え、何かを向こう側と遮る。住まいの中の何をこちらに留め、何が向こうへ超えるか。1枚の壁をめぐる思考は、とてもシンプルで根源的だ。
「内庭・外庭の家」は、住まいと庭を少しずらして施された1枚の塀によって接道面からのプライバシーを守り、道側にも庭をつくることで、塀と家のズレや塀の上をまたがる木々によって庭が一体となる。それが周辺の植栽とも連動して開かれることで、住宅地の中の一角の姿勢が大きく変わる。「葉山の小屋」は、1階内部の床と庭、そして緩やかな曲線を描く塀を同じように見立てることで、敷地内と敷地外が繋がっていく。その伸びやかさを邪魔しないように塀の厚みは抑えられ、構造は顕在化しない。インテリアの質が劣化なしで敷地からこぼれ出る。「ウチミチニワマチ」は、老朽化したブロック塀を解体し、接道面に新たにつくられたエキスパンドメタルを折り曲げてつくられた塀のみで、住まいと公共空間の狭間に存在する工作物の可能性に集中し、既存の住宅と庭と道の緩やかで明確な関係性を再構築した。一方「桃山ハウス」は、住宅の内外に現れてくるたくさんの建築要素や外構要素をバラバラなこととして扱い、残した既存ブロック塀が重要な基準になりながら、敷地の外の塀や電柱や植物らとも渾然一体に建築を創造する試みで、場に力強く根差す。

「内庭・外庭の家」(本誌1408)「内庭・外庭の家」(JT1408)
「J」(JT0712)「J」(JT0712)
「屏風(ヒンプン)ハウス」(JT0303)「屏風(ヒンプン)ハウス」
(JT0303)
「葉山の小屋」(SK1005)「葉山の小屋」(SK1005)
「ウチミチニワマチ」(JT0911)「ウチミチニワマチ」(JT0911)
「白楽の住居」(JT1707)「白楽の住居」(JT1707)
「桃山ハウス」(JT1708)「桃山ハウス」(JT1708)
「十条の集合住宅」(SK1608)「十条の集合住宅」
(SK1608)

見慣れた風景の操作

ブロック塀に対する規定は、阪神・淡路大震災後、建築基準法に加わっている。それにより低く積んだブロックを土台とし、そこから軽量金属や樹脂製の柵を立てることが一般的となり、都市の風景が少し変わったように思うが、もともと関東大震災により撲災を目的として生垣や簡易な柵をブロック塀にするところから現代の日本の住宅地の風景や成り立ちがあり、結果としてブロック塀は日本の住宅地の見慣れた風景となった。「十条の集合住宅」、「dadahouse」、「川西の住居」では、その定着したイメージと意味性を操作することで境界への影響を実施している。「十条の集合住宅」は、コンクリートブロックを使用した外観、そして周辺住民にも開かれた道としての共用部を用いて、街並みと建物の共有性を図っている。「dadahouse」は、ブロック塀は道路境界に置かず、建物の中に入り組ませることで、どこにでもあるような住宅地に建つひとつの住宅が周辺と融解し、近隣関係が築かれることを目論む。「川西の住居」は、接道面の1階外壁の敷地内セットバックとその仕上げをコンクリートブロックにすることで、密集した住宅地に広がりを持たせた。現代の日本人が潜在的に持ち合わせてしまった塀のイメージを公共と私有の境目に見立て、敷地内部に納まってしまうのではなく敷地の外までを計画の対象とすることで、境界が入り組む。広がりのある街並みや風景に塀としての有効性はあるかもしれない。

「桃山ハウス」(JT1708)「桃山ハウス」(JT1708)
「十条の集合住宅」(SK1608)「十条の集合住宅」
(SK1608)
「三層に積む」(JT1404)「三層に積む」(JT1404)
「dada house」(JT1002)「dada house」(JT1002)
「川西の住居」(JT1401)「川西の住居」(JT1401)

境界が入り組む

「宮ノ谷の家」も、接道面の塀を敷地内にセットバックしている。そのスペースを外庭とし、2階のテラス庭を塀を越えて張り出し、オーバーラップさせることで住宅から周辺へと接続する。以前「私の家」を訪れたとき、増築した2階のコンテナが塀を飛び越え、境界ギリギリに脚が落とされる様を敷地の外にいながら体験した。その生き生きとした都市と住まいの躍動的関係が建築以上に忘れられない。塀が隔たりとしての基準になった上で、敷地内の要素が外側と交差したとき、境界を超えたひとつの自由を感じる。塀で一旦遮ってそれを乗り越えるという方法から打って変わって、「アトリエビスクドール」は敷地を一体的に捉え、外からの不必要な視線を遮る塀としても機能する4つの輪を空中で交差させながら、庭と住まいが混ざり合った複雑な境界を設定することで、その体験を道へも共有している。「上高田の集合住宅」では、敷地境界の塀と住戸同士を分ける界壁をエキスパンドメタルにすることで、閉鎖的になりがちな集合住宅1階を閉じているようで開放的に繋げ、一帯に奥行きと広がりをもたらす。奥が見えるようで見えなかったり、周囲へ閉鎖的でもあり開放的でもあったり、矛盾する事象を境界で扱うことは街並みに大きな影響を与えるため、公共的な資源価値を問われる。

「dada house」(JT1002)「dada house」(JT1002)
「川西の住居」(JT1401)「川西の住居」(JT1401)
「宮ノ谷の家」(JT0705)「宮ノ谷の家」(JT0705)
「私の家」(SK5703他)「私の家」(SK5703他)
「アトリエ・ビスクドール」(SK1002)「アトリエ・ビスクドール」
(SK1002)
「内露地の家」(JT0902)「内露地の家」(JT0902)
「上高田の集合住宅」(SK0808)「上高田の集合住宅」
(SK0808)

建物と塀が一体化する

「e-HOUSE」は生活のプライバシーや外部への広がりを確保する上で、地面から切り離れた高さにあるメッシュで包んでいる。それをやすやすと超える植物のたくましさが外からも目立つ。間口の狭い細長い敷地に計画された「laatikko」は、その長手方向に2mに満たない幅の地下が暗渠になっている路地があり、それをこの住宅の重要な要素として取り込む。片持ちスラブでできた「縁」とした半屋外を敷地境界ギリギリまで設け、路地と生活を適度に仕切る外装を施している。外装1枚を頼りに生活が公共と適度な距離感を保ちながら共存する。豊かな緑を含めた周辺要素は鈍く全面に映り、路地を一体的な空間にする。穴の空いた箱が三重入れ子になっている「HOUSE N」は、外側、さらには中間層も立体塀のようで、敷地の中に入るといつの間にか家の中へ、逆にいつの間にか街に出ていく。壁と開口部の入り組んだ曖昧な境界設定が都市の中に住むことのイメージを刷新している。「ハウス・イン・ニュータウン」の敷地を囲む塀は、前面道路側の既製品アルミサッシを組み合わせてできた大きな窓に見える外壁と交差し一体化することで、そこが大きながらんどうとなり、住まいが公共に歩み寄る。当たり前のことであるが、そうして外壁と塀が混ざることや塀がないことは、建物と塀の間の緩衝帯がなくなるので、住まいと周辺環境がよりダイレクトに関与する。「AHOUSEFOROISO」では、周辺環境への積極的なアプローチを、1階の内外壁や床や天井の素材に込めている。それは敷地の残土を練り込んだ左官仕上げによって全体がデコボコした地形のような、洞窟のような空間となりながら、ちょうど同じような高さの生垣や石垣が並ぶ周辺風景のもうひとつとして参加する。2階には木造の小屋が乗っかり、そこが静かな寝室となる。

「アトリエ・ビスクドール」(SK1002)「アトリエ・ビスクドール」
(SK1002)
「内露地の家」(JT0902)「内露地の家」(JT0902)
「上高田の集合住宅」(SK0808)「上高田の集合住宅」
(SK0808)
「e-HOUSE」(JT0607)「e-HOUSE」(JT0607)
「gather」(JT1002)「gather」(JT1002)
「laatikko」(JT0911)「laatikko」(JT0911)
「house N」(SK0809)「house N」(SK0809)
「ハウス・イン・ニュータウン」(JT1412)「ハウス・イン・ニュータウン」
(JT1412)

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公開日:2019年10月30日

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