コミュニケーションの核となるオフィスキッチン

馬場正尊(OpenA)× 若原強(KOKUYO)× 石原雄太(LIXIL)

『商店建築』2019年4月号 掲載

  • facebook
  • twitter

Typology 4──執務室とキッチンの配置から四つのタイポロジーに分類

オフィスキッチンの配置のタイポロジー

リニア型
執務空間に隣接/連続しているタイプ

  • 小規模オフィスやシェアオフィスなどに向いている。
  • 視認性が高いことから吸引力が高く、人が集まりやすい。
  • 社内コミュニケーション促進に効果的な配置。
リニア型

コモン型
共用空間に隣接し、執務空間とは分離されているタイプ

  • セキュリティ外に会議室などがある大企業に向いている。
  • 社外(来客)との交流を生むきっかけとなる。
  • 企業のPR、ブランディングに貢献する。
コモン型

コネクト型
異なるスペース間をつなぐ動線上に配置されたタイプ

  • 部署ごとに執務空間が分かれている企業に向いている。
  • モードの切り替えが自然に行われる。
  • 偶発的なコミュニケーションを生む配置。
コネクト型

ノード型
それぞれ独立した執務空間の結節点となるタイプ

  • 複数フロアで構成あるいは分棟型のオフィスに向いている。
  • 目的性を高めた居心地の良い空間。
  • 外部(社外、街など)に開き、よりパブリック性の高い配置。
ノード型

Topicsオフィスの水回りの新提案

仕事の効率をアップするトイレ

オフィスキッチンと共にトイレの提案も行われた。LIXILでは性別違和など性の多様性に対応すべく、男女共用トイレの研究を進めてきた。男女共用によって余裕を持ったトイレの配置が可能になり、豊かな共有スペースを生み出せるという発想だ。今回は、トイレ内の行動分析から考察された目的別のトイレを提案。学校やオフィスでは、トイレで行う行為として、一人で食事をとる、昼寝、LINEやメールなどが挙げられ、プライベートな場所として使われているケースが増えていると指摘されている。また公共のトイレでは、インターネットの閲覧、メール、着替え、歯磨き、化粧直し、ストレッチなど、執務室ではおおっぴらにできない、さまざまな行為が行われていることが分かっている。これらをリフレッシュのためのポジティブな行為ととらえ、唯一ひとりで過ごせる場所として有効利用して、仕事効率を上げる提案だ。フリーアドレス化などによる、居場所のなさによって生じるストレスから逃れる場所にもなる。楽屋、瞑想、仮眠、香る、着替え、ゲームといった、ユニークなコンセプトのトイレを、街並みのようにつなげるプランが提案された。

香るトイレ

香るトイレ
花やアロマの香りによって、リラックスできる。柔らかな曲面によって構成されたフェミニンな雰囲気

楽屋トイレ

楽屋トイレ
いわゆる「女優ミラー」、カウンター、洗面器、イスを備える。広めのスペースで、着替えも楽に行える

瞑想トイレ

瞑想トイレ
落ち着いた和の雰囲気で、ゆったりと瞑想の時を過ごしながら、良いアイデアが浮かんできそうだ

Case Study 8──キッチンを導入している八つのオフィスを訪問し、利用実態を調査

リニア型

CASE 1:Under Construction/Un.C.

オープン・エーの事務所兼シェアオフィスのキッチン。幅4000㎜、奥行き1200㎜のキッチンがガラス張りのエントランスから見える場所にあり、オフィスの顔となっている。本体はコンクリートブロック、カウンターはステンレス製。高さは1100㎜で、立ち仕事をするのにも適している。キッチン側は給排水設備のため200㎜程床をふかし、高さは900㎜。キッチン側に立つとオフィス全体を見渡せる。IHクッキングヒーターやアンダーカウンター型冷蔵庫、浄水器水栓などを備え本格的な調理が可能。背面のカウンターにはコーヒーミル、炊飯器、オーブンレンジ、フードプロセッサー、エスプレッソマシン、製パン機など調理家電や食器類が揃い、自慢の料理をふるまう人もいる。キッチンの管理はシェアオフィスのコミュニティマネージャーが行っているが、汚れて困ることはないそうだ。

Under Construction/Un.C.

【DATA】床面積:445.09㎡/オフィス利用者数:60人

CASE 2:KOKUYO 東京品川SSTオフィス

東京・品川シーズンテラス18階、広大なワンフロアを使ったコクヨ東京品川SSTオフィス。文具や家具など事業部の垣根を越えたコミュニケーションをテーマに、デスクをフリーアドレス化し、6割以上を共有スペースに割いている。東西をつなぐメイン動線に、交流のハブとして設けられたのがコーヒー専用カウンター「DRIP&DROP」。コーヒー豆やドリップの道具を揃え、社員自らが10分程かけてハンドドリップのコーヒーを淹れている。異なる事業部の社員が偶発的に出会い、インフォーマルなコミュニケーションによって柔軟な情報共有が行われ、課題解決のスピードアップにも役立っている。給排水設備のないドライキッチンで、サイネージに仕事関連のニュースを流し、会話のきっかけをつくる工夫も。コミュニケーションが誘発される場が生まれている。

KOKUYO 東京品川SSTオフィス

【DATA】床面積:4820㎡/従業員数:730人

CASE 3:Tigerspike

オーストラリア・シドニーで創業したデジタル・プロダクト開発会社タイガースパイクの日本オフィスは、4分の3が執務スペースで、その他がソファラウンジとキッチンコーナー。IHクッキングヒーターを備えた本格的キッチン、コーヒーサーバーのあるカウンター、可動式の屋台風カウンターと、三つの食の拠点が存在する。「良い環境と良い文化をつくる」をモットーに、他国の拠点で行っているプログラムを日本独自のものに発展させている。隔週金曜日に行われる「フライデーランチ」では、ランダムに選ばれた3名の社員が全員分のランチを調理する。キッチンに人が集まり、人工芝のスペースやソファで食べる姿も。社外で仕事をすることも多いスタッフが会してコミュニケーションをとる場となっている。

Tigerspike

【DATA】床面積:440㎡/従業員数:21人

コモン型

CASE 4:Designit Tokyo

デンマークに本社を持つ戦略デザインファームDesignitには、世界各国からスタッフが集まる。そのチームビルディングのため、毎週月曜に朝食をとりながらミーティングを開き、隔週金曜にはシェフがキッチンで調理を行い本格的なランチを提供。「同じ釜の飯を食う」ことが、さまざまな文化的背景を持つスタッフに一体感を与えている。キッチンは幅2800㎜、奥行き1200㎜のアイランド型。主にミーティングを行うフロア(7階)に設置され、ワークショップスタイルのプレゼンテーションを行うクライアントに対し、普段とは違う空間、時間の流れを感じさせる効果もある。庶務を担うオフィスマネージャーが管理を行い、朝食をつくったり、季節ごとのドリンク、お菓子などを用意。キッチンカウンターにはハイスツールを置き、フリーアドレスのデスクとしても活用している。

Designit Tokyo

【DATA】床面積:253㎡(7階127㎡、8階126㎡)/従業員数:13人

CASE 5:MIDORI.so NAGATACHO

東京・永田町のメンバーシップ制ワークスペース「みどり荘永田町」。マンガ家の集ったトキワ荘のように、人のつながりから新しい仕事が生まれる場として企画され、家庭のリビングのような雰囲気が特徴。メンバーは個人のデザイナーや企業の新規事業部など多彩で、コミュニティーマネージャーがメンバー同士をつなぐ。キッチンはフロアの奥まったスペースにあり、アイランド型キッチンとバーコーナーを備える。アイランド型は黒いモザイクタイルを全面に貼り、幅3000㎜、奥行き750㎜、高さ900㎜。IHクッキングヒーターを備え、週に2回程料理研究家などが来てランチを提供。中央の円卓に集まることで、出会いを生み出している。バーコーナーの天板高さは1100㎜で、製氷機を備えパーティーの際に活躍する。紅茶やコーヒーの専門家を招き、お茶のケータリングも行うこともある。

MIDORI.so NAGATACHO

【DATA】床面積:409.69㎡/オフィス利用者数:150人

CASE 6:Nagatacho GRiD

ガイアックスが運営するコミュニティビル「永田町グリッド」。その2階に設けられた「ガイアックスコミュニティ」は、社員と外部のメンバーが混在して利用するオープンスペースで、入り口近くに幅4.1mのL字型オープンキッチンが置かれている。同社がテーマとするシェアリングエコノミーを具現化した場所として、外部に閉じられたオフィスの垣根をとり払い、社内外の人々が居場所をシェアすることが目的。今までにない発想やつながりを生み出すことを目指した実験的な空間である。キッチンでは1階の食堂(CASE8)のランチが提供され、ガイアックスコミュニティに登録すれば、コーヒーサーバーも利用できる。若手社員にとってこの健康的なランチはオフィスに通う大きな理由の一つ。他に、地下1階イベントスペースや6階レンタルスペースにもキッチンを備えている。

Nagatacho GRiD

【DATA】床面積:413.4781㎡(2階のみ)/オフィス利用者数:120人

コネクト型

CASE 7:三菱地所 SPARKLE

三菱地所本社オフィスの移転に伴い、大手町パークビルに新設されたカフェテリアが「SPARKLE」。以前は部署ごとに部屋が分かれ、社員のコミュニケーション不足が課題だった。そこで偶発的な出会いが組織の原動力を生むという考えの元、フリーアドレス化により流動性の高いオフィスを実現。更にコミュニケーションを活性化するため企画された。ファミレスのようなボックス席や窓際のカウンター席、ビッグテーブルなど多様なスペースを用意し、ゲストとの打ち合わせやパーティーに使われることも。1日あたり400名程の利用がある。キッチンの前にはビュッフェカウンターが並び、支払いや出入りのセキュリティーは指紋認証で行う。社長や役員も一緒に食事をとり、経営陣を身近に感じるようになったという声や、異なる部署の社員ともカフェテリアで顔を合わせた際に気軽に相談でき意思決定が早くなったという声も。併設されたカフェは無料で朝食を提供し、早朝出勤の促進に役立っている。

三菱地所 SPARKLE
三菱地所 SPARKLE

【DATA】床面積:11719㎡/従業員数:約800人

ノード型

CASE 8:tiny peace kitchen

ガイアックスの新規事業として、社員の荒井智子さんが中心となり「やさしさの連鎖する経済圏をつくる」をテーマに設立した食堂。永田町グリッド(CASE6)の1階にあり、社員食堂的な機能を担いながら、周辺の一般客も利用でき、独立採算で運営されている。荒井さんは以前から、社会人が安心して外食できる場所が少ないことに疑問を持ち、独立して社会の拠り所となる食堂をつくりたいと上役に申し出たところ、社内ベンチャーの一環として事業を興すことをすすめられた。“おかんのごはん”を毎日食べようがコンセプトで、日替わり定食は1000円。社員は500円で利用でき、会社が500円補助している。店内のイス、テーブルは可動式で電源やWi-Fiを完備し、オフィスとしても利用可能。充実した社食を維持するには莫大なコストが掛かるが、ここは社食として機能しながら会社の負担は少なくて済む。一方、食堂側にとって安定した需要はありがたく、バランスの良い補完関係が成り立っている。

tiny peace kitchen
tiny peace kitchen

【DATA】床面積:123㎡

雑誌記事転載
『商店建築』2019年4月号 掲載
https://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=335

このコラムの関連キーワード

公開日:2019年09月26日

  • facebook
  • twitter